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「者ども!虫捕り網を持てい!」
「「「「「はい!」」」」」
ソフィアさんが、あの殿様とかが戦場で持ってる軍配みたいなノリでハンディモップを振ると、ちびっ子たちが虫捕り網を構える。
今回のイベントは、虫捕りを中心に色々なアウトドア体験をさせつつ、たまに担任のカッコいい所を息子である順平君に見せるというのが目標だったけれど、既にあの担任は邪魔なので離脱している。
となれば、後は虫捕りとアウトドアで子供たちを楽しませれば俺の勝ちだ。
なら……全力虫捕り、させるしかねぇよなぁ!
「やるぞ!俺だってやるぞ!」
「カブトムシ!一番強いカブトムシ捕るからな!」
「いやぁ……捕りたくないぃ……!」
「サソリとかいないかな!?……うーん……もう毒持ってる奴いないな……じゃあもうヒラタクワガタでもいい!……いや、カミキリムシも捨てがたいよね!」
「フェロモンで雄を誘因するあの蛾の雌……負けられないわ……!」
腰が引けている女の子が1人いるけれど、まあ概ねやる気十分だろう。
ぶっちゃけ、昆虫苦手な子に無理させる気も無いしな。
網を振る所まではやってもらうけど、仮に虫が捕れなくてもペナルティをつける気も無いし、捕れたら捕れたで俺が手で処理してやるつもりだ。
小学校の体育で課題に出される逆上がりみたいなもん。
チャレンジする所までは、特別な理由が無い限りは全員にさせるけれど、逆上がり自体ができなかったとしても落第になる訳でも無い感じ。
あくまでこれは、子供たちが楽しみつつ成長するためのイベントなんだ。
トラウマを抱えるような事は避けたい。
「前世の学校イベントで、良い思いでないからなぁ俺……。他の子供たちには、俺の二の前になってほしくないわ……」
「大試よ、お前はどんだけコミュ障じゃったんじゃ?」
「どのくらい……?うーん……。親の引っ越しで転校する女の子にクラス全員から贈られたはずの寄せ書きに、俺の書き込みが無いくらい?そんなもん用意してるって事を知ったのが、帰りのホームルームでその寄せ書きが女の子に手渡されたタイミングで……。いやぁ、皆もまさか誰も俺に知らせてないとは思わなかったんだろうなぁ……」
「ろくでもない少年時代じゃのう……」
人と人のつながりは大事だぞ!
一匹狼は楽な面もあるけれど、大抵の場合茨の道だ!
「まあ、俺の過去についてはどうでもいいですよ。それより……」
「そうじゃな……よし!子供たちよ!ゆけ!」
「「「「「わー!!!!!」」」」」
担任が、自分の腰を犠牲にして振ったあの虫捕り網一閃に比べれば、当然お粗末な動きだろう。
それでも、彼ら彼女らにとってのMAXの動きでクワガタたちへと向かっていく。
今まさに、少年たちは成長の時を迎えていた。
「やった!タランドゥスだ!ツヤッツヤしてる!」
「コーカサスオオカブトだぞ!?すげぇ!!!でけえええ!!!」
「いやあぁ……網の中でなんかモゾモゾうごいてるぅ……あ、大試先生、ありがと……」
「はぁ……はぁ……いくぞ!いくぞ!アルキデスヒラタ!お前の顎の力を見せてみ……あれ!?どうして止めるんですか大試先生!?」
「ふふ……そう……貴方はアウラタキンイロクワガタっていうのね……?いい彩してるわ……」
すごいな……。
全員が外国産のカブクワばっかり捕ってる……。
ただ、気が強めっぽい女の子が捕ってたのは、ゴライアスハナムグリ……かな?
俺もハナムグリ系はよく知らないんだよなぁ……。
クソでかいし、知名度的には最大級の昆虫って事で多少有名だから、ゴライアスハナムグリだろう……ってくらいしかわからねぇ……。
アフリカは、カブトムシとクワガタがそこまで大きくならない割りに、他のコガネムシみたいなのがデカいんだよなぁ……。
でも、俺はやっぱり日本のノコギリが好きかな!
捕りやすいし、飼育もしやすいし!
何より、見た目が一番『クワガタ』って感じがする!
あとミヤマも良いな!
しかし、ここにはもう1人昆虫ハンターがいる。
その彼女が、「フッ」と笑った。
「小さい……小さいのう子供たちよ。ワシの獲物を見るがいい!」
大人げないハンター代表、メイドコスプレのソフィアさんが右手を突き出す。
そこには、デカくてワシャワシャ動く生き物が……。
「「「すごい!ヘラクレス・リッキーのブルー個体だ!」」」
「ふふふ……やらんぞ?」
ヘラクレス・リッキー。
ヘラクレスオオカブトの中の1種で、原名亜種であるヘラクレス・ヘラクレスとならんでヘラクレスオオカブトの亜種の中では最大級の種類だ。
そして、過去のゲームでヘラクレス・リッキーといえば羽が青いという認識が広まってしまった不思議な種類でもある。
ヘラクレス・ヘラクレスとの見た目の分かりやすい違いは、上側の角が細い所かな?
男子は、かなりの羨望のまなざしでソフィアさんを見ている。
「え……?アレってそんなにすごいの……?よくわかんない……」
「奇麗な蒼……そう……貴方も私の前に立つのね……!」
一方で女の子は、ヘラクレスにそこまでの思い入れは無いようだ。
まあ、世の中そんなもんだよな……。
むしろ、5人中3人がクワガタやカブトムシで喜んでいる時点で、割と運が良いほうなのかもしれない。
最近は、クワガタ触れない人も増えてるって聞くし……。
「それにしても、大人げないですねぇ」
「ワシは大精霊じゃからいいんじゃよ」
大精霊って、人間の子供と張り合って、ドヤ顔するんだ……。
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