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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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472:

 森中に仕掛けた赤外線カメラの映像を見る。

 まだ奴は現れない。

 流石に真っ暗な森の中で熊を待ち伏せするのはドキドキするなぁ……。


「のう大試、本当に来るのかのう?」

「来ないなら来ないで別に……というかもういなくなってくれたらそれに越したことはないですね」

「まあそうじゃな……」

「面倒は面倒ですけれど、家の近くに縄張りを持っちゃった熊がいるなら、排除しておくのが懸命でしょう。まあ、家の家族で熊にやられるような奴はあんまりいませんけど、近くには色々ありますしね」

「聖騎士団の娘どもやら神社の参拝客やら、心配なのはいるからのう」


 そうなんだよなぁ……。

 何だかんだでこの辺りも人が多くなってきて、自然豊かとはいえ人的被害が出ないとも限らないくらいには開発されてきた。

 やってるのは俺達なので、野生の動物からしたらいい迷惑だろうけれども、それはそれとしてこちらに被害を出そうとするなら倒すしかない。

 これが別に、家の近くをウロウロしているだけだったら、驚かしてどっかに追い払って終わりでもいいんだけどなぁ……。

 じっくり狙いを定めているようなタイプだと、多分それは難しい。

 もう人間の生活圏で何かを得ることを覚えているタイプだ。

 だったら、ここから追い払った所で、他所で何かを事件を起こす可能性も高いんだよなぁ……。


「明日は熊鍋かなぁ……」

「人食っとったら嫌じゃから研究機関にでも渡せばいいんじゃないかのう?」

「研究……何かすることあります?馬と熊の交配実験とか?」

「熊の内臓は、割といい薬になると昔から言われているんじゃよ。とれたてどころか生きたままの物が手に入れば大喜びするじゃろ。本当に効果があるのか調べたいじゃろうしな」

「そういう人たちは、自分たちで狩るんじゃないですか?」

「魔獣の熊を倒せるのは、普通に考えれば普通じゃないことなんじゃぞ?」

「あー……」


 そうか……開拓村の人たちっておかしかったんだっけ……。


「……ん?」

「お?」

「来ましたね」

「本当に来るんじゃなぁ……」


 俺とソフィアさんが雑談している間に、待ちわびたターゲットがやってきたようだ。

 カメラの存在には気がついているみたいだけれど、それがなにかまでは当然わからないようで、ゴリゴリと攻撃して破壊している。

 どうやら、自分の縄張りに新しく設置されたものが気に入らないらしい。

 まあ、空中に漂う魔道ドローンには気がついていないみたいだけれど。


「しっかり見えるのう」

「カメラが3番まで壊されてますね……」

「本命の空中カメラがあれば大丈夫じゃろ」

「まあそうなんですが、野生動物を地上のセンサー付き赤外線カメラで撮影するのってちょっと憧れてたので、ドローン撮影はちょっと無粋に感じちゃうんですよね……」

「なんなんじゃその拘りは……」


 その後もカメラを壊しつつ、ルナ18号はとうとう予定ポイントまでやってきた。

 本当にじっと俺の家の庭を観察しているようだ。


 因みに、今俺とソフィアさんがいるのは、超特急で木の上に作ったツリーハウスの中だ。

 作ったのはソフィアさんで、魔術によって3分でできてしまった。

「秘密基地っぽくてわくわくするのう!」ってハイテンションで作られたここは、人間の匂いを外に漏らさないフィルターまでついているらしく、それでいて電波は通す便利な構造だ。

 その御蔭で、今ここはファンタジーのエルフの家みたいな木そのものの住処っぽいものなのに、合計20台の地上カメラと、3台のドローンカメラの映像を映し出すモニターで壁が埋め尽くされている。

 警察の張り込み用偽装トラックみたいだな……。

 ドラマでしか見たことないから本当にあるのかは知らん。


「さてと……じゃあそろそろ行きますか」

「そうじゃのう。もう待つのも飽きたし、熊のケツを叩きに行くか!」

「では、作戦通りに」

「おうともじゃ!」


 俺とソフィアさんが、ツリーハウスの扉を蹴破るように飛び出す。

 そして、庭を見つめて微動だにしていない熊の後ろから襲いかかった。


「ぐるうる!?」


 熊の驚きの声が聞こえた。

 熊にとって天敵となる存在は、大抵の場合自分と同じ種類の熊くらいだ。

 この世界の熊がどこまで自然界の食物連鎖で上の方かはいまいちわからないけれど、流石に自分が狩られる側になったことはそうそうないだろう。

 だからか、それまでかなり慎重に講堂にしていたであろうルナ18号は、俺とソフィアさんから逃れるために、あれだけ警戒していた場所、つまり俺んちの庭へと飛び出してしまった。


「かかったな熊め!」


 その瞬間、一気に距離を詰めて首根っこを掴むと、力任せに押し倒す。

 相手のほうが体格が大きいので、そのまま押さえつけるために木刀を地面に突き刺し支えにした。

 これで、そうそう拘束をとかれることはないだろう。

 昔、聖羅を守ろうとゾンビアタックで戦ったあの熊と比べるとかなり小さいけれど、それでも魔獣のツキノワグマは軽トラくらいのサイズはあるらしい。

 流石にそのサイズの動物を拘束するのは緊張するなぁ……。

 当然だけど、すっごい抵抗してくるし。


『っぐうううう!くそおおお!罠だったのね!!!!!?』


 俺が藻掻く熊の牙や爪にヒヤヒヤしていると、声が聞こえた。

 というか、熊言葉が理解できてしまった。

 あれ?これって白花のときとにているような……。


『おかしいと思ったのよ!普段見ないものがいっぱいだし!いつもウロウロしているあの人間のメスが1人もいないし!馬が血走った目でこっち睨んでいるし!』

「なあ、もしかして俺の言葉わかるか?」

『えええええええ!?人間の言葉がわかる!?しかも相手も理解しているの!?キモチわる!』

「……もしかしてなんだけれど、お前も精霊に近い存在だったりする?先祖に精霊がいるとかさ。精霊を先祖に持つ馬とも最近会話できることがわかって、もしかしてって思ったんだけど……」

