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折角各々でクワガタやカブトムシ……1人クソデカカナブンだけど……を捕ったんだから、本当であれば飼育とか、標本作成までやってみたい所ではあるけれど……。
「まあ、今回は逃がすべきだな」
「「「えええええ!?」」」
「やった!ありがとう大試先生!」
「そうよね……貴方はきっと何者にも囚われない存在……七色の体色がそれを表しているわ……」
男子3人は、リリースの決定に異論がある様子。
女子2人は、これ幸いと早速虫かごをひっくり返し、中から獲物を外に落とした。
「折角とったのに何で逃がすのさ!?」
「コーカサス!俺のコーカサスなんだぜ!?」
「まだ指を嚙ませていないのに!」
うん、中々の不満っぷりだ。
だけどな……冷静に考えてみてほしい。
「お前ら、それ持ったままこの後のキャンプとかすんのか?」
「当たり前でしょ!」
「その場合、お前らのテントの中に、そのカブトムシやクワガタが入った虫かごが存在することになる」
「……そりゃ、そうだろ?」
「カサカサ……バキっ……ゴリゴリ……」
「「「…………!」」」
男子3人は気が付いたようだ。
恐らく、今までにも昆虫を虫かごに入れて過ごした経験があるんだろう。
特に、夜行性が強めのやつらを。
「そいつらは、夜中でも活発に動き回る生き物だ。寝れるか?」
「……ね、寝れるし!」
「爆睡してやるよ!」
「無理なら喉絞めて落ちますから!」
「それだけはやめろ……。まあ、お前たちが辛い思いをするのは自業自得と言えるかもしれん。だけど……女の子たちはどう思うかな?」
「「!!!」」
「大喜びだと思います!」
「キミ……ちょっと後で話あるから……」
男子2人は、自分たちの選択の結果がどうなるか、なんとなく想像がついたらしい。
残った男子1人、学校指定のジャージの下にデスメタルバンド(俺のサイン入り)を着ている奴は、日を改めて説教しようかな……。
名前、未だに覚えられんけど……。
なにせ、俺は現在のクラスメイトの名前を呼ぶのすら覚束ない男なので……。
「絶対嫌!虫となんて寝たくないわ!」
「睡眠は、美容の基本よ。それをおろそかにする事だけは許されない。例え大試先生に色目を使ってでも睡眠時間は確保させてもらう」
「いや、色目使われなくても寝かせてやるから」
「大試先生って、見た目のわりに初心よね」
小学生だよねキミ?
「さぁ、どうする?キミらは、女の子が嫌がってるのが分かっていても、その昆虫を逃がさないつもりか?」
「……パパに、女の子は大切にしろって言われてるし、逃がす」
「俺も……」
「あ!テントの中で逃がすのは!?」
「良いわけないだろ?お前のだけはここで俺が逃がすわ」
「あああああ!」
まあ、別に寝るのに邪魔なだけで逃がせっつってるわけでもない。
虫かごに入れられた昆虫たちを持ち帰る場合、少なくとも今から半日以上は閉じ込められた状態になる。
その間にストレスで弱ってしまう可能性も高いし、何よりテントの中が必ずしも昆虫入りの虫かごを保管しておくのに適した環境であるとも限らない。
翌朝、あんなに元気だった昆虫たちが死んでいたら、折角の良い思い出も台無しだ。
もし、本気でカブトムシやクワガタを捕獲し、それを飼育したいのであれば、後日改めて昆虫採集に行ってください。
お父さんやお母さんと一緒に!
「今回でお前たちには、クワガタやカブトムシの捕り方をしっかり教える予定だ。後日自分たちで捕りに行けばいい。何より……このイベントは、あくまでこの夏の森を楽しみつくすために開かれてるんだ!籠の中に虫を入れたままじゃ足手まといだぞ!」
「「「!!!」」」
俺の悪い笑顔に、何か期待を見出したらしい少年たち。
大丈夫……お前たちが想像した通りの定番企画を用意しているし、お前たちが想像しているよりもスケールは大きいぞ!
「でも私、虫捕りはあんまり……」
「自分では二度としないかもしれない事だからこそ、貴重な体験だと大人になってから思えるもんらしいぞ」
「……そうかな?なら……うん……わかった。大試先生がそう言うなら信じる」
ツインテールのちょっと勝気そうな女子は、何だかんだで楽しめているようだ。
よかったよかった。
「私は今日……一回り大きくなった……。新しい体験と知識を得て……私は蝶へとなる!」
「……そうだな。うん、奇麗だな」
「えぇ、もっと褒めてください。男の賞賛が女の煌きにつながるんです」
ストレートロングの女の子に関しては、結局何考えてんのかわかんないけど……。
「そういえば、さっき敢えて誤解させるような事言ったけれど、男子と女子でテントは別々だからな?」
「「「えええええ!?」」」
「だったら逃がさなければよかった」とでも言いたげな顔の少年たち。
女子と同じテントで寝る事への恥ずかしさとか、ちょっぴりの期待も混ざった甘酸っぱい表情をしている。
フッ……そう言う感情も、成長には必要なんだぜ!
もっとも、一番成長に必要なもんは、この後皆で摂取するんだけど。
「さてと、結構森の中を歩いたから、もうすぐ夕方なわけだ」
俺は、振り返って子供たちに向き合いながらそう告げる。
俺が何を言うのかわからずに首をかしげるチミっ子たち。
「キャンプの日の夕食といえば……なんだ?」
「「「「「!」」」」」
「バーベキューじゃな」
「「「「「!!!!!!!!」」」」」
「もしかして!」という顔から、ソフィアさんの回答で歓喜の表情へと流れるように変化した子供たち。
運動した後には、良く食うべきだ。
それが血肉となって、彼らの将来へとつながる。
何より、子供には何か食わせとくのが一番大人しくさせやすいんでね……。
真っ暗になるまで待たせないといけないし……。
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