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この月のシェルターとやらで管理されている電脳世界に来た理由は、単純に面白そうだったからだ。
剣と魔法の世界に触れたかったんだ。
後は勢いかな……。
ただ、それはそれとして、100万人規模のコミュニティが存在するのであれば、調査もしておいたほうが良いだろう。
科学技術がAI達によってぶっ壊されたリバースヒューマンたちが、剣と魔法が重視される世界へと発展させたというのは聞いたけれど、じゃあそのファンタジーパゥワで地球まで攻めてこられても嫌だしさ。
実際にリコは、生身で単身乗り込んできているわけだし……。
本人曰く、
「体の周りに魔力を纏って、後は地球に向かって全力で落ちて行くだけです。案外簡単でしたよ?自転と公転のことを忘れていて危うく太陽に突っ込むところでしたが」
とのことだけれど、アルテミスに言わせれば、そんなことができる規格外の能力とアホさを併せ持つのは、リバースヒューマンといえども本当に少数らしい。
ならば、戦争という自体に備えるのであれば、艦隊規模で戦力投入されるのを防げばなんとでもなるはず。
戦争は数だ!
アルテミスにナビゲーションに従って走ること1時間ほど、ようやく遠くに人工物のような物が見えてきた。
「アルテミス、アレが100万人が住んでいるっていう街か?」
「そうですね。確か名称は、『神都アルテミス』とかなんとかだったような?」
「仮にその名前が正解なんだとしたら、自分の名前をつけられた都市のことすら覚えていないことになるが……?」
「ストロベリーとピリカさんのお陰で、リバースヒューマンたちを地球に向かわせないための工作が非常に楽になりましたからね。その分ギチギチに監視する必要もなくなりました。今後数百年は大丈夫なのではないでしょうか?」
この電脳世界は、アルテミスが未来を確認するためにかなり加速されている状態にあるらしい。
様子を見るために俺がアクセスしている間も都合がいいのでそのままにしてもらっている。
そのため、俺が多少この世界をエンジョイしてから戻ったとしても、聖羅たちが風呂から上がってくるよりも前の時間だろう。
ということは、この電脳世界では、イチゴたちが大暴れしてからものすごい時間が経っていることになるけれど、それでも地球への侵攻ができる状態じゃないということは、本当にこれからかなり長い時間心配する必要がなくなるってことだろう。
善き哉善き哉。
「……よくその体制でお茶飲めるな?」
「どら焼きにはお茶とデータにありましたので」
「いや確かに合うかもしれないけど……まあいいや」
俺たちは現在、走っている。
アルテミスは、俺の小脇に抱えられながら、器用に右手にもつ湯呑みから緑茶を飲んでいる所だ。
左手にはどら焼き。
なんというか……流石というかなんというか……。
この世界においてアルテミスは、全知全能の神みたいな存在なんだろうから、これくらいできて当然なのかもしれないけれど……。
「このまま真っ直ぐ進むと、南大門に着くはずです」
「南大門……食べ物屋でたまにあるよな」
「南大門がある食べ物のお店ですか!?それはとてもすごいテーマパークなんでしょうね……じゅるり……」
話が通じていないけれど、まあいいや。
アルテミスの言う通り、進んだ先にはでかい門があった。
といっても、別に城壁に囲まれているというわけではないらしい。
でかい門が建っているだけだ。
一見すると、鳥居のようにも見える。
「この門になんの意味があるんだ?高い壁に守られているわけでもないみたいだし。凱旋門みたいなもんか?」
「いえいえ、この都市の周りは、巨大な結界によって守られているようです。魔導科学によって作り出された超巨大結界装置なので現在ではロストテクノロジーとなっており、そのせいでこの都市に人口が集中しているようですね」
「へぇ……」
逆に言うと、結界の外側で生活するのはそれだけ大変な世界ってことか。
それがたとえリバースヒューマンであったとしても。
そんなんじゃ人類生存圏なんて維持できないだろ!って思わず突っ込みたくなるファンタジー感の高まりを感じる!
「あの南大門って普通に通れるのか?身分証とかこの世界の通過を要求されたら、強行突破するしかなくなるんだけど」
「ご安心ください。魔獣に備えているだけであって、人々の往来を制限するものではないようですので。夜になると閉められるようですが」
「なら大丈夫だな。さっさと入ってしまおう」
「その前に、注意点があります」
「注意点?」
何かの間違いで締め出しを食らっても嫌なので、さっさと街の中に入ってしまいたかったんだけれど、それをアルテミスに止めらる。
また食い物関係のことだったらデコピンしてやろうかな?
「今私は、犀果様に抱えられている状態ですよね?」
「そうだな」
「このまま中に入った場合、確実に犀果様は誘拐犯か何かだろうと判断されるでしょう」
「……まあ、かもな」
少女を抱えて走り回る男。
そんなの、即銃殺したほうが良いかもしれない。
「この世界では、誘拐犯は問答無用で殺して良い事になっていますので、ここからは2人で歩いて行くほうがいいでしょう」
「逃げ切ればいいなら、無理やり突破する事もできるとは思うけど?」
「それで騒ぎになった場合調査が満足にできませんし、何よりこの都市では個人データが徹底的に管理されていますから、仮に犀果様が危険人物であると判定を受けた場合は、都市内での活動が著しく制限されることでしょう。例えば飲食店の利用とか」
「……じゃあ、2人でゆっくり歩いていくか」
「はい!食べ歩きしましょう!」
そう言って、早速とばかりに手に持って食べられるものをポコポコと作り出し始めるアルテミス。
食べ歩きってそんな感じだっけ?
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