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OKU18γと呼ばれていた個体を駆除した後、俺たちは休憩を挟みつつ熊狩りをしていった。
その結果わかったのは、どの熊も驚くほど知能が高く、それぞれが異なった特技というか、趣向をもっている事だった。
木の上を樹上生活を営む猿のように飛んで移動していた奴はまだ可愛い物で、γのように殺す事自体を楽しむやつも今まで存在しなかったかと聞かれればそうでもないと言えてしまうかもしれないけれども、飼料用トウモロコシ畑の中に簡単とは言えブービートラップのようなものを作って人間対策をしていた奴や、人間が作った廃材を使ってかなり大きな巣を作っていた奴までいた。
むしろ、最初に死んだルナ18が一番地味なんじゃないかとすら思える。
あいつはあいつで何日も食料を前に我慢ができたり、道中のカメラを尽く見つけて破壊できる何らかの能力があったようだけれど、それより何より死に様のほうが印象強すぎて……。
流石にここまでくると、人間によって何らかの知識を与えられていないと難しい気がするんだよなぁ。
仮に、魔熊の知能を上げる何らかの技術があったとしても、それをなんの積み重ねもして来ていない魔熊本人が上手く扱う事なんてできるわけがない。
人間だって同じだ。
代々積み重ねてきた知識と経験によって、現代の技術というものは存在しているんだ。
世界最高のコンピューター技師がいきなりジャングルの奥地に置いて行かれて、コンピューターを作るコンピューターであるマザーマシンと呼ばれるような者すら無い状態でCPUを作れと言われた所で、そんな事が出来るわけが無いのと一緒。
となれば、OKU18に元となる知識を与えた者がどこかにいると考えた方が妥当だと思う。
いや、OKU18が、人間のなんて鼻で笑うレベルの高度な知能を持っていて、簡単に人間程度の知恵なんて越えられるような存在だって可能性もあるにはあるけれど、その割には娘たちがバカすぎる。
元々の魔熊たちよりは賢いって言っても、獣であることから脱する事が出来ていない。
人間の生み出すものに魅力を感じ、それを利用したくて仕方がないだけだ。
もっとも、俺と風雅だから難なく倒せているけれど、動きの速さや躊躇の無さから見るに、魔法学園の生徒でもあの熊たちを無傷で倒せる奴は少ないだろう。
こんな厄介な熊を野に放つような人間がいるとしたら、それはもう頭のおかしい奴なんだろうなぁ……。
「なぁ、風雅。『魔熊の頭を良くして解き放つ頭のおかしい奴がいる』っていうのと、『自分で人間の生活圏で生活したがるようになった上に人間のハンターから悉く逃げ切れる頭のいい熊が自然に生まれた』ってのだと、どっちが気分が軽くて済むと思う?」
「どっちも考えんのめんどくせぇから、全部狩って帰るわ」
「結局狩るしかないんだよな……」
いいなぁ……。
俺も知らんぷりしてても解決するならそうしたいなぁ……。
大体さ?
なんで俺がこんな大変な思いしないといけないの?
確かに俺が自分の石で頭突っ込んだよ?
でもほぼ強制的にだったよね?
もうぜってぇ保健所の奴らに仕返しするから!
特にOKU18の存在を秘密にしようとした奴は!
『のう、大試よ。ワシ、そろそろソフィアにチュールやりながらゴロゴロしたいんじゃが……』
『俺もですよ。でも、今は無理です。お世話してくれてる量産型アイに任せましょう』
『あやつは、ソフィアの健康の為と言いながらチュールは1日に1つしかやらんと抜かしよったんじゃぞ!?可哀想だとは思わんのか!?』
『冷静に考えてください。より猫の体の事を考えているのはどっちなのかを……』
『……わかってるんじゃよ?わかってるんじゃが……!』
生き物に食べ物あげるの楽しいよね……。
わかるよ……。
猫もそうだし、公園の池の鯉に餌やるのも楽しかった。
前世の大きい池のある公園で、壊れかけの自販機で空き缶に鯉の餌詰めて自販機で売ってた人は儲かってたんだろうか?
借りパク腕時計の中で管を巻いているソフィアさんも、流石にこの面倒事に飽き飽きしているらしい。
そして、順調に猫に囚われて行っているようだ。
恐ろしいな猫の魔力ってのは……。
「なぁ大試、その時計は何で光ってんだ?」
「大精霊が入ってんだよ」
「サラッとやべぇ事言うなよ……。お前の言ってた大精霊ってそんなとこにいたのかよ……」
最近は、ソフィアさんとのリンクが落ち着いてきたのか、最初より離れられるようになってきたけれど、それでも200mくらいが限度だからなぁ……。
それ以上離れるとソフィアさんが俺に引っ張られる状態になるし、それを解消しようとすると、リンクが切れて無呼吸でプールに沈んでいるような苦しみを味わうらしい。
ソフィアさんがこの世界に留まる事が出来ているのは、俺の魔力をリンクを通してちゅーちゅー吸っているからだそうだから、リンクが切れたらすぐに精霊が本来いるような場所に戻っちゃうわけで……。
『なので我慢してくださいね。後残るは、母親とされているOKU18だけなんですし』
『絶対面倒な奴なんじゃろその熊?すんなり倒せるんじゃろうか……』
『大丈夫ですよきっと。だってこっちには、童貞を捨てて賢くなった狩猟王がいるんですよ?勝ち確ですって。きっと次休憩が開けたら、1時間もしないうちに全部終わって家路についてますよ多分』
『ワシ知っとるぞ?それってフラグっていうんじゃ』
『心配性だなぁ』
大丈夫だって。
多分。
イチゴエアの中でゆっくり休憩しながら、悪いほうに傾きそうになる頭の中を必死に誤魔化していた。
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