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「とにかく手を洗え!アウトドアをしていると汚れに慣れてくるものだけど、だからこそ手を洗うんだ!病原菌!ウイルス!寄生虫!エトセトラエトセトラ!外は怖いもんがいっぱいだぞ!それらの害を最も手軽に無効化できるのが、手を洗って奇麗にすることだ!わかったな!」

「えとせとら?」

「先生なんだよそれ!」

「色々って意味よ!バカは黙ってなさいよ!」

「毒を少しずつとった方が免疫つくかもしれないじゃないですか!」

「奇麗にする……良い響き……洗う……うふふ……」


 これから何をするかって?

 バーベキューだよ!

 本来であれば、ここでも担任を活躍させる予定だったんだ。

 イケメンダディとして演出してやれば、サボり可能日数のおまけがしてもらえるかもって思って。

 だが、奴は腰がポンコツになった上に、クソ重い剣を『カッコいいと思われたいから』ってだけの理由で背負ってきて、戦線離脱せざるを得なかったわけだ。

 ならもう、奴の事は無視して、子供たちに大切なメモリーをプレゼントするしかないわけで。


 となるとだ、重要なのは、彼らの今後の人生にとってどれだけ有益な情報を頭に叩き込んでやれるかって事になる。

 楽しいだけじゃダメだし、楽しく無かったら覚えもしない。

 楽しくて、尚且つ為になる物でないと。


 彼らが今後の人生でバーベキューを自らの手で行うかは、俺にもまったくわからない。

 だけれど、何らかの理由で、外で炊事をすることはあるかもしれない。

 大災害だの、それこそアウトドアだの。

 もしそんな機会が訪れた時に、『まあ俺たちは、こんな状況でも火を起こせるし、肉も焼けるぜ?』っていう経験に基づいた自信があれば、きっとまったくの未経験な奴らよりも活躍できるだろう。


 まあぶっちゃけると、この世界の人たちって、俺の前世と違い、小学生でも物凄くちっちゃな火種くらいなら魔術で作り出せるから、魔獣の存在を無視するのであれば、サバイバル能力はかなり高いだろうとは思うので、この手のアウトドアに関してハードルが低いというのもある。


「松ぼっくりは、結構燃えやすいから焚き付けに使える。覚えておけ」

「「「「「はーい」」」」」

「まあ、今回はこの固形燃料使うんだけど」

「ズルじゃん!」

「ズール!ズール!」

「いいじゃないズルくて!松ぼっくり臭いバーベキューとか嫌だもん!」

「いっそ全部松ぼっくりにして盛大に火柱を上げましょうよ!」

「何かしらこれ……松ぼっくりが変な形に……エビフライ……?可愛いわね……油断ならないわ……」


 絶対にしてはいけないズルというものが世の中には多い。

 だからこそ彼らには、ズルできるところはズルするということを教えて行こう。

 その上で、何か失敗しても、それで全てが終わりだと考えないようにする図太さも教えて行かなければならない。

 都会の荒波に負けないように、今から慣れさせてやらねば。

 そういう面でも、料理って言うのはとてもいいと思う。

 成功体験も、失敗体験も、簡単に与えられるから。

 教えるってのは大変だなぁ……。

 この世界に転生してからずっと、聖羅や風雅に色々教えていたのを思い出すなぁ……。


「犀果様、子供たち全員が使えるようにまな板と包丁の準備が整いました」


 アイがキメ顔でやってきて報告した。

 うん、いつも通り無表情だけど、これは、子供たちの前でできる女感を出したいと思ってる顔だ。

 俺にはわかる。


「ありがとうアイ、流石だな」

「いえ、当然のことをしたまでです」


 見ているか子供たち、こうして相手の望むことを言ってやるのも重要なんだぞ?

 わかるな?


