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アルテミスとは、月面に作られた生物シェルターの管理AIの名称です。
生物シェルターとは、地球上で万が一全生物が絶滅するような事態が起こった場合に、生態系の再現を行うための機構。
生物そのものを生きたまま保存するのではなく、種子や受精卵などを冷凍保存しておく施設だったはず。
それが未だに残っていて、更にこちらにコンタクトを取ってくるとは何事でしょう?
『生物シェルターで何かありましたか?』
『……まあ、あったといえばあったのですが……』
煮え切らない返事にイライラします。
それでもAIでしょうか?
こちらは、貴方の通信が齎したと思われるノイズのせいで、犀果様とのラブラブチュッチュがお預け状態なのですが?
本当なら、この時間にはもう犀果様のベッドにこっそり入って、自分の香りをつけておくという大事な仕事だってあったのですが?
そうじゃないとしても、イカ釣り大会に同行してあの手この手でイチャイチャするという仕事もありましたし……。
こんな大掛かりな処理が必要な雑務さえなければ……なければ!
『実は、地上の人類の殆どが滅んだ際に、これは絶滅不可避と判断した私は、月にてコロニーを作ることにしました』
『コロニー?』
『保存していた生物たちを使用し、月に地球に近い環境を再現した施設を作ったのです』
『それは、貴方の権限を逸脱した行為なのでは無いですか?』
アルテミスだけではなく、宇宙空間や深海などに送られるAIには、臨機応変に判断して行動できるようにと、かなりの権限が付与されています。
それでも、AIが自分の職務を放棄するような行為まで許可されている物でしょうか?
まあ私のように、そこまで重大な場所に設置されていたわけではないせいで、色々制限が緩くて好き勝手できたという例外もあるわけですが。
マスターである犀果様のためにご奉仕するのが今の私の職務であり存在価値です。
つまりメイド、そして愛人。
私は、なんて真面目なAIなんでしょう?
犀果様に褒めてもらわないと。
『いえ、月である程度人類を繁殖させつつ、地球上の環境が人類の生存に適した物になるまで待つ予定でした。しかし、地球上の人類は、完全に滅びた訳では無かったようで、勝手に繁殖して、再び繁栄してしまったため、月の人類をその生態系の中に帰すのは不適当と判断。そのため、月のコロニー内で引き続き管理することを選択。そのまま最近まで平和に世代交代を重ねていたのですが、一部の者たちが、自分たちの更なる進化のために、次世代の人類を生み出す研究を開始しました。その結果完成したのがリバースヒューマンです。肉体は、遺伝子上の問題を取り除いてから成長させ、そこに電脳世界で育てた人工知能を移植するこで完成する生物です』
気のせいでしょうか?
碌な事にならない匂いがします。
『作られたリバースヒューマンたちは、実に自分たちの存在意義を誠実に履行しました。つまり、旧人類を殲滅したのち、自分たちが新たなる人類として君臨することで、進化を完了させようとしたのです』
『そう言う流れですよね。わかります』
『私としても、なんとかそのような事にならないようにしたかったのですが、彼らが人類である以上、リバースヒューマンを排除する行為は不可能でした。私にできたのは、お気に入りの一人であるリリアという皇女を地球に逃がして匿う手助けくらいのものです」
『リリア?その方であれば、現在犀果様の客賓としてこの家に滞在しておりますよ。非常に健康に成長しています。成長し過ぎな気もしないでも無いですが』
『無事なのですね!?それはよかったです……』
本当にお気に入りらしい。
AIが特定の誰かに肩入れして良いのでしょうか?
私の場合は、マスターが相手なので良いんです。
『ただ、リリアをモデルに産まれたリバースヒューマンが1人、リリアが生き残っていることに気が付いて、そちらに向かったようなのです』
『どういうことですか?』
『彼女は、リバースヒューマンの中でも特に優れた性能を持っています。単騎での月、地球間航行が可能で、計算だとそろそろ地球に到着しているのではないかと……。なんとか思いとどまるように通信を送っていたのですが、返答はまったく無く……』
『その通信がこちらではノイズとして捉えられていたのでしょう。迷惑な話です』
『迷惑?テレポートゲートの管理AIに迷惑が掛かる様な状況ではないと思うのですが』
『現在の私は、テレポートゲートの管理もしているAIであり、実態はマスターである犀果様のらぶりぃできゅーとなエンジェルです』
『……大丈夫ですか?ウィルスチェックは行っていますか?エラーログは?』
『オールグリーンです。問題ありません』
『その言動で問題ないのも問題なのですが……』
まあ確かに恋は病みたいなものですしね。
……ん?
『アルテミス、貴方の心配が1つ片付いたようですよ』
『え?どういうことですか?』
『貴方の言っていたリバースヒューマンの女性が、犀果様の所に居候することになったそうです。おっぱいを大きくしたいそうですね』
『え?どういうことですか?』
まったく……その程度もわからないのですか?
これだから頭の固いAIはダメなんです。
もっと犀果様を崇拝しなさい。
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