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OKU18を追ってきたら、痛い女の人に出会ってしまった。
熊にエンカウントする方がマシかもしれん。
「貴方も、そしてそちらの貴方も、彼ら動物の事をどう思いますか?」
その女が、ガラス越しに餌を食ってる動物を手で示し、善意を目からビームのように押し付けながら吐いた言葉がこれだ。
どう答えるのが正解だろう?
「うっせー死ね」とかダメだろうか?
どう答えても面倒な事になる気がするし……。
「動物だな、ってだけじゃね?」
それに対して、地蔵フェイスの風雅の答えがこれ。
いいぞ主人公!面倒な立場を引き受けてくれる辺り主人公っぽい!
答えは絶妙に馬鹿っぽいけど。
「彼らには、私たちと同じように命があります。そして、感情があります。そんな彼らが、私たちの都合で死んでしまっていいはずがありません!そうは思いませんか?」
「え?思わねぇけど?」
風雅の火の玉ストレートが決まった!
「何言ってんだコイツ?」って地蔵の表情も加点対象です!
これでヘイトは完全に地蔵に行ったな!
「……はぁ、貴方も人間こそが最も優れていて、優先されるべき存在だと考えているんですね……」
一瞬かなりキレたような表情になった女性。
それでもすぐに気を取り直して、こちらを哀れな生物として認識し、自分が導くべき存在であると言い出すのは中々の胆力だな。
イラっとはするけれど、ノせやすそうではある。
調子に乗せれば、必要な情報をペラペラしゃべってくれるかも……。
「俺も熊は尊い動物だと思います。ほんと、尊いですよねー。いやー尊い」
「まあ!貴方はとても心が奇麗な方なんですね!いいでしょう、ベアトリスちゃんを見せて上げます!さぁ、ついて来てください!」
そう言って歩き始める女性の後に続く。
OKU18の元へ案内してくれるというなら、喜んで道化を演じてやろうじゃないか。
多分だけど、この女は俺の言葉なんて大して重要視していない。
自分の発言を多少でも肯定してくれる相手の発言であれば、全てを自分に都合よく解釈して気持ちよくなるタイプだ。
逆に言うと、自分の発言に否定的な相手の事は敵として認識し、端から聞く耳なんて持つ気が無いタイプでもある訳で。
(おい大試、こいつビックリするくらいウゼェんだけど殴ったらダメか?)
(ダメに決まってるだろ。殴るのはOKU18を始末してからにしろ)
(お前もイラついてんじゃねぇか……)
安心しろ。
OKU18に世話を焼いている時点で、高確率でこいつは犯罪者だ。
殴るチャンスなんていくらでもあるさ。
言動が失礼で排他的だとしても、今気にする事なんて無い。
いくら美人でも許せないもんもあるんだなと思ってはいても、今は我慢だ。
そのまま長い通路を歩いて行く。
両側に大きな部屋が続いていて、どの部屋にも動物が飼育されているのがガラスの窓から見える。
冗談抜きで、ここは動物園のようだ……。
「動物が沢山居ますね」
「えぇ!自慢のペットたちなんですよ」
「ペット……」
「彼らは、人間の作った作物や土地、家屋に被害を出したというだけで駆除されるところだった動物たちなんです。それを我が大川家が買い取り、こうして地下施設で保護しているというわけです。尊い行いでしょう?」
「そうですねー」
既に少なくとも200m程は地下を進んできている。
ここを作るのにどれだけの金を使ったのか知らないけれど、間違いなくマトモじゃないな……。
「大川家ということは、貴方は大川子爵家の方なんですね?」
「あら、自己紹介がまだでしたね?私は、大川子爵家令嬢、大川正子と申します。気軽にマーサとお呼びください」
何がマーサだ。
はったおすぞ。
「……マーサさん。魔熊について随分詳しいようですが、OKU18とはどういった関係なんですか?口ぶりから察するに、OKU18も貴方のペットなんでしょうか?」
「その通りです。母熊のお腹の中にいるときから、うちで飼育しているんですよ。保健所の関係者たちは、ベアトリスちゃんの事をそのような無粋な名前で呼んでいるようですね。なので、絶対にその呼称を広めないように圧力をかけておきました」
「圧力……ねぇ……?」
「私の父は子爵です。その位の便宜を図ってもらっても罰は当たらないでしょう?動物のためのお願いなんですし、保健所の方々も喜んでいるでしょう。なんと尊い行いなんでしょうか……」
軽くエクスタシーを感じている様子の正子。
自分大好きなんだな。
自分が良い人だと証明するために動物を利用しているように見えるが……。
とりあえず、ペットを放し飼いして大問題を起こしたのは確実みたいだな。
よし!痛めつける正当な理由ゲット!
「ここがベアトリスちゃん専用に使っている最大級の飼育部屋です。ほら、あそこにいるのがあの子ですよ」
もうすぐ通路を歩き始めてから300mになるぞという辺りで突き当たった場所。
左右に並んでいた部屋と違い、通路の突き当りに作られたその部屋は、他の部屋の何倍も巨大だった。
そして、横開きの自動ドアのようなものについた窓から中を覗くと、大量の木や草が植えられた場所であることがわかる。
とてもこんな地下に作られたとは思えないほど大掛かりな飼育場だな……。
その中に、1頭の魔熊が見える。
確かに大きいけれど、思ったよりも見た目に特徴は無いな……。
「あれがベアトリスちゃんです。どうです?ツヤツヤの黒い毛に、大きな体。そして、人間にも匹敵するほどの賢さをもった熊さんです」
「アレが……」
「あの子を作り出すのは困難を極めました。精霊由来の物であるとされる透明な羽や魔獣の魔石をまだ胎内にいるベアトリスちゃんに与え続けて、そして生まれてきたのがあの子なんですから。あの子であれば、人間のハンターにも負けません!返り討ちにしてくれるでしょうね!」
……あーホント、この女の顔が怖い……。
宗教に憑りつかれている奴らと同じ臭いがする……。
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