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「……その、大魔神てふ子がブラックホールに呑まれた場合、想定される被害は?」
「ふぅむ。ブラックホールとはいーえ、極小であ~るからしてぇ……」
「からして?」
「大魔神てふ~子を中ぅ心に5光年程が更地になる程度であ~るな!」
「ダメじゃん」
(ダメじゃろ)
ダメっぽい。
どうしよう?
これ現実なん?
軽く思考が停止していると、俺の借りパク腕時計が光り出す。
「ちょっとまってほしいんじゃが!?」
中から飛び出したのは、美人なお姉さま。
俺が妹を愛でているのを邪魔しないように隠れていてくれたみたいだけれど、流石にこの事態で黙っている事はできなかったようだ。
「大試が妹相手にキモちの悪い顔しとるのをスルーするために腕時計に隠れとったのに、何故こんなとんでもなことになっとるんじゃ!?」
ちょっとだけ俺に失礼な理由で隠れてくれていたらしい。
それはそれとして、解決策はあるんだろうか?
「事態を解決する方法は?どうせ何かあるんでしょ?こんな所でゆっくりお茶と茶菓子嗜んでるんだから」
「は!そうじゃ!この奇怪な人形は、有名なオカルトマニア的な何かなんじゃろ!?なんとかできるんじゃろ!?茶なんぞ飲んどるんじゃし!」
「だぁぶ!」(お茶飲んでる暇あるのか!)
まあね?
言ってもここは、大人気ゲームをモデルにしたファンタジーな世界なわけで。
完全に詰むようなクソゲー要素はそこまで無いのではないかと思う。
でしょ?
安倍晴明だもんね?
「ほほおっほほほほ!期待が心~地いぃのであ~る!」
ほら!
気持ちの悪い舞を披露してくれてるし、絶対何とかなるって!
「まぁず、何故ここで茶~をシバいているかぁというと」
そして、無駄にカッコいい表情になる晴明くん人形。
「とりあえず落ち着こうと思ったのである。落ち着かないと良い案も浮かばないのであるな。何も良い案が浮かんでいない時は特に落ち着くべきなのである」
ちゃぶ台に置いてあった湯呑を持つ晴明。
ぷるぷる震えてお茶が辺りにまき散らされる。
「……よし…………よしよし……一回整理しよう。まずだけど、晴明さんに確認したい事がある」
「なんであ~るね?」
「縮退炉をブラックホールに飲み込まれないようにする方法自体がもう無いのか、それともそれをするのに足りない要素があって出来ていないだけなのか、それを教えてほしい」
俺たちが全力で手助けすればなんとかなるのであれば、それでいい。
問題は、俺たちが何をしたところでもう遅いという場合だ。
そうしたら、後はもうリスティ様に土下座に行くしかなくなるわけだが……。
どうなんだろう?
その場合リスティ様は、何とかしてくれるんだろうか?
あまり介入できないからダメとか言われたりしないよな……?
……最後の最後の手段にしとくかやっぱり……。
「難しい質問であ~る……。問題がおーきている極小ブラックホールは、1つだ~けであ~る。強力ぅな式神を従えらぁれる程の才を持つ陰陽師がも~ひとりいれば、無事な方のブラックホールを抑えつけてもらっているあーいだに、問題のブラックホールの処置に付きっ切りになれるのであ~るが……。現代にそんな陰陽師がそうぽ~んぽんといる筈もないのーである……。しかも、1時間以内……作~業時間を考えれば、50分いぃ内に連れてくる必要あーるね……」
「あちゃぁ……」
一番どうしようもないピースじゃないか……。
そんなもんどうしろと……。
「大体なんでそんな事になってんだよ!?とんだ欠陥品じゃないか!」
「ばぁばぶぅ!」(私の大魔神てふ子を返せ!)
「このガラクタ妖怪!カタカタ動いて普通に怖いんじゃ!」
人は、追い詰められると誰かに責任を押し付けたくなるものである。
それをしても何も解決しないとわかっていても、どうしてもやってしまうものだ。
「そうは言うがな……。元々私が想定していた運用であれば何の問題も無かったはずなのだ。神でも殴り殺せるほどの格闘性能と質量を持った武神像を作るようにという要求には、十分答えられたと自負している。しかし、神にも位というものがある。そこらの邪神程度であれば問題ない強さであったとしても、主神クラスになると流石に厳しいものもあろう?そもそも、そんな相手を倒したらまずいであろうしな。まあ、主神クラスと戦うような危ない事をする奴がいるとも思えんかったし……。今回ここまでガタガタになってしまっているのは、それこそ相当無茶な使い方をしたのであろう。そうだな……例えばであるが、限界以上に魔力を込めに込めて、それを限界以上の速さで相手にぶち込み、そのまま相手を吹き飛ばしたり自分が吹き飛んだ人でエネルギーが拡散することも無く、ただビタっと止められてしまったかのような、そんな無茶苦茶なことでもしたかのようなダメージである」
「……」
(……)
めっちゃ普通に話すじゃん?
そしてなんか、どっかで聞いたような話だ。
「心当たりあるのであるか?」
「無いですね」
(何もしてないのに壊れたわい)
初期不良って事になんねぇかな?
保証は何年まで有効?
「……まあ、そういうわ~けで諦めて、茶をのみぃながら参拝きゃあくを眺めていたぁよ」
晴明は、自嘲気味に茶を飲みながら、ブラウン管テレビっぽいモニターを覗いている。
そこには、ここの外の景色が映し出されていた。
どうやら、大魔神てふ子のアイカメラがとらえた映像らしい。
今日もそこそこの人数が参拝に訪れているようで、神社は儲かっているようだ。
連休ですもんね。
このままだと、この人たちも死ぬのかぁ……。
「なんとかならないかなぁ……」
「現実は、非常なのであ~るな」
良い案でろぉ……。
良い案でろぉ……。
うん、でねぇ……。
「俺もお茶飲むか……」
(私は、ジュースをもらおう)
「最後に飲むのが銘酒ではなくよくわからん茶になるとはのう……」
…………あぁうめぇ。
高い茶葉なのかな?
茶菓子で出てきたこの豆大福も、このほんのりしょっぱいのがいい味出してる……。
緑茶による癒し効果によってか、俺も大分落ち着いてきた。
諦めモードともいえるけれど……。
『わー!これが本物の大魔神てふ子様なんだ!?本当に見にこれるなんて思わなかったなー!』
その時、モニターから聞き覚えのある声が聞こえた。
映し出されていたのは、大魔神てふ子の足元。
そこに置かれた賽銭箱の手前で、嬉しそうに小銭を投げ込む少女だった。
あの、光の陽キャエナジーは……!
「委員長?」
どうしたんだろう?
旅行だろうか?
喜んでいる所スマンな委員長。
1時間後には、その感動もすべて消え去るらしいぜ……。
「……む?アレ、弟子でーはないか?」
「弟子?」
「あの娘、陰陽師の才能があったであ~ろ?」
「あぁ……」
そういや、初心者用の教材貰って陰陽師になってたな委員長。
俺なんて、一個も才能無いって言われたのに……。
悔しいなぁ……。
「……いるじゃん陰陽師」
「で、ある~な」
晴明人形から、何かの紐が伸びて、大魔神てふ子に接続される。
すると大魔神てふ子の口が開き、そのまま舌が長く伸びて委員長に巻き付いた。
『え!?なにこれ!?ちょっと!?きゃあ!?』
そしてそのまま大魔神てふ子は、委員長を飲み込んでいった。
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