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「おぉ……脳を一発か」
「逃げるやつは狙いやすい。特に一目散で逃げてて、こっちを振り返りもしてないやつはな」
「にしたって、魔物の熊の頭蓋骨は分厚いのに、よく貫通させたな?」
「いや、頭蓋骨の隙間を通しただけだ。どんなに頑丈な骨格を持っている生き物でも、血管や神経が通る場所はあるからな。関節も大抵壊しやすいけどよ、脳か心臓を一瞬で止めて苦しませないほうが肉の味が落ちねぇんだよ。心臓を止めちまうと血が出にくいから、圧力かけねぇとならんけどな。まあ……流石にこの熊を食おうとは思わねぇが……」
「そうなのか?狩った生き物は食うのが義務とか、そういう事言いだすのかと」
「そういう事言うやつは、実際に自然の中で生きたことがない奴だけだろ」
いうねぇこいつ!
童貞力を無くしたら急にワイルドになったなぁ!
ほんと、何をどう間違ったらあのバカ状態になったんだろうな!
もう家畜の尿でブリーチしてた男の面影はないな。
さて、この熊の死体は収納カバンに入れてっと。
「じゃあ、次の奴を狙いに行くか」
「ん?いや、それはダメだ」
「なんでだ風雅?」
「狩りってのは、自分で思っているよりも疲れるもんだ。お前の場合体力的には問題ないだろうけど、精神的には誰だって疲労する。反撃される可能性だって十分考えられるし、他のやつに襲われる可能性もある。最低でも何時間かは休憩してから次の奴を追うべきだ」
「お……おう……」
何この玄人感?
こいつ本当にあの風雅か?
童貞力とバカ力をすべて主人公力に転換したかのようなイケメン度だ……。
「じゃあ、イチゴを呼ぶか」
「イチゴって、あの飛行機を操縦してた女の子か?」
「そうだ。あの機体なら、中で休憩もできるし」
「いや……まあ……そうだな……」
なんだ?
あんまり気が進まないのか?
あんなに可愛い女の子だっていうのに、こいつが全く喜ばないなんて……。
「イチゴは、お前のタイプじゃなかったか?」
「すげぇ美人だとは思うぜ?でもよ……」
ブルッと悪寒を感じたように震える風雅。
顔色が悪い。
「あの娘、俺にめちゃくちゃ殺気飛ばしてくるんだよ……。魔獣の群れに囲まれてる時のほうがまだ心穏やかになれそうなレベルのな……」
「そうか?あいつ、何だかんだで気のいい奴なんだけどな」
ヤバいヤツではあるが。
人類絶滅クラスの。
「お前にはそうなんだろうな。だが、お前の敵だったやつにはよ……」
あぁ……。
よかったな滅ぼされなくて?
よかったよかった。
そんな話をしていたら、すぐにイチゴエアが到着してくれた。
本当に速いなぁ……。
しかも、俺の上でホバリングしているというのに、下にいる俺等には風も何も伝わってこないんだから、すごい技術だ。
今よりずっと進んだ技術を持っていた古代文明時代に、世界中から逃走するために自作しただけのことはある。
『ますたぁ、迎えに来たよー!』
「さんきゅー!」
『……その男もまた乗せるの?』
「今回は役に立っているからなー」
「…………」
『……ますたぁがそういうなら……』
しぶしぶ、といった音声を響かせながら着陸したイチゴエアへと乗り込む。
そして中にいたイチゴがこちらをみると、成る程、確かに風雅への視線が冷たい。
イチゴって、こんな目もできるんだなぁ……。
ちょっとこう……ゾクゾクする……。
「ちょっと座席で3時間ほど休むから、次の熊を追うのはそれからにしよう」
「はーい♡じゃあますたぁにはこのイチゴ牛乳をあげるね?」
手作りらしいイチゴ牛乳をジョッキで貰った。
頼んでないけど、美味しそうではある。
運動後だからもう少しサラサラした飲み物が欲しい気もするけれど、嬉しい。
「貴様には水だ」
「……はい」
風雅には水入りジョッキが渡された。
美味しそうだなぁ……。
ジョッキの結露具合からみて、キンキンに冷えた水なんだろう。
やっぱりちゃんとイチゴも風雅を労ってるじゃないか。
何も心配なさそうだ。
「風雅、次はどの熊を狙う?」
熊被害現場の写真を貼り付けた地図をモニターに表示して聞いてみる。
今回、俺は全面的に風雅の考えに従うことにした。
それだけ今の風雅は頼りになる気がする。
「どいつでもいいが、そうだな……」
かなりじっくり考えている様子の風雅。
こいつって、こんなにじっくりモノを考えられるやつだったんだなぁ……。
「よし、こいつにしよう」
「こいつって……γってやつか。なにか理由があるのか?」
風雅が選んだ写真は、家畜の牛が何頭も殺されている現場だ。
「他の奴らは、人間の作った食い物が狙いみたいだ。だけどこのγって奴は、食うわけでもない牛まで殺してる。それも大量にだ。多分、殺すのを楽しんでるな。一番遠かったから後回しにしたけど、次はこいつにしたほうが良い。」
「わかった」
開拓村に帰ったら、こいつをあんまりパシリに使わないように言ってやろう……。
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