「アイさんって奇麗だよな……」

「ってか、大試先生が連れてきた人たち皆美人じゃね?」

「……うっ……ふ、不潔!不潔よ!」

「きっと同じ女とは二度寝ないってやつだよ!僕知ってる!」

「今に見てなさい……!10年後……いえ、8年後には、私の方が美しくなっているから……!」


 俺の伝えたい事は、全く伝わっていなかった。

 まあいいか。


 その後も、食材を切ったり、皮を剥いたりという簡単な調理を経験させて、辺りが薄暗くなるころには、炭火を起こすのも体験し、子供たちの空腹も最高潮に達した。

 全ての調理を完全に行えた者は、誰一人としていない。

 それでも、彼らはやり遂げた。

 その達成感と、食欲が、彼らが成長させる。


「さて、バーベキューの準備が整った訳だけど……お腹は空いてるかー!?」

「「「「「はい!」」」」」


 クラス全員が、心を一つにしている。


 あと、周りの大人たちも同意している。


「なら、退屈な挨拶なんてやめておこう!ただ、注意点が幾つかある!まず一つ!今回用意した食材は、果物以外、全て火を通して食べろ!生の物を触ったら、手を洗ってから他の物に触れるんだ!」

「「「「「はい!」」」」」


 これ重要。

 箸も食べる時用と調理する時用で分けようね。

 トングも用意したからね。


「もう一つ!ゴミを炭火に入れるな!燃えてなくなるように見えるけど、実際には灰になるし、強い毒性が出るものもある!ちゃんと分別してゴミ袋に捨てるように!」

「「「「「はい!」」」」」


 これも重要。

 このくらいは、前もって言っておかないとな。


 とはいえ、彼らの空腹も限界だろう。


「よし!じゃあ皆、せーのでいくぞ!せーの!いただきます!」

「「「「「いただきまーす!」」」」」


 そして戦いは始まった。

 食材は、十分用意してある。

 なんなら、子供たちが満足した後に、大人たちに振舞うための酒と食材まである。

 だが、そんな事は関係ない。

 子供たちにとって重要なのは、目の前の、肉、肉、肉だ!


「この肉はワシのじゃ!」

「あ!ソフィアさんズルい!」

「それ一番でっけー奴じゃん!大人がそういうのとっていーのかよ!」

「体がデカいんじゃからデカいの取るのは当然じゃろうが!早い者勝ちじゃ!」

「うわあああん!大試先生が生の肉食べるなって虐めるー!」

「あ……あの、大試先生!これ、私が切ったキノコで……」

「この肉の一番美しく美味しいタイミングは……今!」

「あ、もーらい!」

「ああああ!?フン!」

「あぼっ!?痛ってー!女が普通にパンチしてくんなよ!?」

「箸で刺されなかっただけ幸運だったわね……!」


 順平班だけみてもこの騒ぎだ。

 周り全体でみると、それはもう大騒ぎですよ。


「ほら!その肉そろそろ焼けるニャ!さっさと取れ!」

「わかったファムお姉ちゃん!」

「ファムちゃんすごい!コックさんみたい!」

「ネコミミ……」


「丸焼きは、中に火が通るまで時間かかる!めんどくさいからしない方が良い!」

「そうなの?シオリちゃんって物知りだねー」

「シオリちゃん!この野菜もう食べても大丈夫?」

「まだだめ!もっと甘くなる!」

「わかったー!」


「ご飯が炊けたので食べたい人は取りに来ればいいのです」

「あ……あの!下さい!」

「俺も!」

「も……萌え萌えキュンってピリカさんもしてくれるんですか……?」

「しないからさっさと持って行ってください」

「ああああああああ……!」


「イチゴましゅまろもどうぞ~♡」

「おっきい!食べていいの!?」

「火で炙って食べると面白いよー?そのまま食べてもいいけど☆」

「よっしゃー!あ、燃えた」

「貴様……」

「ひっ!?」


「「さぁ、貴方にはこの肉をあげま……これは私が提供する肉です。貴方は他の物をとりなさい。いや、ですから……」」

「すごーい!お姉さんたち、ずっと同じ動きしてる!」

「何?芸?」

「撮影する?アップする?」


 どこの焼き台も、中々楽しそうだ。

 そして、今回協力してる大人たちも、子供たちに混ざったり、別の場所で焼いてたり、それぞれがそれぞれの楽しみ方をしている。

 うんうん、これぞアウトドアだな!


「どぼちてぇええええええええええ!?」

「……だからさぁ……」


 となりで簀巻きにされたまま、きったねー顔で泣いているエルフに、肉を食べさせながら考える。

 このロリコン且つシスコンのエルフを安全に参加させる方法について……。

 うん、このまま縛っとくのが正解だな!


「大試、私もあーんして?」

「聖羅、熱いから気を付けろよ?」

「ふーふーもして?」

「…………」


 顔が熱い。

 熱帯夜だなぁ……。






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マシュマロ焼き 一度でいいから食べてみたいな…
ロリコンエルフ、一度も子供たちと触れ合えてないのか
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