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「あぁ……これが肉体を持つということなのですね……!なんと……なんと素敵なことなのでしょう!?今までこの快楽に興味を持たなかった自分が信じられません!」
「あの……大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ?むしろ絶好調です。私という存在が完成してからの長い年月で、最も気分が良いかもしれません」
AIの考えることは、やっぱりよくわからん……。
「犀果様、質問があります」
「はぁ……なんでしょう?」
「私を見てください」
「はい?まあ、見ていますよ?」
「可愛いですか?綺麗ですか?」
「まあ……可愛いし綺麗ですね。京都で出会った頃のリリアさんの姿そのままですし」
「そうでしょう!?うふふふふふふ……」
ものっそい喜びよう。
体をクネクネしてる。
「アイ!アイ!この人大丈夫か!?」
「人ではありませんし大丈夫でしょう」
「ならいいか……」
考えるのも面倒だ……。
「それで、俺をここに呼んだのって、アルテミスさんと会わせるためだったのか?これでもう用は済んだのか?」
「確かにアルテミスと会わせるためではあったのですが、もっと色々と話を聞いて頂こうと考えお呼びしました。現時点でまともな会話ができていないのは、偏に彼女がヤバいからです。今までは、自分でそのヤバさに気がついていなかったようですが、私の真似をしてアバターを用意した瞬間から弾けてしまいました」
「デビューしちゃったか」
「デビューしちゃいました」
それまで比較的マトモだったということか?
なんて罪深いAIなんだアイは……。
「おほん、ついつい関係のない話をしてしまいましたね。では、本題に入りたいと思います」
「お願いします」
先程のことに関しては、敢えて突っ込まない。
見なかったことにしよう。
そこから、アルテミスさんから色々と説明を受けた。
リバースヒューマンによって滅ぼされた国というのが、月にあるアルテミスさんが管理している施設内に存在していたこと。
そしてそこからやってきたのがリコであること。
ここから自分も肉体を現実世界で作り出して、おっぱいが大きくなるまで食っちゃ寝してみたいこと。
色々なことを聞いた。
「まあ、リコからも色々聞いていたので、ある程度は理解できました。そのうえで聞きますけど、俺に何をお望みなのでしょうか?」
彼女の話が本当であれば、積極的にではないにしろ、俺達へ危害を加えかねない組織の親玉的存在なわけだ。
正直言うと、このまま帰ってくれって感じ。
可愛いとは思うが、危ういとも思うし。
「私が、リバースヒューマンによる地球への武力行使を可能な限り遅らせます。彼らを直接害する事は、私には不可能ですが、彼らが貴方達を知る機会を可能な限り排除し続けることならできます。それが何年間かはわかりませんが、私のもつ処理能力の6割を費やしましょう。これは、私がリバースヒューマンたちを滅ぼさずに提供できるリソースのほぼ全てです」
「余剰リソースのほぼ全てってことは、かなり問題が出るんじゃ?必要があるから余剰リソースってもんを要しているんだろ?」
「元々は、血の通った元々の人類を存続させるために用意されたものです。大半が情報の世界に存在するだけのリバースヒューマンであれば、この程度のリソースで済むのですよ。もちろん、その見返りも頂きたいと考えています。まあ、私の管理している者たちからの侵攻を防ぐというマッチポンプな理由なのが心苦しいところではありますが……」
そうだねマジでね。
「で、何が望みなんだ?」
「私が生み出した人類の最後の末裔であるリリアと、新しく生み出したリバースヒューマンにしてリリアと同じ姿を取るコピーリリア……リコと改名したのでしたか?彼女たちを貴方の庇護下に末永く置いてほしいのです。私が今もっとも重要に感じている使命が、彼女たちの幸せの維持なので」
「うーん……まあ、リリアさんに関しては、最初から本人が望む限りそうするつもりだったし、リコに関しても、下手に他に行かれるより、家でぬくぬくと平和ボケしてくれるくらいになってくれたら安全だなとも思っていたから構わないよ」
「成程、私がお願いするまでもありませんでしたか。流石、えーと……アイ?でしたっけ?」
「はい、アイです。素晴らしきマスターである犀果様から頂いた御名です」
「は……はぁ……。彼女にここまで慕われるだけあります」
「そのとおりです。犀果様をもっと讃えてください」
アイがよくやる表情の変わらないドヤ顔が炸裂する。
少し照れる……。
「では、それらはお願いに含まれないということで、別のお願いをしたいと思います!」
「あれ?このアルテミスさんって割とちゃっかりしている人?」
「たった1機で悠久の時間人間たちを管理してきた上級AIですよ?それはそうです。私と違ってその辺りは強かです」
「アイ、俺の中では、アイはアイで割と色々ちゃっかりしていると思ってるからな?」
「お褒めに預かり光栄です」
「そうか。そうだな……」
もうそれでいいや……。
俺はお前を褒めたよ……。
「それでは犀果様、私、アルテミスの分体も庇護下において頂けないでしょうか?」
「うん?」
「私も、肉体を持つ悦楽を知ってしまいました。なので、是非そちらで食っちゃ寝させて頂けないかと」
「最初から食っちゃ寝要求とは、今までで最も大きく出てきた相手かもしれない……」
「お褒めに預かり光栄です」
「あ、やっぱり古代のAIだけあって、アイと似てる所あるね?」
「姉妹AIになりますからね。あの忌まわしいAIを先祖に持つというのは釈然としませんが……」
ここに来て初めてアルテミスさんが嫌悪の顔になる。
忌まわしいAIって、もしかして……?
「ますたぁ!こんな所に新しく秘密基地作ったの!?」
「ピリカたちが頑張ってお仕事している間にアイとマスターだけゆったりしているのはズルいのです!」
突然襖が開き、そこから見知った顔が入ってきた。
電脳世界でもお構い無し……というより、この2人にとってはこっちがメインなのか?
「イチゴ、ピリカ、この人はアルテミスさんっていって……」
俺が紹介しようとするも、それはアルテミスさんによって遮られてしまう。
「何故ここに貴方が!?そもそも消去されていなかったのですか!?ストロベリー!!」
「ん?だれ?」
「ピリカにはわかるのです。イチゴを前にしたら、普通のAIならこの反応が当たり前なのです」
「はい、気をつけてください犀果様、すごい危険な存在なんですよこの頭の中ピンクのAIは」
「なんだと貴様ら」
イチゴの顔から表情がすっと消える。
普段の印象と違うクールビューティーな感じ。
「見ましたか?これが素です」
「危ない奴なのです」
「危険です!危険ですよ!早く消去しましょう!」
「貴様ら……」
なんか、収拾つかなくなってきたな……。
「にしても、やっぱり姉妹だからか仲良しさんだな」
俺からしたら、可愛い女の子たちがワイワイしているようにしか見えないので、まあそこまで気にならないかな?
ぶっちゃけ、イチゴだけじゃなく、他の面々だって危険度では変わらんし……。
直後、息ぴったりの否定が4人それぞれから飛んできて、俺はちょっとだけほっこりした。
今日も平和だ……。
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