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「イチゴ、このカスの発言は全部記録してあるか?」
『もちろんしてるよますたぁ♡あと、この施設のデータも全部抜き取ったし、ドアのロック含めた操作権も全奪ってある♪古代文明の施設を流用した物だったみたいで簡単だった!』
「流石だ。それでコイツの他の人間がこっちに来てないんだな」
『うん!皆隠れてたけれど、そのゴミがますたぁに叩きのめされた瞬間に出て行こうとしたから、今更もう遅いよーって。ついでに空調も操作して死なない程度に窒息させてあるよ!』
「破壊工作させたら本当に有能だなぁ……。帰ったら何かご褒美やるから欲しいモノ考えておいてくれ」
『ほんと!?絶対だよ!?』
「ああ」
イチゴエアの中で待機しているイチゴにスマホ越しで確認すると、やはりというかなんというか、もう既に俺が頼もうとしていた事は終わっていた。
流石俺たちの破壊者系AI!
ご褒美にどんなものを要求されるかわからないけれど、何にせよ安いもんだ。
よくわからん地下室に入ったら、頭のおかしな女に絡まれた。
俺達の建前……事情はともかくとして、シャッターを破壊して入って来た人間にあの対応だった辺り、相当頭がお花畑だったんだろう。
俺を本気で取り込めると思っていたんだろうけれど、甘いなぁ……。
すごい美人だし、フェアリーファンタジーでは名有りキャラだったのかもしれない。
そして、こんなとんでもない施設を与えられているんだから、何かしらで有用な存在だったんだろう。
例えば、自分でテイムした魔獣と魔獣を組み合わせて新しい魔獣を作る要素とかさ。
よくあるよな?
読み込むCDによって違うモンスターが出来たりとか、モンスターを育ててくれるオッサンに2匹のモンスターを預けたら、そいつらの子供っぽいのが生まれたりとかさ。
まあ何でもいいさ。
この女のモデルになった女が元々どんなキャラクターとしてデザインされたのかなんて。
重要なのは、コイツのせいで俺が非常に面倒な事をさせられたって事だ。
しかも、コイツのやらかしたことによって、少なくとも数人は死んでいるし、把握されていないだけで、実はもっと死んでいるかもしれないんだ。
今回は俺が色々対応したからもしかしたら食い止められたかもしれないけれど、見つかっていない強化された魔熊がまだ残っていて、そいつが繁殖して大惨事になる可能性だって残っている。
控えめに言って死罪だろう。
テロリストだもん。
そんな女の提示する考えが、またも俺をイライラさせる。
こちとら死と隣り合わせの開拓地に転生して生きてきたんだ。
動物さんたちを尊重しろだって?
してるよ!野生の掟の上でな!
パワーで狩って食ってんだ!
どっかのケルベロスみたいに飼育しているのもいるけれど、アイツらはアイツらで俺たちの役に立ってくれているし、お互いに良い関係を築いている。
少なくとも、村を出るまで世話をしていた俺とはな!
今は多分風雅がやらされているんだろうが……。
それに比べて、この女は、自分で餌を与えることすらしていないんだろう。
もしそういう面倒な事をしているとしたら、このヒラヒラドレスみたいな恰好でいるわけがない。
乳牛農家みたいに、日の出前から作業を始めて、日中にちょっと寝て、昼に起きてから夜は深夜近くまで作業、なんていう地獄の労働をしないとこの規模の動物飼育施設は運営できるものか!
自分で世話もしないくせに動物を飼ってる奴なんて、俺から言わせれば飼育者の権利なんてねぇんだよ!
動物飼育は、命を扱う行為だ。
場合によっては、動物のための世界そのものをデザインする必要すらある。
それをコイツは、金をかけて自分では何も大変な思いをせずにやってきたんだろう。
だから平気で動物を飼おうとするし、動物から自分が恨まれているなんて予想すらしない。
コイツにとって、動物って言うのは、自分を良く見せるためのアクセサリーなんだ。
自分が素晴らしい事をしているっていうアピールにもなるけれど、逆に自分の素晴らしい行為を認めない奴に関しては、情も正義感も欠如した者であるとレッテルを張ることで、相対的に自分の素晴らしさをアピールするためのアイテムにも使っている。
まあ、自分の領域で勝手にやっているなら別に文句は言わない。
好きにしろと。
だけど、コイツは自分のテリトリー外に熊を逃がして、そして被害を出したんだ。
許せんわ。
他の奴らがどういう考えを持っていたとしても、俺はこのクソ女を許すつもりはない。
一生塀の中に収監しておいてやろう。
色々持論を披露してくれたけれど、何一つ賛同できなかったわ。
俺だって確かに人間は自分たちがこの世界の支配者だと勘違いしやすい生き物だとは思う。
だけど、別に人間自体がそれで愚かだと判断はしない。
だって、生物って言うのはそう言う存在だからだ。
犬だろうがなんだろうが、自分が最強だと思い込んで傍若無人になる奴はよくいる。
そして、人間も動物の一種でしかないとも考えている。
人間とそれ以外の動物を分けて考える時点で、もう動物への敬いなんてそいつらは持っていない。
何が「賢い」だ?
「動物としては」って言葉も続くんだろ?
つまり、動物を大切にしているように見せかけて、実際には動物を低く見ているんだ。
その自覚は無いだろうし、指摘しても逆切れするだけだからしないけれど。
そんな厄介そうな女が地面で蹲っているので、今後の事について伝えておくか……。
「歯が……私の歯が!?痛い!なんでこんなひどい事をするんですか!?」
なんて呻きながら言っているけれど、無視だ無視。
「まあ、色々言いたい事はあるけれど、一つだけ伝えておく。お前はこれから、絶対に脱出できない監獄へと収監される事になる。先輩たちがいっぱいいるから仲良くしろよ?」
「収監!?何故ですか!?私は世界中の人々のために……はべっ!?」
あーもう、無視してやろうと思ったのに、まだ舐めたこと言うから、思わず黙らせるために引っぱたいちゃったじゃないか。
もうお前の事はどうでもいいんだからさぁ大川さんさぁ。
今の最重要事項は、どんな弄られ方をしたのかすらわからない動物たちの扱いだ。
中でも、OKU18をどうするか……。
「どうしたもんかなぁ……?」
「よくわからねぇが、殺すんじゃダメなのか?」
「うーん……まあ、最後にはそうなるんだろうけれど、最初から悪い事していないかもしれない動物たちを問答無用でブチ殺すつもりっていうのも人としてどうかなと……」
「気にする事ねぇんじゃねぇか?ここにいる奴らって、どいつもこいつも魔物だぞ?魔物は狩らないとよ」
「そうなのか?それって、狩猟王の能力か?」
「こんだけ近くで動物たちの実物まで見たんだ。いくらでも状態の把握なんてできるさ。それによると、ここにいる人間以外の生き物は、全部魔物になっちまってるぜ?」
あ、なら簡単だな。
片っ端から駆除するだけだ。
ガスマスクと防護服でも来てくるべきだったかもなぁ……。
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