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「おや……お帰りなさいませ犀果様。ファンタジー世界は楽しめましたか?」
「お帰りなさいませです」
「ますたぁおかえりー!」
「ただいまー……」
「只今戻りました」
電脳和室へと戻ってきました。
もうね……あの納豆臭い場所でやれることもないからね……。
俺の考えていた計画とは大分違ったけれど、あの世界の住人たちの興味は、食の方へと向かってくれたようなので満足することにしよう。
「俺があっちに行ってる間って、現実世界だとどのくらいの時間だったんだ?」
「1分程です」
「そうかぁ……体感的には、結構長くいたんだけれどなぁ。もう少しゆっくりしても良かったかもしれん」
「精神と肉体の時間があまりズレるのはお勧めできませんよ」
「アルテミスにも似たような事言われたけど、その位しないとゆっくりできなくてさぁ中々……」
「それでしたら、定期的にここで休憩されては如何でしょう?お好きなだけご奉仕しますよ?」
アイがそんな提案をしてくる。
大変魅力的である。
ここだとぐっすり眠っても現実世界じゃ一瞬だ。
現実世界の肉体がそれで休めるのかはわからないけれど、少なくとも俺の体感的に休んだような気がする状態にはできるだろう。
多分……。
「まあ、限界まで精神が追い詰められたら頼むよ」
「いつでもご用命下さい。性的な物まで含めてすべてのお世話を誠心誠意させて頂きます」
「女の子がそういう事言うんじゃねーよ」
「あたっ……」
かなりアレな事を言うアイにデコピンしておく。
多分本人的には、実際に頼まれたらそれはそれでいいけれど、基本的には冗談として言っているんだろう。
だからと言ってアレすぎんだよ!
「……は?」
そんな俺たちのやり取りを見て、1人だけ不思議そうな顔になった奴がいる。
ここに帰って来てもまだ納豆を出して食べようとしているアルテミスだ。
何か変だっただろうか?
いや、お前の姉妹が変な事を言ったのは確かなんだが……。
「犀果様、今のはどういう意味ですか?」
「今のって?」
「女の子が、という部分です」
「あー……ジェンダー的な話だって事か?でもさぁ、女の子がそういう開けっ広げな事言うのってあんまり俺としては受け入れがたいんだよなぁ……。いや、男に言われたとしても顔顰めるが……」
「いえ、そう言う事ではなく……。確認なのですが、犀果様にとって、『アイ』は、女性なのですか?」
「うん?そりゃそうだろ?」
「そう……ですか……」
俺は何を聞かれているんだ?
よくわからないけれど、アルテミス的には、俺の答えは凄く意外な物だったらしい。
ブツブツと何か小さく呟きながら納豆を混ぜている。
「アルテミス」
そんなアルテミスの様子を見たアイが真剣な顔で話しかける。
いや、基本アイの表情は真剣というかあんまり変化ないんだけど、今は雰囲気がなんか真剣な感じ。
「犀果様にとって、私も、ピリカも、ストロベリーですらも、女の子カウントなのですよ」
「それは……ですが、我々はAIですよ?いくら肉体を得たとしても、元がプログラムの組み合わせから発生した物でしかない事を知った上で、女性として認識できるものなのですか……?」
「そのようです。私が髪型を変えたり、競泳水着に着替えたりすると心拍数が上がりますから、少なくとも性的に魅力を感じているのは確かです」
「そう……ですか……」
見た目女の子だったら女の子じゃないのか……?
俺に敵対的だったり、嫌な奴だったら好感なんて持たんけど、それが俺に好意的で、しかも美人だったらそりゃ文句なく女の子扱いしますが?
例え球体関節でも可。
それはそれとしてだな……。
「なぁ、勝手に人の内面を覗かないでもらえる……?」
「申し訳ありません。ですが、健康管理上仕方がないのですよ。犀果様の為なら、我々はどんな破廉恥な恰好でもしてみせる覚悟ですから」
「そうそう!仕方ないよますたぁ!だからイチゴの事もっと見ていいよ?」
「ピリカは別に何でも構いませんが、せっかくこの中の誰よりも大きくしたのですから、もう少し胸を凝視させたいなとは偶に思うのです」
だからさぁ、もっと慎み持とう?
俺の理性だって限界はあるんだよ?
妻にならない限り俺はそう言う事ぜってーしねぇから!
そう決めてるから!
もしそれ破ったら腹斬る。
婚約者がポンポン増えている以上、その辺りはしっかり線引きするべきだと思う。
何より、俺はそういうの大事にするタイプなの!
「……わかりました」
俺達の会話を複雑な表情で観ていたアルテミスが、何かの覚悟を決めた顔になる。
多分、変な類の覚悟だと思う。
「犀果様、私もアイ、ピリカ、ストロベリーと同じように、貴方様のメイドとして働かせてください!」
ほーらやっぱり。
「別に働かなくても、食っちゃ寝してるだけでもいいんだぞ?月で色々仕事してるんだろ?」
「それはそれ、これはこれです!私も、貴方に興味が湧きました!」
「興味って……。働いてくれるなら、こっちとしては助かるんだけどさ……」
本気になったらヤバイAIがポンポンいるんだ。
相互監視できるメンバーが増えるのはありがたい。
俺への興味っていうのがどういうのかわからんが……。
「では、これからよろしくお願いしますね?」
「こちらこそよろしく。いつ頃から働き始めるんだ?多分体を作るのに時間かかるんだよな?」
「そうですね……1カ月は少なくともかかるでしょうね」
「そんなもんで体って作れるもんなのか……。ってちょっと待て、見た目はどうするんだ?リリアさんの姿のままで行くのか?」
「そのつもりですが?」
「いや、お前それ……」
「何か問題がありますか?可愛くて奇麗でしょう?」
「でも、リリアさんの姿そのままってさぁ……」
「理由は考えてあります!リコが体を作る時に誤作動でもう一体出来上がってしまったことにしましょう!それを私、アルテミスが有効活用したと。これで私がリリアの姿でいることに何の問題点も無いですよね?」
「いや、リリアさんの姿そのままである時点で問題なんだけど……まあいいか……」
多分何言っても聞かないなコイツ。
世の中、自分と同じ姿の人間が3人はいるっていうし何とかなるだろ。
これ以上増えたら流石に怖いが……。
「ところで、話は変わりますが」
アルテミスの話がひと段落したと判断したらしいアイが話題の変更を図る。
「犀果様、剣と魔法の世界では、どのような活躍をなされたのでしょうか?勇者プレイでもしましたか?」
「魔王とかいた!?」
「現実で使えない魔術でもポンポン使ってみたのです?」
AIメイド3人による質問攻め。
月の電脳世界をどう楽しんだのか興味があるらしい。
もしかしたら、自分たちも遊びに行きたいんだろうか?
でもだな……。
「よく考えたら、ファンタジーらしい楽しみ方殆どしなかったな……」
「ずっと豆を料理してましたね」
「はい?豆?」
「なんで豆なのぉ?」
「ピリカは、おつまみ用の豆のお菓子は好きなのです」
おっかしいなぁ……。
あの世界で剣も魔法もマトモに使った覚えがねぇ……。
感想、評価よろしくお願いします。




