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地下施設にいた奴らを全員雷切でビリビリさせて意識を奪い、そのまま護送用ドローンに引き渡した。
彼らはこれから、地底世界に作られた収容施設で過ごすことになるだろう。
捕まえた奴らは、半分ほどが研究者で、残りが飼育員兼ハンターといった役割の人間だった。
驚くことに、どいつもこいつも指名手配されている上、その理由が行き過ぎた環境保護活動による物らしい。
森を切り拓く工事現場重機を爆破したり、水族館に夜中忍び込んで魚を海へ放流するのを繰り返したり。
中には、人間にのみ有害なバクテリアを生み出して、都市部でばら撒こうとした奴までいた。
言うなれば、居場所がなくなった環境テロリストたちだった訳だ。
あの大川とかいうクソ女は、そう言う奴らを匿うのと引き換えに、自分の理想のためにこの施設を運用させていたようだ。
因みに、クソ女の父親である大川子爵は、ここにいた研究員たちの話によると、娘を止めようとしたが逆に取り押さえられ、小さな魔獣の群れに餌として投げ込まれたらしい。
人骨が残っていたので、これは殺人事件として王様に報告しておくことにしよう。
殺人をする可能性のある動物を作り逃がしたという迂遠な方法によるものではなく、直接的な殺人ともなれば、俺がこれから独断で行う刑の執行に文句を言う奴も減るだろうし。
いやぁ……大変だったよ。
コンセプトは俺が考えて、それをまる義兄さんや仙崎さん、そしてアイたちが協力して実現した世界初の収容施設。
『体験型懲罰房』が完成したので、初の実践使用の相手として丁度良かったんだよなぁ……。
楽しんでくれ……。
まあ、そっちはいい。
後はもうドローンたちに任せておけば、全世界に執行映像を配信できる手はずになっているから。
対象年齢をどうするかに関しては意見が分かれているけれども。
R-18Gにするか、全年齢にするか……。
この世界は、前世の日本と比べるとその辺りの規制がユルユルだから、全年齢でいいかな!
じゃあ何が問題なのか?
そりゃこれよ。
『あぁ……お相手はどんな方なのでしょう……。こんなずんぐりむっくりのワガママボディでガッカリされないかしら……?子供だっているのに……いえ、いた、でしたね』
後ろからついてくるでっけー熊。
俺はこれから、こいつを家の裏庭にいるヤバイ馬に引き合わせなければいけない。
お互いが気に入れば、晴れて異種百合空間が出来上がるわけだけれど、その光景に喜べる者は果たしてどれだけいるのだろうか?
少なくとも、俺はちっとも嬉しくねぇ……。
だけど、会話ができるようになった相手が悩んでいて、それを解決する手段があるのであれば、やってやらんとちょっとアレだし……?
「本気で意味がわからねぇ……。大試、お前頭おかしいだろ?いや、おかしいのは前からわかっていたけどよ……」
「俺だって別に好き好んでこんな事してるわけじゃ無いけど、あのヤバイ牝馬を満足させられるような存在が丁度いたから……」
「その馬の話の時点で意味が分かんねぇんだよ……」
風雅は、絶賛ドン引き中だ。
そりゃそうだろう。
魔熊を王家の馬と引き合わせ、レズカップルにしようとしてんだから。
俺だって今頭の中は半分くらい疑問で埋まってるよ。
「当人たちの希望だからいんだよ」
「まあ俺には関係ないからいいけどよ……。それより、こいつを飼える場所なんて用意してんのか?逃げ出さないようにしないといけないだろ?デカくて頑丈な檻とかよ」
「いや、そう言うのは無いけど、俺には賢者がついてる」
「あー……オバサンか……。あの人の魔術なら間違いないか……」
開拓村で飼育している魔獣たちが全員つけている首輪。
首が無い奴もいるけれど、不思議な力で固定されているので外れない頑丈なもん。
制作者は、俺の母親。
効果は、
・指定範囲外への無許可の逃走は死ぞ
・飼育者の命令と自衛行為以外での人間への攻撃は死ぞ
・飼育者に絶対服従を守らなければ想像を絶する苦痛の後に死ぞ
とかそんな感じ。
ケルベロスですら服従させるパワーがあるので、こんな熊なんて逃げようがない。
どっちにしろ風雅を連れて開拓村まで飛ぶので、ついでに貰ってくるさ。
代金は……酒でいいかな?
「イチゴ、開拓村行く前に酒屋でも寄ってくれ」
「お酒なら用意してあるよますたぁ!」
「マジか!流石イチゴだ!」
「もっと褒めてますたぁ!」
「よーしよしよし!」
「えへへぇ……♡」
イチゴ酒というどこで売ってたのかよくわからん瓶を確保していたイチゴを褒める。
褒めれば褒めた分だけ喜ぶので楽しい。
愛い奴め。
「こえぇ……」
そんな俺達を見てまたドン引きしている風雅。
どうしたんだ?
「何だ?」
「何って……空調弄って施設の奴ら窒息させたり、今もドローン使って施設の中を掃除(意訳)してる女がデレデレしてる姿と、そんな女だってわかっていながら頭撫でてるお前がこえぇんだよ」
「お前なぁ……窒息させて意識を奪っただけで、レーザーで切り刻んだり水に沈めたり、ゾンビウイルスに感染させたりしたわけでもないんだから、全く問題ないだろ?」
「だよねー!ますたぁ大好き!」
「そしてコイツの素の話し方とのギャップがまたよぉ……」
「黙れ、死なすぞ」
「こーら、イチゴ、コイツは今回役に立ってくれたんだから、無事に帰らせないとダメだろ?」
「はーい……」
「こえぇ……」
怖がりな風雅はほっといて、OKU18をイチゴが用意したコンテナに乗せ、イチゴエアに搭載した。
「この施設のデータは全部消去して、イチゴの中にだけバックカップ残しておいてくれ」
「いいの?施設ごと消し飛ばすこともできるよ?万が一のために、自爆装置もあったみたいだし」
「無いならないで良いよこんなとこ。王様に報告するから、施設自体は残しておくけど、利用される可能性は無くしておきたい。データが全部消えてれば、流石に一からプログラミングできるようなもんでもないだろうし」
「うん、言語からして今の技術とは違うからね。わかった!」
これで、スーパー魔熊が新たに作られる事は無いだろう。
ほんとシャレにならんからな……。
「でも、こういう施設って昔はいっぱいあったから、他にも残ってるのがあるかも?」
「……そうなんだ……」
最後にイチゴが怖い事を言っていたけれど、聞かなかったことにして、俺たちは開拓村へと飛んだ。
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