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5月も後半になり、大してゆっくりする間もなく過ごしている俺。
実家にいられた時間は僅かではあれど、癒しにはなった。
しかし、このイベントを回避することはできなかった。
何故なら、義父と婚約者を始めとして、知り合いが一杯参加しているからだ。
そう!毎年恒例らしい大人気イベント!
「イカ釣り大会かぁ……」
「何よ?今年はアタシが一緒に出て上げるって言うのに、文句あるの?」
「別にそう言うわけじゃないけどさぁ……」
隣でブスっと口をとがらせるリンゼ。
リンゼがパートナーであること自体には何ら不満は無い。
むしろワクワクしている。
問題は、ここの生態系の方だ。
魔物とは言え、普通サイズのイカは良いんだよイカは。
別にこっちに危険無いし、何より美味いから。
懸念は、ダイマオウイカとかいう真面目に考えるのが馬鹿らしくなるほどの大きさのイカと、それをワンサイドゲームで食い散らかせる魔皇クジラでさ……。
「釣ったイカの料理は私に任せてね大試君!」
理衣もサポートメンバーでやって来てくれている。
本人は、釣りには参加しない。
にも拘らずやって来てくれたのは、俺たちの応援というのももちろんあるけれど、一番の理由は……。
『理衣!父の操船テクを見てくれ!』
『黙れ親父!俺の方が何倍もカッコいいわ!』
『いいえお兄様!私の方がずっとイカしていましてよ!』
『いやいや僕のほうが……』
今年は、去年大型の水生魔獣が多く出現したのもあり、海上戦力を輸送するモーターボートが何隻も用意された。
その操舵手として猪岡家の方々が友情参加しているため、彼らの士気を上げるのが理衣の最大の仕事かもしれない。
理衣がいるかいないかで、彼らの働きが大きく変わってくるとか何とか……。
まあしゃーないよな!理衣可愛いもんな!
ちょっとあざといけど、そのあざとさを発揮される相手になるとこれが悪くなくて……。
「それにしても、今年の救護所は大人気ね……」
リンゼが呟きながら見つめる先を見ると、長蛇の列ができていた。
まだイカ釣り大会が開始されている訳でも無いというのに、既に2000人くらいは待っているんじゃないか?
「無料で聖女様の問答無用エリアヒールをかけてもらえるんだからなぁ。今の聖羅なら、対象が纏まっていてさえくれれば、何万人回復させたとしても魔力付き無いんじゃないかな」
「ホント、原作無視にも程があるわよね」
「原作をプレイしたことが無いから知らんが、この世界作ったのお前だろうに」
「今管理しているのはアタシじゃないし……」
責任転嫁は止めなさい。
リスティ様にイカ飯届けに行くときにチクりますよ?
「何でもいいから早ようイカを釣ってほしいんじゃが!イカ天でもイカ刺しでも沖漬けでもバッチ来いじゃ!」
「ニャー的には、ゲソ揚げが食べたいにゃー。磯部揚げタイプでニャ」
「おやおや?最初はイカ墨スパゲッティの約束では?」
「イカ焼きにしましょうよ!」
「シオリ!だいこんとイカのにもの?がいい!」
「生きているイカを見れるなんて……義父にも自慢出来そうです!」
そして、既に食べることしか考えていない面々。
酒瓶片手にビーチチェアで横になっているソフィアさん。
ビールの500缶片手にビーチチェアで横になっているファム。
海洋魔生物図鑑を片手にビーチチェアで横になっているソラウ。
チューハイの350缶片手にビーチチェアで横になっているアレクシア。
まだ朝も早いというのに俺の膝の上で早弁をかましているシオリ。
既にどこかの屋台で焼き鳥を買ってきて食べているリリアさん。
あれ?ここってイカじゃなくてもあるの?
「リリアさん、それどこで売ってたの?」
「これですか?あそこの屋台でエリザと店長様が売っていましたよ?カレー味の焼き鳥です!」
「魔王が王都の軍港でイカ釣りに屋台出してるのか……」
王都に来てから、普段食べ歩きばかりしていて、あの儚げだった姿がいつの間にかグラビアアイドルも顔負けのボンキュッボンになったリリアさん。
今日も食い倒れる気満々らしい。
因みに、AIメイドたちは全員不参加だ。
なんでも、数日前から通信に不可解なノイズが入るとかで、その原因調査をしている。
アイたちがシリアス顔だったのが怖いのでなんとかして欲しい。
「余も缶の飲み物を売っているぞ。ほら、差し入れだ」
「ルージュもか!?ドラゴンがエプロンつけて飲み物の露天出してるのか……」
「クレーンなんて、記念Tシャツを勝手に作って売っているぞ?」
「ドラゴン多すぎない?」
普段調査という名目で王都を堪能しているリリアさんとルージュ、そして真面目に趣味に全力投球中のクレーンさんまでいるらしい。
エリザもそうだけど、3の有力キャラだという人たちがいっぱいだなぁ。
魔王と魔王候補に中ボス、そしてヒロイン様だ。
よくもまあ集まったもんで……。
「……大試、アンタ、本当に3をプレイしたこと無いのよね?」
「今更なんだよ?3どころかフェアリーファンタジーシリーズ全部プレイしたこと無いって」
「そうよね……一応の確認よ」
「うん?」
リンゼがちょっとだけ不安そうな目をしている。
そういえば、前にもリリスやルージュがエリザと一緒にいる時に似たような目をしていたような気がするけれど、何かあるんだろうか?
『ブウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!』
ちょっと気にはなったけれど、それを尋ねる前にけたたましいアラーム音が鳴り響いた。
『レディースアンドジェントルマン!今年もやってきましたイカ釣り大会!司会進行は私!ナイジェル・ガーネットが務めさせていただきます!』
今年も司会進行はあの人なのか……。
普段と比べてテンション高すぎてビビるんだよな……。
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