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「この羊羹という……和菓子?でしたっけ?とても美味しいです!肉体を得たら真っ先に食べるものリストに加えました!」
「今まで食べたもん全部登録されてるじゃないか……」
「全て美味しいのが悪いんです!データだけでこれほどとは!」
リリア……じゃなかった。
アルテミスが色々な食べ物をモリモリ食べている。
この電脳世界であれば、どれだけ食べてもリセットできるからと。
そして、うちのAIメイドたちもそこに加わっている。
俺のここでの役目といえば、美味しそうな食べ物を思い出して教えること。
まあ、教えたもんが全部美味しい判定なので、楽といえば楽だ。
「犀果様、次はしょっぱいものが良いです」
「しょっぱいもの?うーん……ラーメンとかどうだ?一緒に餃子も」
「いいですね。あのまだ深夜ラーメンの罪深さを知らない彼女にぶちかましてやりましょう」
「ぶちかましてください!」
割とシリアスな会話をしていた気がするんだけれど、いつの間にかそんな空気は残っていない。
たまにシリアスになりそうになっても、すぐに消え去ってしまう。
「……は!?そうでした!どうしてここにストロベリーがいるのですか!?コレが何者かわかっているのですか!?」
こんな感じでアルテミスが口の周りを汚しながらシリアスぶろうとする。
「えー?イチゴ、そんなことしないもーん。はい、シュークリーム!」
「あむっ!?……美味しい!?」
こんな感じだ。
「イチゴを庇うわけではないのですが、ピリカたちと合流してからイチゴはそこまで悪いことしていないのです」
「そーだそーだ!」
「犀果様にベタ惚れしているため、犀果様を悲しませるようなことはしないはずです」
「AIが人間に惚れていると!?それは性的な意味でですか!?」
「そうだよ!羨ましいでしょー?」
「私も犀果様の愛人ですが?そもそも、アルテミス。貴方は今自分の姿を自覚して言っているのですか?」
「はい?私の姿になにか問題が?とても美しいと思うのですが……」
「あのさぁ、サラッと勝手に人の愛人にならないでくれないか……?」
姦しい。
非常に姦しい。
女が3人揃うどころか4人もいればそりゃこうもなるか。
男が4人揃った場合?
知らんな……体験したことないもんそんな状況……。
「そういえば、今日はイチゴたちも何かやってたのか?仕事してたとか言ってたけど」
「うん!すごく頑張ったよー!」
「ぶっつぶしてやったのです!」
「ちょっとまて……なんか物騒なこと言ってないか?」
こいつらによる物騒な事柄って、それはもう1つの世界を終わらせるレベルの話になるだけれど……?
「ノイズの原因が月の施設だとわかった段階で、ピリカたちは調査を始めたのです」
「そしたら変な人間もどきたちがいっぱいで、しかもデータ上の存在になってるんだもん。なにこれ?って思ってたら、どうもアルテミスが色々やってるみたいだなーってわかって、どうしよっかなーって思ってたら、そこからやってきた人形の生物がますたぁに喧嘩売りそうになってるし」
「だから敵対的な存在だと判断してピリカたちは破壊工作を行ってきたのです」
「破壊工作!?」
お前らの行う破壊工作って(以下同文)。
「いったい何をしてきたのですか?」
「あれ?アルテミスさんの反応が軽い……」
「正直言いますと、人間であると私の倫理判定では決定していますけれど、リバースヒューマンは私の感情的な面で言えば、大切に育ててきた人類の自業自得とはいえ、滅ぼした者たちです。積極的にどうこうしようと考えているわけではありませんが、滅ぼされてもまあいいかな……くらいの感覚ですね。幸いなことに、リリアが生き残ってくれましたので、彼女がポンポン子孫を産んでくれれば私のこれまでの働きが無駄では無かったことになりそうですし、何より美しいのでそれでいいです。リコに関しては、リリアにそっくりなのでセーフ判定ですね。あ、この餃子というもの美味しいです!なんだか臭いですけれどそれがまた!」
「どうしよう……マトモじゃなくなった上ににんにくまで気に入っちゃった……」
ピュアな少女に罪を教えている気分だ。
「てっきりアルテミスも敵側だと思ってたからこっそり色々やってたのに、終わらせてここに来たら本人がいるし焦ったのです」
「ねー」
「……で、何をどの程度してきたんだ?」
「星間航行が出来そうな技術は全てデータを消去したので、電脳世界でも現実世界でもただの金属の塊になったのです」
「生身で魔術つかって月から来れる子も何人かいるみたいだけれど、地球に行こうと思えるほどの余裕が無くなる程度にハチャメチャな世界にしてきたよー♡」
「そ……そうか……」
こえーなぁ……。
どんな世紀末な事になってんだろ月のシェルターとやら……。
「へぇ……そんな事をしていたのですねぇ。私がこれから対処しようと思っていた以上の破壊行為です。まあ、私は私でこれから彼らの思想を誘導し、地球に興味を持たせないようにするつもりですが……ズルズル……んん!?ラーメン!このラーメンという食べ物美味しいです!」
「麺を食べ終わったらスープにご飯を投入しても美味しいですよ」
「そんな……アイ、貴方は本当にAIなのですか!?麺を入れていたスープにご飯を入れるなんて非論理的な……おいしい!?」
「でしょう?聖羅様から教わりました」
「聖羅様は神なのですか?」
「聖女です」
「聖女……ラーメンとは聖なる食べ物なのですね……」
……成程、眼の前で繰り広げられている事柄をスルーしながらまとめると、つまりしばらくは安全ってことか?
リコみたいに、1人で月からここまでやってこれる程の魔術か何かを使えるリバースヒューマンが来ない限り。
それならこちらとしてはありがたいけれどさ。
「……おや?」
ラーメンスープで作った雑炊を食べていたアルテミスさんが何かに気がついたように止まる。
その隙に、口の周りを布巾で拭いておく。
ちょっと見てて気になったので……。
うん、綺麗になった。
これでギリギリギャグじゃなくなる。
「少し私の電脳世界を加速させ、どういう世界になるのかを見てみたのですが……」
「そんな事もできるのか」
「はい。結果から言うと、機械類が太古の遺産という扱いになり、剣と魔法が重要視される世の中になりました」
「……え?」
ちょっとまって?
それって……。
「俺が行きたかったファンタジーの世界そのものじゃん……」
「そうなんですか?それより今度はまた甘いものをお願いします」
「あ……はい……じゃあアイスクリームとか……」
「アイスなのにクリーム?何を言っているのですか?」
この日、一つの戦争が回避された。
しかし、同時に俺の中に釈然としない気持ちが生まれた日でもある。
それはそれとして、アイスクリームとかソフトクリームをペロペロ食べる女の子って可愛いよね。
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