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魔獣って言うのは、基本的に人間を殺そうとする生き物だ。
理由は定かでは無いけれど、人間が美味しいからだって説や、魔力に惹かれているからだっていう説もある。
メタ的な事を言うなら、人間を襲うような、殺しても良い敵という存在がいるほうがゲーム的に都合が良かったって事なんだろうけれども。
ケロ兵衛みたいに、彼我の力の差を理解できて、傘下に入るという判断ができる程の知能と冷静さをもっている魔獣は超一握りで、そんなのは広大な前人未到の魔物の領域の奥地とか、馬鹿みたいに深いダンジョンの深層にしかいない。
ケロ兵衛の場合は、発生した段階でもうそれだけのスペックを持っていたけれど、そういう高位の魔獣となると、その超一握りの中の更に砂の1粒みたいな割合になる。
それ以外の魔獣たちでも、長く生きるとボスボス鹿のように念話を飛ばしてくるような知能を得る奴も出てくるけれど、そのためには何百年も生き残って成長する必要があるので、結局ある程度の頭脳は必要なわけだ。
まあ何が言いたいかって言うと、そんな特殊な魔獣は、この色々と質の悪い施設でもそうそう作り出せるものでは無いようで……。
「おい、開拓村の家畜になるつもりがあるなら命だけは助けてやる。じゃなかったら狩るぞ?」
「アアオオオオオオオオオオン!!」
「……はぁ……」
ザシュっ
肉と骨を切り裂く音と、数瞬遅れて響く血飛沫の音。
入り口側から順番に飼育されていた魔獣の中から、生きたままにしてやる個体を選別している訳だけれど、今の所1匹として助けていない。
全部息の根をしっかり止めている。
おまけとばかりに死体は燃やすところまで徹底しているから、仕損じていることはまず無いだろう。
「大試よぉ、こんな事しなくてもよくねーか?選別なんてしてねぇで全部ぶっ殺そうぜ?」
「こいつらだって人間の勝手で生み出された奴らだからさぁ、せめて理性がある奴は残してやりたいんだよ」
「その割にバンバン殺してるじゃねぇか。もうよくねーか?」
「せっかくここまで徹底して処理してんだから、最後まで徹底するさ……。後は……2割くらいか?無駄話してないで、進めるぞ」
「まあいいけどよ……」
結局、1頭を残して全ての魔獣を処分するしかなかった。
虚無……。
だってさぁ……どいつもこいつもバカすぎて恐怖って感情すら残ってないんだもん……。
自分が死ぬってことすら理解できていないのかもしれない……。
こっちだって甘い対応してたら怪我するかもしれないから、攻撃して来たら殺すしかないしさぁ……。
噛みついてくるだけならまだマシだけれど、魔獣の種類によっては特殊な攻撃をしてくる奴もいるから油断できないんだよ。
羊みたいな魔獣は、こっちに強力な静電気飛ばして来たし、デカいガマガエルみたいな魔獣は、溶解性の液体を飛ばしてきた。
タヌキみたいな魔獣なんて、キン○マ袋を広げて何かしようとして来たから、思わず即死させてしまったし……。
あれ、ほっといたら何してきたんだろうなぁ……?
「んで、最後はこいつか」
「ああ……」
俺達は、長い通路の突き当りに位置する部屋の前に来ている。
中にいるのは、俺たちがこの数日間追ってきた魔熊の生みの親、OKU18ことベアトリス。
魔獣らしからぬ落ち着いた状態に見えるけれど、こいつも他の魔獣みたいに襲ってくるのかなぁ……。
でかいし、返り血浴びたら嫌だから、斬る位置は考えないとな。
「風雅、今のOKU18の精神状態はどんな感じだ?」
「そうだなぁ……絶望と発情がごっちゃって感じだな。よくわかんねぇわ」
「発情が維持されてんのか……」
なんで絶望しているのかはしらないけれど、発情中の動物は危険だ。
ただでも危ないのに、理性が飛んで更に凶暴性が上がっているんだから。
しかも、そもそもが熊の魔獣って言うヤバイ存在なんだから……。
さて狩るか。
「よし、じゃあちゃちゃっとやっちゃうぞ」
「大試、お前のそういういきなりドライになるとこ本気でこえぇわ……」
そう言われてもだな?
こっちはできるだけの義理は果たしている。
これで文句言われる様な筋合いは無いと自信を持って言える程度に。
たとえここにいた数百匹の魔獣たちの中から1匹たりとも生き残る個体が出なかったとしても、それは俺のせいではない。
そこの所を後から俺自身が後悔しないように、自分の中で折り合いをつけることは大事だ。
じゃないと、後日聖羅に抱きしめられてヨシヨシと慰められるという羞恥プレイを演じなければならなくなる。
自己正当化が終わったので、俺は部屋の中へと踏み入った。
「おい、OKU18。いや、ベアトリスって名前なんだっけ?お前が生き残る道は1つだけだ。俺達の傘下に入って、勝手な事を絶対しないという誓いを立てる事、それだけ。誓うなら、俺の母さんにその誓いを強制する呪いをかけてもらう。これができないなら殺す。誓いを破っても殺す。もし誓うとしても、今までに人間を殺しているなら、その時点で強制的に殺す。他の魔獣たちは外に出してもらっていなかったみたいだから確認しなかったけど、お前は何度も外に逃がされてんだろ?その辺りどうなんだ?……あ、嘘をついた場合も即殺すから、そのつもりで答えろ」
こいつの子供たちの鳴き声が俺には言葉に聞こえて会話もできたことから、コイツ自身もそうだろうという前提で話しかける。
嘘をついている場合は、母さんの呪い(首輪型)で死ぬので、それならそれでもいい。
答えられないなら答えられないと答えてくれるとスムーズに殺せて有難いんだが?
だが、奴の答えは、俺の予想外の物だった。
『…………殺しなさい人の子よ……私は疲れました……』
流石にそれは想定しとらんよ……。
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