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『私の生に意味はありませんでした……あぁ……こんな残酷な現実を理解してしまうくらいなら、高い知能なんて無いほうがよかった……』
熊、しかも魔獣だというのに、世を儚むOKU18。
その姿は、まるでリストラにあった直後に恋人をNTRされて自殺寸前のオッサンのようだ。
なんていうか……こっちの毒気が抜かれてしまった……。
もちろん油断するわけには行かないけれど、問答無用で切り捨てるわけにも行かなくなったな……。
「どしたん?話聞こうか?」
気が付けば、思わずそう口走っていた。
だって……なんかすごく悩んでるっぽいし……。
「大試、お前正気か……?とっとと狩っちまえばいいだろ?」
「いや、なんか殺せって言ってるからさ、逆に……」
「はぁ?そんなもん幻聴って事にしちまえばいいんじゃねぇか?魔熊の自殺願望とか、誰も信じねぇって」
「そうもいかねぇだろ……」
相手が完全な悪者だったり、こっちに攻撃する以上仕方なく反撃するって事ならいくらでもできるけどさ、こうもふさぎ込んでるとさぁ……。
『……もしや、そこの人の子は、私の言葉が理解できるのですか?』
うん、まあ、理解できちゃうんだなぁこれが……。
「多少な。で、さっきの質問に答えてもらえるか?」
『質問……?あぁ、私は人を殺したことはありませんよ……』
「そうなのか?嘘だったら後で殺すからな?」
『殺すなら殺してください……。ですが、私は一度も人を殺したことはありません……』
「ふーん……。何か理由があるのか?牛は殺して食ってたみたいだし、別に肉が嫌いってわけじゃ無いんだよな?」
『もちろん肉は好きですよ……。ですが……』
小さく答えつつこちらをチラッと見て、すぐに目線を外すOKU18。
『人間って、気持ち悪いですし……』
「気持ち悪い!?」
『だってそうじゃないですか……。細長い脚2本で歩いて、細長くてうねうね動く指がいっぱいあるんですもの……』
「……そう言われると、まあそうかもしれんが……」
何もそんな触手モンスターみたいな表現にしなくても……。
「じゃあ、人間が気持ち悪いから死にたいのか?気持ち悪い生き物がいっぱいいすぎて辛いのか?」
だったらこの熊は確かに殺さないといけないけども。
『それとはまた別の理由です……』
そして彼女は語り出す。
自分の秘めたる想いを。
『私は、魔獣として産み落とされました。魔獣とは、常に強さを求める習性を持ちます。それはお分かりですね?』
「まあ、そうなんだろうな」
『しかし私の場合、生まれた段階で既に大抵の魔獣よりも強かったのです……』
「まあ、精霊と魔獣の要素をぶち込まれた熊らしいからなお前」
『私とて女の子。やはり、強い雄に孕ませてもらい、優秀な子孫を残したいのですよ。それこそが、私が生きる理由なので』
「生物としてはそう言うもんかもしれないな」
『なのに、私より強い雄がいない!見つからない!そこで蹲っている人の牝が連れてくる雄熊たちは、どいつもこいつも雑魚ばかり!妥協して選んだ雄の種で作った子供たちは、ここ数日で死に絶えた様子!私とのつながりが完全に途絶えていますから!』
「そんなのわかるのか?」
『理屈は私にもわかりませんが、元々我々熊に備えられた能力なのか、もしくは精霊や魔獣の力なのでしょう』
「へぇ」
『そして今ここに貴方が来た!タイミングから考えて、私の子供たちを狩りつくしたのは、恐らく貴方なのでは?』
そこまで予想を立てられるのか。
怖いなぁ……。
こんなんが増えたら、日本の維持が難しくなりそう。
「まあ、俺とこいつだな」
「なんだ?そいつ何言ってんだ?」
「この熊、子熊が死んだことと、それの犯人が俺らだって気が付いてるっぽいんだよ」
「へ~、そいつぁすげぇ。狩っとくべきだな」
「まあ話聞こう」
俺も恐ろしいとは感じているけどさ。
『こんなに簡単に死に絶える子孫しか産めない自分に絶望しました。だから死のうかと……』
「あー……でもさ、世の中子供産むことが全てってわけじゃないだろ?きっと夢中になれる何かがあるって……」
俺は何を言っているんだ?
なんで熊なんかを慰めてんだ……?
いやまて落ち着け!冷静になったらダメだ!やる気が消えるぞ!狂気に浸れ!
『そうでしょうか……?』
「きっとな」
知らんけどな。
『……人の子よ。貴方がそう言うならそうなのかもしれません。しかし、私にも本能というものがあります。今この時も、発情が止まりません。すぐにでも屈強な雄に組み敷かれて、孕みたいと体が悲鳴を上げています……。こうなったら、もう雄じゃなくても構いません!雌同士でもいい!そう思ったこともありましたが、そもそも通常の雌熊は、雄熊よりも小さく弱い事が多いのです。となると、当然雌熊にすら私と交われる存在はいないことに……。これが絶望と言わず何と呼べば!?あぁ!私を性的に慰めてくれる存在はどこかにいないのでしょうか!?いないなら私を殺してください!』
「この地蔵顔は結構強いぞ?一発頼むか?」
「おい!お前が何を言っているのか知らんが、もしかして何か変な事言ってないか!?」
「大丈夫大丈夫、生命の神秘ってだけ」
「意味わかんねぇよ!何話してるんだよ!」
ウコチャヌプコロの話だよ!
『……お気持ちは嬉しいですが、やはり人間は見た目が気持ち悪いのでちょっと……』
「そうか……。風雅、ドンマイ!」
「何がドンマイなんだ!?おい!」
ナニの相手に選ばれなかったことがだよ!
にしても、発情状態だとそんなに追い詰められる程切なくなるもんなのか。
大変だなぁ魔獣ってのは……。
あれ?そういや最近似たような悩みを聞いたような気がする……。
あ!
「……あのさ」
『殺す気になりましたか?』
「いや、そうじゃないんだけども……。交尾の相手って、馬でもいいの?」
『馬……?』
「そう、馬。脚が4本で細長い生き物」
『わかりますが……馬が私と交尾しようとしたら、即死してしまうと思いますが?』
「それがさ、物凄く頑丈で強い馬で、しかもお前と同じ悩みを抱えている奴がいるんだよ」
『私と……同じ……』
そう、同じ。
クッソめんどくせぇ悩みを抱えている超危険な動物なんだ。
『……わかりました。とりあえず、その方とお見合いをセッティングして頂けないでしょうか?』
こうして俺は、恐らく人類初、熊と馬のお見合いを企画することになった。
……あ、でも、あの生首吹っ飛び事件はお見合いにカウントされるんだろうか?
だとしたら全世界で2回目ってなるけど……。
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