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506:

 本来の最重要目標であるはずのおっさん虫捕り伝説計画が、担任本人にガタが来ているせいで達成不可能になった。

 さりとて、ここまで来た以上ここでお開きというわけにも行かない。

 オッサンの事など忘れて、子供たちに最高の体験をプレゼントしてやろうじゃないか。

 ある意味で、ここからが本番なんだし。


「全員ご飯は食べ終わったな!?」

「「「「「はーい!」」」」」

「じゃあ、クワガタとカブトムシを捕りに行くぞ!」

「「「「「おー!」」」」」


 順平班の返事を聞き、バナナトラップを設置した地点へと歩き出す。

 時刻は、大体午後2時頃。

 気温が一番高くなりやすい時間ではあるけれど、森の中は涼しい。

 コンクリートジャングルで心を削られる現代人にとって、最高にリフレッシュできるシチュエーションの1つかもしれない。

 まあ、この世界は、あまり森林浴が好まれなていないわけだが。

 残念だよね……。


 虫取り網と虫かごを装備したチミっ子たちを引き連れ辿り着いた場所。

 バナナトラップの匂いが森の中に入っていくように、風向きまで計算した地点に鎮座するその大木の表面には、相当数の昆虫たちが犇めいていた。

 その光景に、子供たちも興奮している様子。


「すごい!クワガタだらけだ!」

「カブトムシもいるぜ!?」

「いやぁ……虫気持ち悪いぃぃぃぃ!」

「見て見て!毒持ちがいっぱいだよ!?」

「こういう場面だとどういうリアクションが魅力的なのかしら……?怖がった方が良い……?それとも、男の子と一緒にノリノリになった方が……?」


 最近の子供たちは、クワガタもカブトも虫カウントで苦手な奴が多いって聞くけれど、少なくともこの5人に関して言えば、平気な奴の方が多いみたいだな。

 1人は、ちょっと違う方面に夢中だし、もう1人は何考えてんのかよくわかんないけど……。


 その時、今にも飛び出しかねない子供たちをけん制するかのように、ソフィアさんが前に出る。

 とても重要な事を伝えるために。


「落ち着くんじゃ!こういう時は、まずよく観察するんじゃよ!」


 そう言って彼女が指さした先に見える黄色と黒、或いはオレンジと黒の警戒色。

 これだけクワガタやカブトムシが集まるのだから、当然奴らもいる。

 ……若干一名、クワガタやカブトムシよりそっちが気になるみたいだけど……。


「クワガタやカブトムシが集まる餌には、必ず他の昆虫も引き寄せられる。その中でも特に危険なのがハチじゃ!オオスズメバチ、キイロスズメバチなんかはお主らも見たことがあるじゃろう?まあ、言うまでもないじゃろうが、毒針で刺してくるし、意外とその口にあるアゴでの噛みつきも厄介な相手じゃ!」

「ヤバい……よく見たらクワガタより多い……」

「な、なぁ!大丈夫なのか!?クワガタとりに近づいたら襲われないか!?」

「帰りましょうよ!ねぇ!?」

「じゃあちょっと行ってきます!……え!?何故止めるんですか大試先生!?」

「きゃっこわーい……違うよね?こんなあざといのは私的にナンセンス……でもどうしたら……?」


 餌に集まるクワガタを狙う場合、必ず問題になるのがこれだ。

 熊ですらハチ相手にはビビるんだから、人間なんてそりゃもうアレよ。

 まあ、大抵の場合は、餌に夢中でこっちに攻撃してくることはあんまり無いんだけれども、危険なことに変わりはない。

 防護服を着ている時ですら、防護服を針が貫通したり、隙間から入られたり、毒液が飛ばされて解放されている部分から肌にかかったりなんて危険もあるしなぁ。


 ただ、今回に関して言うなら、絶対に限りなく近い安全性を維持できるだろう。

 何故なら、今そこでメイド服を着こなすエルフ大精霊は、スズメバチなんてめじゃないレベルの強さをもっているからだ。



 パチンッ


 ソフィアさんが指を鳴らすと、周囲に集まっていたハチたちが、不思議な光に包まれて浮かび上がった。

 そして、少し離れた所まで移動させられ、そこで隔離される。


「魔術!?すごい!パパもこのくらいできるのかな!?」

「瞬殺じゃん!大した事ねぇな!全部殺そうぜ!」

「殺して!早く!」

「待ってください!殺すなんて酷い!刺してもらってからにしましょうよ!」

「こ……殺すのは可哀想!命は大切よ!……うーん……我ながら薄っぺらいわ……」


 子供たちが口々に色々言ってくるのをゆっくり聞いたソフィアさん。

 皆がある程度自分の考えを言った所で、教育が始まる。


「まずじゃが、ハチは、完全なる害虫というわけでもないんじゃ」

「「「「「え!?」」」」」


 子供たちが意外そうな顔をする。


「スズメバチは、樹液みたいな甘い物も好きじゃが、肉食性の昆虫でもあるんじゃよ。植物に付く害虫を狩って肉団子にし、巣へと持ち替えるんじゃ。餌が足りなくなってくれば、他のハチの巣を襲う。そんな習性によって、自然界で昆虫が増えすぎるのを防いでいる面もあるんじゃな」

「虫で肉団子!?」

「こえぇ……」

「イヤ!聞きたくない!」

「虫毒肉団子なんてすごすぎる!いやったあああ!」

「虫を食べるアイドルが話題になったこともあったような気が……でも、そういう路線は私が望むものじゃないのよ……」


 自然界には、自然とバランスがとれるようにシステムが構築されている場合が多い。

 たまーに異常気象でそのバランスが崩れて、蝗害のように大問題が起きることもあるけれど、数年単位で見ると安定しているんだ。

 特に特定の種類が大発生する場合は、上手ーく機能しているんだなぁとわかりやすい。

 前世で1種類の蛾が大量発生した時、その蛾が感染する病気も蔓延して相当数の蛾が死んでいったし、おまけでその蛾に寄生して殺す寄生虫も大量発生したことで、数年後には問題ない個体数に落ち着いた。

 人間が手出ししなくても上手く回るようになっているのが自然なんだ。

 もっとも、特定の種類が絶滅することも当たり前に起こる事象だし、それでも上手く回るように段々調整されていくのが自然なんだけども。

 別に、人間がいるから絶滅が起こるわけじゃ無いということも覚えておくべきかもしれない。


 的な説明をソフィアさんはしてくれたけれど、多分子供たちの記憶には、その直後に起きた惨劇の方が印象に残っただろう。


「自分に害があるからと言っても、殺せばいいというものではないんじゃ。覚えておくんじゃぞ?」

「「「「「はーい……」」」」」


 ブーン……


 バナナパーティに遅れてやってきたのか、ソフィアさんの魔法によって隔離されていないハチが飛んできた。

 そのハチは、どうやらソフィアさんを敵と判断したようで、飛びながら顎をカチカチと鳴らし威嚇する。

 そして……。


 パチンッ


 指の鳴る音と共に、はじけ飛ぶハチ。

 それを背に、真面目な顔のソフィアさん。


「じゃが、自分たちに害があると判断した場合には、躊躇わず殺す事も重要じゃ!」

「「「「「は……はい!!!!」」」」」


 彼女は、平和を愛す美しい女性である。

 自分や大切な人間を守るためであれば、相手を殲滅することも厭わないだけで。






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― 新着の感想 ―
こんにちは。 真面目な話、リアルの日本もこういう実地研修ってやった方が良い気がしますなぁ。
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