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「おい見ろ!この尾の傷!間違いなくOKU18の娘、βの特徴だ!」
「ここの黒い斑点もそれを裏付けているわね……」
「頭を見つけたぞ!脳髄は砕かれていたが、歯型が取れそうだ!それに見ろ!この犬歯の特徴的な傷は、まさにβが食害したじゃがいもに残されていた痕と一致する!」
保健所に連絡したら、1時間もしないうちに職員っぽい一団がやってきて調査を始めた。
なんだか、どいつもこいつもヤケに張り切っているというか、やる気に満ち溢れているなぁ……。
何とかして欲しかったモノを思いがけず手に入れてしまったかのようなハイテンション。
更にいうと、あんまり寝てないのか、皆さん目元のクマが酷い。
寝なよ。
調査なんて明日でいいじゃん……。
「あのぉ、そろそろ俺はシャワー浴びてきてもいいですか?クマの死体は好きにしていいんで……」
「駄目です!貴方の体に付着している血も体毛も、場合によってはダニやノミですら情報の宝庫なのですから!」
「勘弁してくださいよ……血がペリペリ乾いてきたし、とにかく臭いし……」
「我慢して下さい!もうすぐ済みますから!」
いや絶対すぐにはおわんねーだろ。
そんな簡単に終わるなら、あんたらの目元がそんなに青黒くなってるわけがないもんね!
それと、他にも気になることがあるんだ。
「あの、このクマ何か有名なやつだったんですか?さっきから皆さん名前呼んでるみたいですけど、ネームドベアーなんですか?」
「OKU18とその娘たちβからζまでの情報は機密情報に指定されているので話せません!」
「OKU18って名前なのか……」
ルナじゃなかった。
てか機密とか言いながら思いっきり喋ってるよな?
「なんで機密になんてするんです?魔獣って言ってもクマですよ?」
「ですから機密なので教えることはできません!……おっと、資料を落としてしまったようだ。どこにいったのかなー?」
足元に紙の束を落としてどこかへ行く職員。
何だこの三文芝居は……そう思いながら拾い上げると、OKU18というクマについての情報が沢山載っていた。
へぇ……人間社会に自分から関わって害なしているのかぁ……。
それは厄介そうだなぁ……。
と言った具合に、何故か俺に情報を渡そうとしているんだ。
なんなの?
もしかして俺にこの熊たちをどうにかしろっつってんの?
なんで自分たちでやらないんだ?
「こやつら、大して攻撃魔術も扱えんようじゃし、特別金を持っているわけでも無いようじゃから、大規模に貴族や冒険者とかいう者たちに依頼する事も難しいんじゃろ。機密にするよう命令されとるということは、その熊を生み出した物が偉いやつの中におるか、もしくは何かで利用しようとしとるカスがふんぞり返っとるんじゃろうし、これが精一杯の抵抗なんじゃろ」
「だからって俺に頼られても……」
「大試よ。改めて言っておくがのう」
呆れ顔のソフィアさんが俺の顔を両手で包み、正面から真剣な顔で話す。
「魔獣化した熊を素手で制圧する程の力があり、頼られれば何だかんだで協力するような都合のいいモンなんぞそうそうおるわけ無かろう?」
「そうですかねぇ?協力するかはともかく、熊なんてそこらの酔っぱらいのおっさんでも倒せるでしょ?」
「じゃから!それはおヌシの実家周辺がおかしいと言っとるじゃろ!」
そうだった……熊に関しての情報は、俺の中と世間一般で大きく食い違っているんだった……。
油断するとすぐ忘れてしまう……。
「って言っても、俺は別にハンターじゃないしなぁ……。マタギの才能が開花したとかならともかく、身体能力が強化されて視覚も聴覚も嗅覚も強化されているとはいえ、素人に毛が生えた程度の狩猟テクニックしか無いんですよ?確かに実家の周りでは、熊をよく狩ってはいましたけれど、あれは俺が積極的に狩りに行っていたって言うわけじゃなく、村にチョッカイかけようとする奴を倒してただけで。そりゃ、たまにはちょっと遠くまで追いかけて倒したりもしてましたけど……」
「あの役人どもが考えとるのは、別に全部の熊を大試に倒してもらおうなんて事ではないんじゃろ。なんなら、大試には金だけ出してもらい、狩りが得意なハンターでも雇ってもらえれば最高じゃとでも思っとる気がするのう」
「えぇ……?」
酷いよう。
自分たちで何とかしてよ。
そういう仕事をするのがあんたらなんでしょ?
はぁ……。
「大体さぁ、仮に俺がそんな仕事を誰かに依頼するとしてですよ?都合よく受けてくれる奴がいるとも思えないんですよね。俺だって、明らかに面倒事の臭いがするこんな自体に誰かを巻き込んじゃったら罪悪感ありますし……」
俺は、家族以外とはそこまで交友関係が広くない。
王都に来てから色々な人たちと知り合ったけれど、魔熊を狩るのを仕事にしているような人は覚えがない。
となれば、俺がその仕事をやろうと思ったら、コミュ障であるハンデを背負いながら何処かにいるかも知れない伝説のマタギを連れてくるか、知り合いと言う名の初心者たちを集めて危ない冒険をするかのどっちかになってしまうだろうよ。
そんなん考えるだけで怖いわ。
魔熊がうろつく森の中に餌を連れ込むようなもんだ。
あーあ……どっかにいないかなぁ……。
狩りが得意で、面倒事に巻き込んでもまったく罪悪感を俺が覚えないような奴で、俺の頼みを聞かせられるような都合のいい奴……。
「………………………………あ」
いたわ。
狩猟王とかいう大当たりのギフトもらいながら、やらかしまくったせいで開拓村でパシリにされてるバカが……。
あいつ連れてくるか。
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