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美須々さんとのお忍びデート体験から帰った後のこと、俺はアレクシアからのヘルプ要請を受けた。
なんでも、エルフの里でベビーブームが起こってしまって、俺が以前大量に渡した魔石が底を尽きそうだと言うんだ。
女しか居ないのになんでそんな事態になるんだと言いたいけれど、あの同性愛で子供が産める種族は、なにかきっかけさえあればすぐ人口爆発できる奴らってことなんだろう。
だったらお前が狩ればいいだろ!100レベル超えてんだから!前戦ったとき結構いい感じだったじゃないか!
って指摘したら、
「だって一人で森の中歩き回るの怖いじゃないですか!よっぽど追い詰められないとしませんよ!泣かせる気ですか!?」
とかほざいていたので、とりあえずでこピンして泣かせてから魔獣狩りをしていたわけだ。
一晩狩りまわっていたらそこそこの魔石が確保できたので、とりあえずこれでいいだろときったねー顔で泣きじゃくるアレクシアに渡してから自宅に帰り着いたのが朝の4時。
ささっとシャワーを浴びてはを磨いて、15分で寝る準備を完了して寝たわけだ。
今日は、完全なおやすみ。
だったらもう大寝坊してやろうぜ!って覚悟で寝たんだけれど、ベッドになにかの存在を感じて目を覚ましてしまう。
まぶたを開けるとそこには、深淵が、漆黒が広がっていた。
いや、正確には広がっていない。
ただただ深いその闇に吸い込まれそうな、コールタールのような瞳が目の前にあったんだ。
あれ?デジャブ?
いや、これ美須々さんの目だわ。
ヒル子バージョンの。
流石に2回目だから慣れたよ……。
「目が覚めたか?」
「……今度は何だ?俺は眠いからまだ寝ていたいんだが?……って、まだ朝の6時じゃないか……」
「我が宿主には、スケジュールというものがある。今日も数時間後には生放送だ。ならば、その前にお主と話して置かなければと考えてな」
なら普通に話しかけてこいよ……。
無言でベッドに侵入してきて、そのコールタールの瞳で見つめるなよ……。
「昨日のデート、我が宿主は非情に喜んでいた。例を言うぞ」
「あぁ……、まあ、俺も楽しかったしそれならよかった」
「また我が宿主のストレスが溜まってきたら、付き合ってやってほしい」
「それは構わないけどさ」
ああいうのは新鮮だったし、相手が喜んでくれると言うなら構わんよ?
相手が俺で申し訳ないが。
もっとイケメンがいっぱいいるこの世界で、スキャンダルになったらヤバいからって俺なんかと今をときめく売れっ子アイドルがデートだからなぁ。
「それでなのだが」
俺が考え事をしている間にも、ヒル子の話は進む。
「我は、産むなら男児より女児の方が良い」
「…………は?」
「女児のほうが可愛い服を着せても嫌がらない分お得だと考える」
「…………はぁ」
「頼むぞ」
「何を?」
俺の返事に反応することもなく、言いたいことを言って満足したとばかりにベッドから出ていくヒル子。
「ではな」
「何を?」
そのまま部屋を出ていってしまった。
何だったんだ?
そんな疑問も、睡魔の前には無力だった。
次に目が覚めたのは、午前10時を回った辺りだった。
なんと6時間近くも寝てしまった!
いやぁ……こんなに長時間寝てしまうなんて、なんとなく自分が悪い事をしている気になってしまう。
ふふふ……この自堕落な感じ!これは完全に不良だ!
部屋を出て居間へと向かう。
中に入ると、ソファーの上には、聖羅とファムが居た。
聖羅は、普通に座った状態でせんべいを食べながらテレビを見ている。
ファムは、横になって肘をつきながら、逆の手ではせんべいを口に運び続けている。
休日のおっさんスタイルと言った感じ。
この部屋、せんべいくせぇなぁ……。
『では、美須々さんにお伺いします!ずばり、好きな男性のタイプは!?』
聞き覚えのある名前に反応してテレビを見る俺。
そこには、アイドルらしい雰囲気に変身している美須々さんが写っていた。
とりあえず、目はコールタールになっていない。
ちゃんと中身も本人らしい。
『好きな男性ですか?そうですね……』
下手したらセクハラで訴えられかねないその質問に、真剣に悩む美須々さん。
こういうとき、アイドルとしてはどう答えるべきなんだろうか?
やっぱり、男たちをだまくらかすために、男の影は徹底的に消したほうが良いんだろうから、『彼氏はいない』『いたこともない』『でも理想はそこまで高くない』っていう感じかなぁ?
『……もし私が、悪い誰かに閉じ込められてどうしようも無くなったときに、自分の危険も顧みず助けに来てくれるような人、ですかね?』
『つまり、物語のヒロインのピンチにやってくる王子様みたいな人ってことですか?」
『うーん……どうなんでしょう?王子様らしい王子様には、あんまり魅力感じなくて……ただ……」
『ただ?』
『どうみても王子様っぽくない人でも、好きになったら王子様に見えちゃう物だと思いますよ?それが、女の子が恋をするってことなのではないですかね』
『おや!?もしや、既にそういう方がいらっしゃるのですか!?』
『ふふっ、ノーコメントです。まあ、うちの事務所って男性トラブル防止のために恋愛完全禁止なので、察して下さい……』
『あぁ……そういえば、美須々さんがデビューした時期って、例のあの事件の辺りでしたもんね……』
その後も色々な質問に答えていく美須々さん。
いつの間にかこんなにも堂々たるアイドルになっちゃって……。
社長は嬉しいです!
「強敵」
「マジニャ?聖羅が認めるほどにゃ?」
「うん、リードしていなかったら危なかった」
「高評価だにゃー」
俺が後方シルエット社長面で見ていると、せんべいペアがよくわからん事を話し合っている。
内容はわからんけれど、どうも俺をその会話の仲間に入れる気はないようなのでスルー。
『では次の質問!美須々さんが男性とお付き合いをした場合、デートに行くとしたらどこがいいですか?』
『デート……では、水族館と答えておきますね。本当は、近くの公園とかでもいいんですけれど、久しぶりに水族館に行きたいなーと思っていたところだったので』
『水族館!定番ですねー。でも、公園とかでもいいんですか?』
『もちろんです。好きな人と一緒にいられるなら、どこでも天国に見えますよ、きっと』
『あー!私もそういう事を彼女から言われてみたいですねー!』
『あれ?確か結婚してましたよね?』
『そこなんですよ問題は……』
アイドルとして活動している美須々さんも綺麗だなー。
でも、あの観覧車で見た彼女の瞳も良かったなぁ……。
これからも、色々な彼女の一面を見せてもらえるんだろうと考えると、顔がニヨニヨしてしまう。
あの子、俺が育てたのよ!
そんな事を考えながら、ファムからせんべいを奪って俺も腰を据えてテレビ鑑賞に突入した。
あ、正直あのコールタールの目も嫌いじゃないです。
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