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「遥か昔、我々人類は、想像主たる神たちの模造品として作られました」
教会の講堂。
そこに座りながら教会長という役職のおばさんが説明する神話を聞く。
因みに、アルテミスは寝ている。
俺の太ももを枕にして実に気持ちよさそうに。
おかげで、ここから追い出されないかとヒヤヒヤしながら話に耳を傾けている俺です。
「神々は、自分たちの未来に不安を感じていました。完成された存在である神々が進化するためにはどうするべきなのか……。その一つの答えとして作り出されたのが私達人間です。私達人間は、完璧ではありません。それぞれがどこかしら不完全な存在です。その不完全さにこそ、神々は可能性を感じたのでしょう。欠けたところを補うための成長こそが進化なのです。しかし、我々人間は、そんな神々の思いを踏み躙りました。己こそが最高究極の存在であると考え、神々へと戦争をしかけたのです。そして、神々を滅ぼすまではいかずとも、ほぼ殺し尽くす所まで攻め込んだそうです」
悲しそうな顔の教会長。
壮大な話だなぁ……。
この寝ているボケナスから聞いた話とはだいぶ違う内容だけれど、3000年以上経つと、こんなふうに事実っていうのは変わっていくもんなのかもな。
ドラゴンと車が交尾している絵で興奮するのがいつか一般性癖になるかもしれないという話に似ている。
「神々は、そんな人間たちの行いを見て悲しみ、人々の世界から離れたそうです。そして、ここではない別の星へと移り住みました」
あれ?大分ちがう話になったか?
「しかし、人間の欲望は止まりません。神の星へと攻め込む計画を立てました。その尖兵として、当時最強の人間であった皇女を送り込んだそうです」
あれ?
もしかして、ここでいう神々っていうのは、現実世界の人類のことか?
んで、リバースヒューマンである自分たちが元からの人類であると思っている?
リバースヒューマンという言葉がもう残っていないんだろうか?
「皇女は、神の星へとたどり着きました。そこで待っていたのは、美しい自然に囲まれた奇跡のような光景です。驚く皇女に神々はこうおっしゃいました。『これは元々存在していたものだ。お前自身が破壊したものでもある。自らの行いを反省し、未来のために励むと約束するのならば、お前たちの星を豊かにしてやろう』。その申し出をあろうことか皇女は断りました。『貴様らから与えてもらう必要は無い。神々を殺し尽くして、私達がこの星の霊長となろう』と叫びながら。しかし、皇女は負けました。本気になった神々の力の前に人間は無力だったのです。このとき、神々の慈悲ある提案を芦毛にした皇女の行いに激怒した2人の女神がいました。それが、ストゥルベルとラピリカです。彼女たちは、当時の人間がもっていた技術をことごとく破壊し、文明そのものを消し去りました。二度と神々の星へ人間たちがやってこれないように」
まあ、破壊し尽くしたのは事実なんだろうな。
だって、SFな宇宙船作れるところから、ここまでファンタジーなことになるんだもん。
あの2人、文明どんだけ徹底的にぶっ壊したんだよ?
「魔術を使うことはできました。しかし、魔導科学を奪われた人類は窮地に追いやられます。医療も食料も、当時の人間にとって魔導科学の存在が前提とされていたものだったからです。飢えと疫病によって人類は10分の1まで減ったそうです。そんな人間たちを哀れに思った女神が1人だけおられます。それこそが、我らが存在するこの世界そのものを作り出したとされる女神、アルテミス様なのです」
お?
名前出てきたぞアルテミス。
俺の太ももを食料と間違って噛みつこうとしてる場合じゃないって。
「アルテミス様によって、人間は新たな糧を得ることができました。それが、この豆です」
豆?
なんで?
「人間が神々を滅ぼそうと起こした戦争によって荒廃した大地でも育てることができ、栄養価が高いこのアルテミス豆によって、人間の飢餓が解消され、さらに健康状態も良くなったことで疫病も治まったのです。この奇跡によって、我々は今日の発展を遂げることができたのです。今、みなさんがこうして私の話を聞くことがてきているのも、全てはアルテミス様のおかげということですね」
ニッコリと笑顔でそんな事を説明してくれた教会長。
多分死滅しない程度にくいもんよこしとくかってくらいの考えだったであろうアルテミスの考えはさっぱり理解できていないようだけれど、それもしょうがないか。
俺だって何も聞いていなければ、こうしてとうとうイビキをかき始めた女の子が件の女神だとは思わんもん。
……まあ、割と元女神とか現女神は、俺の膝で寝落ちをかますけれども……。
「ふふふ、まあ若い女性にはつまらなかったかしら?」
俺がある程度の情報入手できたのでそのまま帰ろうとしていると、教会長が話しかけてきた。
怒られるんだろうか?
「申し訳ありません。この娘、かなりの箱入りだったもので、昨日すこし外を歩いただけでかならい疲れたらしく、ダメだと思いつつも眠るのを我慢できなかったようなのです」
「まぁまぁ……。何が有ったのか存じませんが、大変なようですね?」
「そうでもないですよ?むしろ、こちらは付き合ってもらっている立場ですから」
「そうですか……。では、貴方達にアルテミス様のご加護があるよう祈っております。それとこれは、アルテミス教会からのお裾分けです」
そう言って教会長が手渡してきたのは、先程話しにも出てきた豆だった。
美味しくなさそうだ……。
もしかして、この世界の食料といえばこの豆なのかもしれない。
そうだとすると、ホテルの食事が酷かったのも理解できる。
「ありがとうございます。それでは、我々はこれで……」
「またのお越しをお待ちしています。アルテミス様の慈悲があらんことを」
そのアルテミス様を背負いながらアルテミス教会を出る。
神話とはいえ、この世界の歴史を知ることができたのは良かったな。
まさかアルテミスだけじゃなく、イチゴやピリカまで女神扱いされているとは、この世界に入るまで全く思っていなかったけれど、なかなかおもしろかったよ。
そして、どうやらこの感じだと、この世界からログアウトして現実世界へと出てきたうえで、地球まで攻め込んでくるような発想をする者は少なそうだ。
大分安心したな。
「んみゅ……」
アルテミス様がこんなふうに寝ていなければもっと安心なんだけどな……。
「アルテミスー、起きろー。教会の話聞き終わったぞー」
「はう!?……あぁ、そうですか……」
「昨日からよく眠るなぁお前。でも、時と場所は考えろよ?流石に教会じゃ怒られると思ったぞ?」
「申し訳ありません……。睡眠という行為がこうも気持ちの良いものだとは知らなかったものでついつい……」
食欲と睡眠欲で堕落寸前だぞこの女神(仮)。
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