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突然、水面に浮上したかのように体が自由になる。
「ふげっ!?」
それと同時に、顔面に感じる衝撃。
どうやら、あのゲート的なものから吐き出され、地面にぶつかったらしい。
あのイケメンロン毛、次会ったらむしり取ってやる……!
「おおう!無事だったようであぁるな!」
頭上より聞こえるイケメンロン毛と同じ声。
声は同じなのに、話し方はおかしい。
どうやら、安倍晴明(呪いの人形)のようだ。
ということは、なんとかあそこから脱出できたようだな。
「ふん!!!!」
「げぶぼ!?なにをするんだぁね!?」
「報復だ!」
とりあえず顔面に一発パンチしておいた。
「それで、これで問題は全部解決したんですよね?委員長、巻き込んで悪かった」
俺は、もう一つのブラックホールを何とかしているであろう委員長の方を振り返りお礼の言葉を贈る。
ほんと、委員長いなかったらやばかったわー。
正に神!
女神かな!
「大試君!大試君!あの!あの!大試君がいなかった数秒間でなんだかもっと大変な事になってるんだけど!?」
そこには、顔を真っ青にしながら、轟々とうなりをあげる縮退炉と戦っている女神がいた。
ふむ……。
「最後の晩餐に食べたい物かぁ……。あー、プリン食べたいな。形崩れるくらい牛乳多めに作った奴」
「ワシは、シュークリームが食べたいのう」
「ばぁぶ……」(潔すぎんか!?)
「諦めてないで早く何とかして!?」
おっと、精神疲労で弱気になってしまっていた……。
うぅむ……。
とは言えなぁ……俺に何ができるんだろうか?
そもそもこれ、どうなってんの?安定したんじゃないの?
「小ぉう僧よ。やりすぎだぁよ」
顔に軽くひびが入った呪いの人形がそんな事を告げる。
何が?
「小僧が強化しすぎぃたせいで、2個のブラぁくほールのバランスが逆転した~よ。中の分体にこぅこまでの重さを作り出させるとは、なぁにを吹き込んだんだぁね?」
「何って……アンタの家族の事?」
「ふぅむ?それをおしえ~て貰えば、もう一つの方にも愛を詰められるかもだあね」
「大試君!晴明さん!愛ってなに!?」
「難しい質問だ~な」
「重いらしいぞ」
「本当に何なの!?」
委員長が半分キレてる……。
よし、真面目に何とかしよう……。
「って言っても、九尾さんとこんこーんってしたり、娘さんと一緒にお茶飲んだりしたことを教えただけですよ?」
「……ふぅむ、うぐ……まあ、それくらいならば先に聞いているのであ~る!ノーダメージであるぅな!」
分体と違って、こっちの人形はまだリアルで嫁や娘に会えるから、ダメージも小さいのかもしれん。
「あ、そうだ」
「うむ~?」
俺は、あるものを思い出してスマホを取り出す。
ブラックホールの周りでスマホが使えるのかとちょっと不安だったけれど、特に問題なく使えるらしい。
そもそもブラックホールの周りで俺たちが生きている時点ですごいかもしれんが……。
ブラックホールキャリアーだっけ?
すごい技術だな……。
「この前九尾さんと娘さんがうちに来た時に、温水プールで一緒に遊んだ時の写真です」
「なんだと?」
人形の顔から表情が抜ける。
ちょっとはダメージがあったらしい。
「九尾さんって、出産もしている筈なのにすごいプロポーションですよね。ビキニが似合ってます」
「ビキに……」
ビキビキっと音が聞こえてきそうな程人形が震えながら何かの感情を増していく。
怖い怖い……。
「あ、こっちは娘さんですね。ワンピースタイプで女の子らしさマシマシでした。まあ、年齢的には、俺よりよっぽど年上なんですけれど、一緒に遊んでたうちの化け狸の女の子と一緒に楽しむ姿は尊かったですねぇ……」
今度は、人外ロリっ娘2人が、水着を着ながら笑顔でピースしている写真だ。
因みにこれ、あたかも俺が現地で撮影したように言っているけれど、実際にはタヌキたちが楽しく遊んだって事を自慢するために撮影して送って来ただけで、俺は全く楽しんでいない。
「え?うちって温水プールあるの?」ってそこで初めて知ったくらいだし。
こいつらがプールで遊んでいる時、俺はアイドル事務所立ち上げるために、クソみたいな着ぐるみ着て駆けずり回ってた。
でも、そんな事はこのおっさんにはわからんだろうし?
「うっ!!!!うぐぬぬぬぬぬ!!!!!うぐぐぐぐ!!!!!!」
……うわぁ……。
晴明さんから、さっき分体が出していたような黒いオーラが出てきた……。
これを狙ってやったとはいえ、ろくでもないブラックなホールだな……。
「くそがあああああ!!!!!これで満足なんだろうが間男があああああああ!!!!!!」
人形が黒いオーラを右手の一点に集めて、委員長が抑えている方のブラックホールに突き込む。
その途端、先ほどまでの荒々しさがウソのように、2個のブラックホールは静かになった。
「……私、助かった?」
「委員長、何食べたい?どんな豪華なディナーでも奢るぞ。トンカツ乗せるか?ハンバーグもいいかもな!辛さも選んでくれ」
「あれ?カレーの話?」
「……おや?僕は何をしていたんだったか?確か、朝廷からの依頼で武神像の点検に……。おおっと、落ち着いたようだ~ね!何があったかよぉく覚えてないけえど、なんだかすっきりしたぁよ!」
くったくたになっている委員長と、晴れ晴れとした表情になった呪いの人形が地面に座り込む。
流石に疲れたらしい。
どの程度辛い事だったのか俺には想像しかできないけれど、お疲れ様だな。
だが、元はといえば縮退炉なんて作った奴のせいだと思うので、そこの所を追求したい所存。
え?それが暴走しかけていた原因に心当たりがあるだろって?
知らんな……。
「ぶぶ!あ~ぶ!」(小僧!大魔神てふ子からの信号が戻ったぞ!治ったようだな!)
「ふぅ……なんか酷い目にあったんじゃが……。のう、大試よ。お前、実家に帰ってゆっくりするつもりだったんじゃなかったかのう?何いつもの調子で変な事に関わっとるんじゃ?」
マイラブリーエンジェル紅羽がパァっと擬音が付きそうな程の可愛い笑顔を見せる。
一方で、紅羽を抱いているソフィアさんは、なんだか疲れた表情だ。
あのね、それは俺が聞きたい。
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