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「そもそもの話だけれど」
愛が重いと言い放ったその口で、まだ真面目に何かを続ける自称安倍晴明。
どこまで行っても自称にしか思えんのだよなぁアンタら……。
「本当に質量があるものを人がどれだけ圧縮した所で、この世の理を歪めるほどのブラックホール、それも特異点を作り出すなんてことができると思うかい?」
「さぁ……?想像できません。何より愛がインパクト強すぎて」
「そう!愛は強いんだ。それは、物理的なものではない。だから、物理法則に囚われないんだ」
「なるほど?」
確かに物理法則とは関係ないかもしれんね。
この話題とすら関係があるのか疑問だけども、
「僕は最初、星の力……重力を強めるために、とにかく呪力を強めればいいと考えた。部屋の空気が重いと感じることがあるだろう?アレを強めていけば理でも歪められるとね。驕っていたのさ……。自分に不可能は無いと。天才、鬼人、色々な呼ばれ方をした僕にできないことがあるわけ無い、とね。しかし、そのやり方では、ブラックホールはできなかった。精々金や白金ができる程度で終わってしまったんだ」
悲しげに目を伏せるイケメン。
この顔でこいつ、愛でブラックホール作ったらしいんすよ。
「そんな折、化け狐を倒すように勅命が下った。それも、相当な大妖であるらしい。丁度いいと思った。八つ当たりに」
ろくでもないな?
「それがどうだ?現地に行ってみれば、ズタボロの武者たちと相対する美女がいる。キツネ耳に、尻尾を9本生やしたね。憎しみに支配されたその目……。僕は、その瞬間恋に落ちた」
ろくでもないな!?
「とびきりの美人にキツネ耳が着いているんだ。しかも、こっちを殺したくて殺したくてたまらない程の憎しみを湛えた目をしている。『あぁ……跪かせてぇ……』そう僕の僕が叫んでいたよ」
ろくでもないにも程があるだろ……。
「そして戦ったけれど、結局互いにボロボロになった。その上で、僕のほうが有利になった時を狙い交渉に臨んだ。身の安全を保証するから、この地に封印されろとね」
「そんなんで大人しくなったんですか?」
「ならなかったから、『だったら僕の嫁になれ!』って叫んだら、一瞬呆けたあと、大笑いされたよ。いやぁ……綺麗だったなぁ……。そして、『良かろう』ってねぇ!」
……ちょっとまて。
俺は今何を聞かされているんだ?
「彼女が妊娠するまでそう時は掛からなかった。それまで女に興味なかった僕が、それはもう猿になったよ」
「話は変わりますがブラックホールはどうするんですか?」
「だけども、そうやって愛を育んでいく事で、僕はあることに気がついたんだ」
「話が変わらない……」
「僕の心の中には、間違いなく愛が膨らんでいる。それは日に日に大きくなっていく。なのに、それが重いんだ。あぁ……彼女は今何をしているんだろうか……?他の男と話していないだろうか……?彼女の香りを他の男が嗅いでいないだろうか……?彼女と同じ空気を僕以外の男が吸っているのが我慢ならない……。彼女の全てを僕のものにしたい……。独占したい……。朝も昼も夜も、彼女と触れ合っていたい!できれば細胞単位で融合してしまいたい!などとね、どす黒く重い物がどんどん大きくなっていった」
「やべぇやつじゃん」
「照れるね」
「照れんな蹴り飛ばすぞ」
テレテレしていたイケメンが、今更また真面目な顔に戻る。
「そうしているうちに、ふと気がついたんだ。『あれ?呪いの力じゃダメだったけれど、愛ならどこまでも際限なく重くしていけるのでは?』って。天啓だったねアレは」
「それが天啓だとしたら、神はよっぽどのアホですね」
恐らくリスティ様ではない。
「思いついたら作りたくなるだろう?だから作った。ブラックホールを。帝にも献上したよ。『このような物を貰ってものう……』とかなり引いてたのがよくわかったよ。顔なんて見えないようにしてあるのに。酷いよね?」
「ひどい話だ……」
本当に酷い。
