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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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 バナナトラップにわんさか集まるクワガタやカブトムシ、その他大勢の脚がいっぱいある生き物たち。

 それを見て、自らの息子からの称賛の声を夢想したのか大喜びの担任。


「すげぇなぁコレ!いくらでも捕れそうじゃねぇか!」

「落ち着いて下さい。ハチとかも結構いるから、不用意に手を出すと刺されますよ」

「うお……。さっきの樹液にもいっぱいいたが、こっちもやっぱり来るんだなぁ……」

「まあ、ハチは餌に夢中になると、人間が多少近寄ったところで反応しませんけどね」


 そういう習性を利用して、こっそりとハチに目印を付けて逃がし、巣まで誘導させるっていう技術も存在するくらいだし、想像よりは危なくもないんだけれども……。

 但し、餌に食いつく前は過敏に反応することもあるから注意な!


「じゃあこの方法は成功ってことで、次に行きますか。子供がやれる方法でおすすめなのは次がラストです」

「そうか、もっと色々やらされるのかと思ったが、意外と早かったな」

「色々他にも知られている捕獲方法はあるんですけど、おすすめはあんまりできないんですよね……」


 材割りとか、木の洞を壊しながら中のクワガタを引っ張り出したりとか……。

 ああいうのは、重要な朽木を破壊して新しいクワガタが繁殖するための要素を自ら消す行為になっちゃうからなぁ……。

 しかも、周りからめっちゃヘイト集める。

 朽木バラバラにしても持って帰る訳では無いから、自然分解ではなく人為的に解体された荒い破片がばらまかれている状態になってしまう。

 それがすごく見た目が悪いんで、その土地を管理している方々はもちろん、散歩に来るような人たちからも心象の悪化がすごい。

 法的にはともかく、絶対に勧められん。

 まあ、ワクワクするのは理解できるんだけど、それなら自分で土地を買い上げて、そこでやるべきだろう。


 あと、朽木にはクワガタ以外にもいろいろな虫がいるから、不用意に触った瞬間なかから大量のナニカがウヨウヨでてきてトラウマになったりもするし……。

 カマド○マ怖い……。


「というわけで、暗くなるまで待機で」

「いきなり夜まで待たないといけないのかよ!?しかも暗くなるまでって事は8時とかだろ!?それまで何して待てってんだよ!?」

「わかってないですね……。俺達は、ここに楽しみに来てるんですよ?」

「あ?楽しみに?」

「そうです。そして、まだ何時間も外で待っていないといけないんです。じゃあ、やるでしょ?アウトドアを」

「アウトドア……?まさか!?」


 担任がガバっと振り返る。

 その方向は、俺達が先程クッキングしていた辺り。

 そこには、トラップの場所まで誘導したあと、いつの間にかいなくなっていたアイが立っている。


「子供をアウトドアに誘うんです。どのタイミングでクワガタを捕りにいくにしても、外せないですよね?バーベキュー!」

「おおおおお!」


 前世の世界のアメリカでは、父親が一番かっこよく見えるタイミングが、バーベキューをしているときらしい。

 バーベキューが上手い男こそ、アウトドアの勝者なんだ。

 日本でどうかは知らん。

 前世の父さんも、今世の父さんも、家で食べる母さんの料理が一番だって言っちゃうタイプだし……。


「犀果様、ご要望通り道具を揃えておきました」

「ありがとうアイ。じゃあ……炭の火起こしからやりますか先生」

「もうこのメイドさんが用意してくれてたんじゃないのか」

「当たり前です。本番では全部先生がやるんですよ?理想の父親になるチャンスなんです。練習しましょう」

「理想の……父親……そうだな!やるぞ俺は!」


 ぶっちゃけ、多分このオッサンにとってクワガタとかカブトムシはどうでもいいんだ。

 重要なのは、子供にカッコいいところを見せたいってことだけ。

 ならば、バーベキューは外せないだろう!

 カレーもいいかと思ったけれど、料理が苦手らしいこのオッサンには厳しいだろうし……。


「炭は、こう、煙突にするみたいに組み立てて、真ん中には固形燃料を……」

「何?普通の焚き付けに火つけて投げ込むんじゃないのか?」

「この炭は、火がつきにくいんですよ。でも、しっかり火をつければ、普通の炭で焼くのとは別次元の美味しさになります!普通の炭でも十分美味しいんですけど、簡単に火がついちゃうんでつまらないでしょ?」

「いや俺はそれでもいいんだが……なんなんだお前のそのこだわり……」


 そうして俺達は、辺りが真っ暗になるまでバーベキューをした。

 生徒の前だと言うのに出されたビールを躊躇なくグビグビ飲んだオッサン。

 本番では、こんな事にならないように説教しないといけないな。

 例え俺がビールを渡した張本人だとしてもだ!

 さっきトラップに使おうとしてた酒がいくつか余ってて……。


「さて、そろそろ良い時間ですね」

「おぉう?なんだぁさいはてぇ……何が良い時間なんだぁ!?」

「クワガタとカブトムシを取るのに、ですよ」

「……あぁ!そういやそのために来たんだったなぁ!」

「オッサン飲みすぎじゃろ!ワシが子供じゃったら絶対キレるわ」

「手厳しいねぇお姉さん!」


 バーベキューを初めた途端腕時計から飛び出てきて食べて飲んでをし始めたソフィアさんとへべれけってるオッサン。

 この人たちつれて夜の森に入っても大丈夫なんだろうか……?