『知らないわよ!手を離しなさいよ!私はこんな所で死にたくないわ!元気な赤ちゃんを孕んでいっぱい生むんだから!』


 ん?


「お前メスなのか?」

『そうよ!だから離しなさいよ!離して!離してったら!』

「えぇ……?」


 種族の違いどころか、性別まで間違ってたのか?

 もう交尾すら無理だろ……。

 どうすんだこれ?

 さっさと〆るか?


『あぁ……愛しい貴方……』


 俺の考えなどお構い無しにそいつはやってくる。

 白く力強いその馬は、上気した様子でこちらへと近づいてきた。

 鼻息が白い……。


「待たせたのう大試!……って、なんかすごいことになっとるのう……」

「ソフィアさん、この熊メスだったみたいなんですけど……」

「はぁ?じゃあもう種どころかイチモツすらもっとらんのか?ワシら一体何のためにこんな暗い中がんばっとったんじゃ……」

「白花、というわけで、お前の期待には答えられそうにないぞ?」


 流石の白花も、相手がメスだと分かれば諦めるだろう。


『やってみないとわかりませんよ。愛は性別を超えます』


 諦めなかった。


「いや、無理だろ……」

『まぁまぁ、ここは私を信じて下さい』

「えぇ……?」

『私達馬には、私達なりの相手の見極め方というのがあるんですよ』

「いや、馬じゃないだろ?熊だぞ?」

『とりあえずやってみて、それでダメなら諦めましょう。というわけで、行きますね』


 そう言うと、白花がこちらに尻を向ける。

 何をする気だ?


『離して!助けて!お願い!死にたくないの!子孫を残したいの!そのために人間の作物とかもいっぱい食べて体を作ったのに!』

『この試練を超えた時、貴方は私の種熊として大事に飼育される事でしょう。それでは……すぅ……ふぅ……はああああああああああ!!!!』


 ヒヒィン!という雄叫びが上がると、白花の後ろ足が消える。

 次の瞬間には、俺の顔の横を何かが高速で飛んでいったのが見えた。

 遅れて、顔の横に白花の蹄があった。

 どうやら、後ろ足で蹴ったらしい。

 すごいパワーとスピードでだ。


 えっと、何してんの?


「……あぁ?」


 冷静になって見てみると、ルナ18号の首から上が無くなっていた。

 どうやら俺の顔を掠めていったのは、こいつの頭だったらしい。


『あら?一撃で死んでしまうとは……。これでは、交尾しても強い子孫を残せそうにないですね……』

「……ちょっとまってくれ。なんで殺したんだ?」

『強くなければ意味がありませんから』

「だからって……」

『弱肉強食、それが動物の絶対の掟です。彼はそのルールのもと敗れた。どうやら私に見る目が無かったようですね……』

「いや、見る目はたしかにないだろうな……。熊相手にしたがってる時点で……しかもメス……」

『はあ……残念ですが今回は諦めましょう……。お手数をおかけしましたね』

「お……おう……」


 返り血を浴びて、その白い体を赤く染めた馬が去っていく。

 言われて思い出したけれど、魔獣の血も流れていたんだよなアイツ……。

 怖いわぁ……。


「ソフィアさん、これ、どうします?」


 俺は、となりでぼーっとしていたソフィアさんに、ビクンビクン痙攣しながら血を流すだけの存在になった熊の体を指差す。


「……あー、そうじゃなぁ……。保健所かどこかに人間の畑なんかを襲っとった熊を狩ったと通報するだけでいいんじゃないかのう?」

「そっか……人間社会に被害出してたっぽいですから、俺が頑張って捕まえた事も無意味じゃなかったんですね……」

「そうじゃな……多分な……」

「多分……」


 なんなの?

 なんでここまで頑張ってこんな気持ちにならないといけないの?

 はぁ……もうソフィアにチュールやりたい……。


『オス人間!あの白いでかいのが血だらけになって帰ってきた!怖い!』


 俺が心の安定を求めていると、タイミングよく馬房に残していたソフィアがこっちへ駆けてきた。

 タイミングの良い奴め……チュールの刑に処す!


『うわ!?オス人間こわ!?血だらけこわ!?』

「なんじゃ?大試にびびっとるのか?まあ血だらけじゃしのー。お前はワシと離れてチュールじゃなー」

『チュール!?チュールくれるの!?』

「……」


 俺の癒やしは無くなった。





感想、評価よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
まあ、近隣住民に迷惑かけてた害獣っぽいから、王家の馬が直々に介錯したと考えたらあり……か?
レズビアンな世界を見れなかったこの悲しみ… 熊子さんの方が割と有能な気がしてたんだけどな 駄馬はあかん気がする
そもそも国所有の馬を勝手に妊娠させていいのか……? 本人?本馬?が望んでいるとは言え
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