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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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470:

 王家の馬には、『強さ』が求められます。

 そのため、位の高いものに与えられる馬であればあるほど、過酷な場所で飼育するのがいいとされます。

 だからこそ、有栖はこの地に私を預けるという選択をしたのでしょう。

 いつ襲われるかわからない恐怖が、私達を強くする。

 走る早さ、逃げ切れない時の反撃力、何より、恐怖で我を失わない自制心が鍛えられるのです。


 訓練も何も受けていない馬は、少しの音でもパニックになるものです。

 それは、種を存続させるという面では、間違いなくプラスに働くものでしょう。

 逃げたほうが良いのかどうか、そんな事を考えている数秒のせいで逃げ切れなくなる状況なんていくらでもあるでしょう。

 ですが、戦場に立つこともある我々王家の馬には、そのような行為は許されません。

 近くで爆発が起きようが、魔獣に襲われようが、主を守るために動かなければなりません。

 敢えて動かないことが必要な場面もあるでしょう。


 この犀果邸は、そんな我々の訓練には理想的と言えるでしょう。

 王城から比較的近く、その上でこのように危険と隣り合わせだと感じられる迫力。

 初めてここに連れてこられた時、私は震えました。

 恐怖ではありません。

 武者震いで、です。

『もっと強くなれる!』と。


 数日後、彼はやってきました。

 夜中に、遠くの森から物音が。

 大型の動物の足音です。

 等々やってきたと思いました。

 私を強くする敵が。

 馬房の窓から外を見ると、遠くに光る2つの目が浮かんでいます。

 さぁ、成長の時です。


 しかし、いくら待っても彼は近づいてきません。

 500mは離れた森の中から見つめるだけです。

 そして、しばらくそのまま動かなかった彼は、何故か森へと戻っていきました。

 少しがっかりはしましたが、それはそれで仕方ありません。

 あの緊張感だけで満足しましょう。

 そう思った次の日、しかし彼はまた来ました。

 その次の日も、またその次の日も、彼は森の際までやってきて、そこからこちらの様子を伺い続けているんです。


 段々とわかってきました。

 恐らく、彼は用心深いのです。

 自分が絶対に安全に目的を達成できると判断するまで、事に及ぶことはない。

 そういう慎重さと忍耐強さも魅力的です。

 しかも、黒くて大きくてがっしりしている。

 アレこそが、雄の中の雄なのだと私の雌の部分が告げます。


 とはいえ、そろそろ私も焦れったいのです。

 そろそろ種付けしていただきたい。

 あまり遅くなると、繁殖期が過ぎてしまいますので。

 私達は、あなた達人間ほど長生きではありません。

 出産可能なチャンスは多くないのです。

 頑張っても10回から20回も産めれば良い方でしょう。

 そのチャンスを無駄にしたくない。

 ですから、強いオスが必要なのです。

 あの熊の種が欲しい、それが今私が最も望むものなのですよ。




「めっちゃ語るのう……」

『オス人間!チュールおかわり!』

『はぁ……孕みたい……産みたい……』


 どう説明すれば良いんだ?

 うーん……。


「あのなぁ……もう一回言うけど、無理だからな?」

『確かに彼と私が結ばれるのは難しいでしょう。ですが、だからこそ燃える心というものもあるのです』

「そうじゃなくてな、熊の精子じゃ馬の雌は妊娠できないんだよ」

『……はい?そんなはずはありません。女は男の精子で孕むものです』

「同じ種類か、近い種類の動物であれば妊娠もできるけど、流石に馬と熊じゃ無理だって」

『そんな……信じられない……』


 そう言われてもな……。


『わかりました、では、とりあえず今年の妊娠は諦めましょう』


 わかってくれたか?


『しかし、それはそれとして、彼と交尾したい』

「はぁ……?」

『これはもう本能的なものです。是非とも彼と引き合わせて下さい』

「いや……えぇ……?」


 何いってんだこの馬?

 頭大丈夫か?


「交尾って言ったって、熊の魔獣とだろ?危険すぎる」

『構いません、元々馬同士でもとても危険な行為ですから』

「構うだろ……」

『それでもやってみる価値はあります。私の本能がそう言っているのです』

「やべぇ……一つも同意できねぇ……」


 なんだけど、何となくわかるんだよなぁ。

 この白花は、俺が理詰めで説得した所で聞かない。

 完全に暴走状態だ。

 馬にそういう状態があるとは知らなかったけれど、思春期の男子中学生レベルで下半身に脳が支配されている。

 となると、妥協点を探さなければいけない。

 どうしたもんか……。


「だったらさ、とりあえずその熊を捕まえてやるから、とりあえずその状態で近くで見定めて見たら良いんじゃないか?」

『そのようなことが可能なのですか?熊ですよ?』

「王家から預かっている馬を熊と交尾させるよりは簡単だよ……。遠くから見ているだけじゃわからないことも、近づいてじっくり確認してみればまた印象も変わるかもしれないだろ?」

『なるほど……たしかにそのとおりです。もしそれが可能であるのであれば、お願いしたいですね』


 できれば、そこで諦めてくれないかなぁ……。

 じゃないと、どう言い訳すればいいのかわかんねぇもん……。


『楽しみですね……初めてのお見合いです……。魚を食べるよりワクワクします……』

「そいつぁよかった……」


 猫にチュールやると癒やされるなぁ……。






感想、評価よろしくお願いします。


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肉食な馬君… 草食な熊君居てもいいと思わん?
くまくん逃げて! 全力で逃げて!!あ、大試からは逃げられない?それはそう……
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