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448:

『すっき~りしたし、仕事もおわったぁから帰るよ!』

『よくわからないうちにとんでもない事に巻き込まれたけれど……お疲れ様大試君……。また休み明けに……』


 ケタケタと機嫌良さげに帰っていく呪いの人形と、疲れた顔の委員長と別れて、俺たちは再び俺の実家へと帰って来た。

 ちょっと様子を見てくるか~程度のつもりだったのに、まさかここまで大事になるなんて思わなかったなぁ……。


「すぅ……すぅ……」

「紅羽の寝顔が可愛すぎて死にそう」

「銃弾でも死なんくせに変なとこで致命傷負うでないわ」


 頭脳は女傑だとしても、見た目通り赤ちゃんである紅羽は、あまり長時間起きていることができない。

 今は絶賛おやすみ中である。

 可愛い。


 家の近くまでくると、まだ夕方前だというのに、既に開拓村の人間が全員揃って宴会を始めていた。

 今日は、皆でバーベキュー的な事をしているらしい。

 風雅は、黙々と肉を焼かされている。

 相変わらず罰としてパシられているようだ。

 反省しろ!


「大試、おかえり」

「ただいま聖羅。もう宴会始めてたんだな?」

「うん。大試が紅羽ちゃんと出かけたっていうから、帰ってくる頃には疲れてお腹ペコペコになってるだろうなって」

「……なんで赤ちゃんと出かけただけで疲れてお腹ペコペコになるんだろうな……?」

「大試だから」


 一緒に帰省していた聖羅との会話も、やけに久しぶりな気がしてしまう……。

 疲れたなぁ……。


「ふすっ……むにゅう……」


 その時、紅羽がもごもごと口を動かしながら身じろいだ。

 何をするのかと全身全霊で集中すると、何故か俺の胸に顔を近づけて、そして……。


「まむっ……むにゅ……」

「はわわわわわ……」


 俺の着ている服の胸の部分にしゃぶりついた。

 どうやら、夢の中でおっぱいでも飲んでいるらしい。

 やだこの子……可愛すぎ……!?


「聖羅!どうしよう!?可愛い!」

「はい、スマートフォン用三脚」

「ありがとう!撮影もよろしく!」

「もうやってる」


 阿吽の呼吸。

 流石は聖羅だぜ!


「大試よ、服はばっちぃからあんまりしゃぶらせん方が良いのではないか?」

「大丈夫ですよソフィアさん。紅羽といる時には、疱瘡正宗全開にしてますから」

「それはそれでどうなんじゃろう?」


 どうもこうもねぇよ!

 俺と一緒にいる間は、絶対に病気なんかにはさせねぇからな!


「あら大試、おかえりなさい」

「ただいま母さん。中々の大冒険だったわ」

「そうなの?へぇ……紅羽が満足そうな顔しているわね!やっぱりお兄ちゃんの胸が好きなのかしら?もう!嫉妬しちゃうわ!」

「でも、夢の中では母さんに抱かれてるみたいだよ」

「あら本当?まぁまぁ!大試のシャツがどんどん伸びてデロンデロンになっていくわね!」

「可愛くない?」

「可愛いわ!」

「義母さん、撮影してある」

「流石ね聖羅ちゃん!」


 流石にこれ以上不毛なエア母乳をさせるのも可哀想なので、母さんに紅羽を託す。

 すこし愚図りそうな雰囲気もあったけれど、すぐにまたむにゅむにゅと眠りながらおっぱいを探り始めた。

 可愛い。


「どうしよう!?嫁と娘が可愛い!」


 そこへ現れる酔っぱらいの父。

 既に相当飲んでいるらしい。

 酒臭いな……。


「アナタは近寄ったらダメよ?紅羽が泣いちゃうわ」

「なんでだよ!?俺だって抱きたい!」

「お酒飲んでるからよ」

「そんな!?」

「私が授乳期だからってアルコールを完全に断っているっていうのに、気持ちよーく酔っぱらっているアナタに文句を言う権利……無いわよね?」

「はい……誠に申し訳ありません……」


 相変わらずだなこのオッサン……。


「ワシは、十分赤子を可愛がったから満足じゃ!それよりワシも酒が飲みたい!大試!お酌しておくれ!」

「アルハラですよソフィアさん」

「知らんなそんな言葉!」

「まあいいですけど……」

「じゃあ大試には、私がジュースお酌する」

「聖羅には、俺が注ぐか」

「お願い」


 遅ればせながら俺達もその騒ぎに混ざり、この世界に転生してから慣れてしまったこの騒がしさを懐かしく思う。

 ちょっと離れていただけで、ここまでこのゴチャゴチャした雰囲気を愛しく思ってしまうあたり、俺は本当にこの世界の、この開拓村の住人になったらしい。


「聖羅」

「何?」

「俺は、この世界が好きなんだって改めて実感したわ」

「そうなんだ?私も、大試さえいてくれるなら、この世界が好き」

「そうか……。なら、ずっと一緒にいないとな」

「うん、ずっとね」


 世界が終わりそうな出来事が起きたとしても、それでも日常さえ戻って来てくれるなら、俺はこれからも頑張って行ける気がする。


 ただ、その……ね?

 偶には休みたいなぁ……。


「はい、大試」

「……ん?何これ?」

「私が作った熊の心臓焼き」

「……真っ黒だな」

「精力剤になりそうなものをいっぱいしみ込ませたから」

「そっか……頂きます」

「召し上がれ」


 ブラックホールのように奥深い苦みでした。





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