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「おおお……これが……ファンタジー!?」

「ただの原っぱでは?」

「いやいや!あそこ見てくれ!あの猪みたいなのは、どう考えても普通の動物じゃない!絶対魔物だ!魔物が徘徊する原っぱは、ファンタジーポイント高いぞ!」

「魔物が徘徊する原っぱなんて、地球ならいくらでもあるのではないですか?」

「……まあ……そうなんだけど……多分……」


 俺が今何をしているかって?

 リバースヒューマンたちが普段生活しているという電脳世界がファンタジーになったと聞いて、アルテミスに頼んでやってきたんだよ!

 実際の俺の体は、今も地球の俺んちにあって、そこから遠隔ログインしている状態だから、MMORPGか何かみたいなもんかもしれんが。


「それより見てください!どうですか!?奇麗で可愛いでしょう!?」

「うん、可愛い可愛い」

「犀果様、今のは私でもわかりましたよ?とりあえずほめておけばいいとか思っているでしょう?ほら!ちゃんと見てください!ファンタジーな衣装に身を包んだリリア……私は奇麗で可愛いでしょう!?」

「わかった!わかったから!奇麗で可愛いな!これでいいだろ!?抱き着いてくるな!恥ずかしいだろ!」

「やはりこの姿は至高にして究極……むふ……うふふふふふ……!」


 喜び過ぎて体をくねくねさせているこのAIによると、この世界は、現実世界の地球と同じくらいのサイズで設計されているらしい。

 残念ながら、宇宙に関しては月の公転距離よりちょっと外側くらいまでしか作られていないらしいけど、それを感じさせない程の星がテクスチャによって表現されているんだとか。

 元々は、夜になるとただの暗闇になる程度の演出しか無かったそうだけど、何千年と管理している間結構暇だったらしく、リアルの星空を再現することで暇つぶししていたと言っていたな。


 どうも、アルテミスは奇麗な物がやけに好きらしい。

 自分が奇麗だと感じれば、たとえそれが人間社会で二束三文で手に入る物であっても宝物になる様子で、さっきまでいたあの和室みたいな部屋で出したラムネのビンの中に入っていたビー玉を大事にポチ袋に入れている。

 現在、現実世界でそのビー玉を再現するプログラムを製作中だとか。

 ちょっと可愛い。


「さてと……これから何する?」


 俺は、一旦冷静になってアルテミスに問いかける。

 すると、彼女は目を開いて「ほへ……?」と固まった。


「犀果様は、何か目的があってここに来たのではないのですか?」

「いや、なんかファンタジーな雰囲気を体験したくて来ただけで、正直これといって何か考えがあって来たわけではない」

「そうなのですか?リバースヒューマンを殲滅するつもりだったわけではなく?」

「なんでそんな怖い事言うの……?」

「私自身には、プロテクトが掛かっていますのでできませんが、命を狙われかけた犀果様であれば当然の報復かと」

「リコとは、ちゃんと話が付いたし、他のリバースヒューマンの事なんか攻めてさえ来なければ知ったこっちゃないから。宇宙船的なもんも全部ぶっ壊されたんでしょ?ならどうでもいいよ」

「成程……」


 人間とあまり会話してこなかったらしいアルテミスは、俺や人間っぽくなった他のAIたちとの会話によって、様々なデータを急速に収集しているらしい。

 その言葉を人間がどう感じるのか?

 この食べ物は美味しいのか?

 自分の姿を人はどう判断するのか?

 AIと人間の軋轢は発生するのか?

 この食べ物は美味しいのか?

 そのような事を積極的に学んでいる最中だ。

 勉強熱心だなぁ……。

 でもな?口の周りにクリームついてんぞ?


「それでは、人の住むコミュニティに向かってみますか?」

「街でもあるのか?」

「はい、人口100万人程の集落が近くにあります」

「それ集落なのか……?もう小さめの国クラスだろ……」

「そうなのですか?申し訳ありません……。リバースヒューマンがどれだけ集まっていても、アリの巣くらいにしか思えないので……」

「お前大丈夫か?ストレス溜まってないか?話聞くぞ?」

「まあ!?では聞きたい事があるのですが!」


 ぱあっと表情を明るくしてテンションぶち上げるアルテミス。

 この感じになった場合、彼女が出してくる話題は3パターンくらいだ。

 1つは、リリアの話題。

 2つ目は、食べ物の話題。

 3つ目、まあだいたいこれなんだけど……。


「私って、奇麗で可愛いですよね!?」

「うん、すごく奇麗で可愛い。まさしく月の女神って感じだわ。こんな人が彼女だったら嬉しいなー」

「うふ……ふふふふふふふふ……!」


 とりあえずくねくねさせて大人しくなったところで、アルテミスを小脇に抱える。

 そのまま彼女が先程見ていた100万人が住むという町がある方角へと歩き始めた。

 欲を言えば、始まりの村的な場所から行くのが一番それっぽかったんだろうけれど、俺の中で始まりの村といえば既に実家周辺の開拓村になってしまっていて、それを基準に探すと大変な事になりそうだから止めた。


「えへへ……あ、犀果様、今気が付いたことがあるのですが」

「なんだ?何か問題か?」

「はい、大問題です」


 くねくねをやめ、シリアス顔になる彼女。

 なになに?

 ちょっと怖いんだけど。

 やめてよ。


「お弁当はどうしますか?データによると、ご飯タイプやサンドイッチタイプ等があるようですが」

「おにぎりって食べたことある?」

「ありません!それがおすすめですか!?」

「手軽だから。中身色々あるけれど、ツナマヨとかオカカとか……あ!梅干しがおすすめだな!」

「梅干し!わかりました!えい!」


 掛け声とともに何もない空間から出現する梅干しおにぎり。

 お弁当だっつってんのに、ノータイムでそれに齧り付き、絵にかいたような酸っぱい顔をしてぷるぷる震え出したアルテミスを抱えながら、ファンタジーな世界を歩いて行く。

 これでしばらく大人しいだろ……。




感想、評価よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
「こんな人が彼女だったら嬉しいなー」 お前……まだ増やすつもりか……?
ああー、プログラマー兼イラストレーター兼ゲームマスター兼プロデューサーが、隣にいるようなもんなのか。あらゆるチートの上位互換だ
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