「それが何百年も経ってから、もう一つ作って、武神像に組み込めなんて言われるなんてね……。世の中、何がどうなるかわからないものだよ」
「そうですか……」
それはまあそう。
いきなり神様に爆殺されることもあるしな。
「そして、そのブラックホールを維持するために、重い愛を維持する必要があった。そこで作られたのが分体である僕さ」
「思ったよりろくでもない誕生理由だったなぁ……」
「そんな成り立ちを持つブラックホールと縮退炉。それを安定させる為にキミが送り込まれたというのであれば、考えられる理由は2つ。1つは、キミ自身がブラックホールを安定化させる程の愛を生み出す存在であること。2つ目は、キミの何かが僕の愛を刺激して、更に愛を重くする事。というわけで、キミの生い立ちや今までの人生、家族構成、女性遍歴などを教えてくれ」
「なんでそんな事を……」
「それを手がかりにして、どう対処するか決めようじゃないか」
「今それどころじゃないんじゃないです?」
「そこは気にしなくて良い。ここは、ブラックホールの中の特異点だよ?時間の流れは、外とは全く違う。キミが思えば早くもなるし、遅くもなる。キミがそうあれと考えたものが真実になる。それが、この場所なんだ」
「はぁ……」
リスティ様の領域みたいなもんか。
「じゃあまあ、外だと一瞬だけどこの世界だけど数時間かかるくらいをイメージして話すか……」
そんなこんなで、俺は自分の人生を話した。
神様に爆殺されたことや、この世界での生活。
婚約者がいっぱいできたことなんかも包み隠さず。
「うーん……。キミの場合、どうも自分自身で愛をブラックホールにするほど重くするタイプではなさそうだね」
「そうですか?これでもかなり重いんじゃないかと思ってましたが」
「いやいや、むしろキミの場合、周りの女の子たちのほうがブラックホールを作れそうな気がするよ」
「……まあ、それは否定できんが……」
聖羅とか、片手間に作れそう。
「ならば、今度はキミの知る知識について重きをおいて話そうか。特に、僕の妻や娘についての話題が良いな。なにせ、ここにいると外の情報が入ってこないのでね」
「それはまあいいですけどね……。じゃあ……そうだな……。九尾さんと最初会ったときには、普通の化け狐だと思って、『わかってますよー、大丈夫ですからねー』ってアピールのために、手で狐作ってこんこーんってやってみたんですよね。そしたらあっちも同じようにこんこーんと返してくれて……。めっちゃ綺麗だし、巫女服だし、狐っ娘だしでもう凄かったですね!まあ、まさか九尾な上に人妻だとは思いませんでしたけれど」
「あ゛あ゛ん?」
「娘さんに関しては、妖怪を初めとした超常の存在たち相手のカフェに迷い込んで初めて会いました。その後は、よくうちの近くの神社の化け狸の女の子と遊んでますね。よくうちにも来て、一緒にお茶飲んだりします」
「うちの娘と茶を……?僕にはもう二度とそれを味わえないというのに……?」
なんだろう?
すっげぇ憎しみの感情を感じる。
帰っていいかな?
帰り方教えてほしいな。
「お……おおおおおおお……脳が……脳が壊れる……!脳無いが!形代が弾ける!超速再生するが!」
可視化されるほどの黒いオーラが晴明から迸る。
嫌だなぁ……。
多分俺の話した内容が引き金になったんだろうけれど、こんな黒いもんで助かりたくねぇよ……。
「小僧!!!!!!今すぐここを出ていけ!!!!ほら出口だ!!!!!!!!出ていかないなら二度と出してやらんぞ!!!!!!ぶちころすぞ!!!!!!!娘も嫁もやらん!!!!!!!!あああああもういい面倒だ!!!!!!!フンっ!!!!!!!!!」
「ぎぇええ!?」
突然興奮しだしたと思ったら、ものすごい力で蹴られてしまった。
そのまま飛んだ先には、先程ここに落とされたときと同じゲートみたいなものが。
そこに入ってしまった俺は、今度は先ほどと逆に浮き上がるような感覚をうけながら、懸命にもがくのだった。
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