 まあ、今からやる方法だったら、そこまで森に入り込むわけじゃないから大丈夫か……。


「ほら、行きますよ!」

「おう!いくぞおれは!なんか地面が揺れてるけどな!」

「空も揺れとるぞ!てか空はどっちじゃ!?」

「犀果様、例のアレをやるべきでは?」

「そうするか……。ほい疱瘡正宗っと」


 アルコール除去!

 いい気分から一気にシラフへ。

 開拓村の酔っぱらいどもいわく、天国から地獄らしい。


「一気に酔いが醒めるってこういう気分なんだな……」

「温かい海から一気に地上に戻った気分じゃ……」


 そこまでか……?

 よし!無視しよう!


「これから向かうのは、すぐそこの電灯です」

「電灯?」

「それってあそこかのう?」


 ソフィアさんが指を指す先にあるどこにでもありそうな灯り。

 といっても、この世界の森の中だと案外ああいう人工的な照明って珍しいんだけども。

 そこへと俺達は歩いて向かう。


「おぉ……クワガタもカブトムシも随分いるな……。だけど、他の虫もモリモリいやがる……」

「アレじゃなぁ……。なんじゃったか、考古学者が古代遺跡を冒険する映画の虫だらけの部屋……」

「樹液やバナナトラップに集まるのは、甘いものに惹かれる生き物だけですけれど、灯りに集まるのは夜間に活動する目が見える生き物全般ですからね」


 最後に教えるのは、ぶっちゃけクワガタやカブトムシ捕るだけならコレだけでいいってくらいの万能さを誇る『灯火採集』だ。

 ザックリいうと、明かりに集まってきたクワガタやカブトムシを捕るって方法。

 この方法だと、クワガタやカブトムシの生息地でさえあれば、かなりの確率で捕まえることができる。

 キツネやタヌキ、野良猫とかが虫を食い尽くすこともあるから、絶対ではないのはコレも一緒だけれど。


「よっしゃ!これだけ捕り方覚えれば、うちの息子の要望にも応えられるだろ!助かったぜ!」


 学校での気怠げな印象とは違うハイテンションぶりからみて、本当に息子が好きなんだろうな。

 でも、まだ俺のレッスンは終わりじゃないぞ?


「先生、はいコレ」

「ん?なんだ?虫取り網?」

「クワガタの捕り方といえばコレ……らしいですよ」


 そう、この世界では……。


 リンゼによると、モデルになったゲームで虫捕りといえば、虫取り網で捕るアクションが出てくるミニゲーム要素らしいから、多分この世界でも網で取れば成功しやすいだろうっていう安直な発想。

 まあ、別に素手でもいいだろうけれど、子供にやらせるなら少しでも安全性と成功率の高い方法を教えておきたいしな。


「じゃあ、あそこにいるでかいの行ってみましょうか先生!」

「でかいの……?アレか!でっけぇなぁ!」

「えぇ……そうですね……」


 因みに今俺達が狙っているのは、ギラファノコギリクワガタだ。

 フェアリーファンタジーを作った連中は、在来種とか外来種なんて事にあまり興味がなかったらしい。

 辺りを見渡すと、ヘラクレスオオカブトとかオウゴンオニクワガタ、ニジイロクワガタまでいる……。

 それにあそこで光り輝いてるのは……プラチナコガネか!?

 これ、そこまでメジャーじゃないと思うんだけど、なかなかやるじゃねぇか……!


 まあ今回はクワガタがメインなので、魅力がわかりやすいギラファを狙うべきだと思う。


「さぁ!網を振って下さい!」

「おう!いくぜいくぜいくぜ!?」


 ジリジリと距離を詰めるオッサン。

 絵面はあまりよろしくない。

 そして、とうとう必殺の間合いとなった時、オッサンは動いた!


「俺は!理想のパパになるんだああああああ!」


 補虫網一閃。

 流石は元冒険者と言ったところか、素晴らしい網さばきだった。

 ギラファは完全に網の中に……。


「ぎやあああああああああああああああ!?」


 だけど、そんなことがどうでも良くなる事態が発生した。

 辺りに響き渡るおっさんの悲鳴。

 相当な苦痛を味わっているというのがコレほどわかりやすい行動もない。


「どうしました!?」

「あ……ああああ……」


 ピクピクしたまま固まる担任。

 言葉を発する事すら難しいようだ。

 それでも、なんとか彼が発した言葉は一つだけ。


「こ……腰が……」


 上善寺じょうぜんじ 東輝とうき

 トップクラスの冒険者として活躍していた彼は、怪我を理由に引退し、現在は王立魔法学園にて教師を行っている。

 しかし、彼を引退に追い込んだという怪我について詳しく知っているものは少ない。

 何故なら、その怪我を本人が恥ずかしいと思っているからだ。


 まあ、腰痛なんだけど。





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― 新着の感想 ―
本格的はいいがそれを息子の前で披露するとこう言う事態もありうるね 息子「パパ…本格的すぎてキモい」ってなりそう >カマド○マ怖い… フォールアウト4のクソデカなカマド○マ見た後嫌いになった リアルす…
こんばんは。祝、累計500話到達! 腰はなぁ…というか関節は一回やると生涯の付き合いになるのが辛いですよね。自分がそうですから。
よりによって腰だったか……
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