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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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438/607

438:

 腕を組んで観覧車までやってきた私たち。

 たった今乗り込んだ人たちで列は最後だったらしくて、本当にこのまま乗れそう。


「すみません、2人で乗りたいんですけど、時間はまだ大丈夫ですか?」

「ギリギリですが大丈夫ですよ。おや?カップルチケットで入場のお客様ですね?」

「はい。ここにもカップルサービスってあるんですか?」

「御座います。と言いましても、他のアトラクションと比べると地味なのですけれどね」

「地味?」

「はい、この観覧車は、カップルサービス対象のお客様が搭乗なさっている間だけ、少し回転速度が下がります」

「……それだけですか?」

「それだけです。ですが、案外これが評判良くて……」

「へぇ……?」


 大試さんには、あんまりピンと来ていないみたい。

 でも、やっぱりカップルできたら、できるだけ長く密室でイチャイチャしたいものなんじゃないかな?

 かな!?


「回転速度変えた時にゴンドラが激しく揺れたりしないんですか?」

「そこは、ガーネット家驚異のメカニズムでですね……」

「便利だなガーネットブランド……」


 全然違う所に興味持ってる……。


 そんな話をしている間に、すぐ私たちが乗るゴンドラが来たから、係員に誘導されて乗り込む。


「それでは良い旅を」


 そんな声と共に送り出された私たち。

 ドアを閉められた瞬間から、それまで園内で聞こえていたBGMも、人々の楽しそうな声も、全てが聞こえなくなった。

 耳に入るのは、自分の少しだけ荒い息遣いと、正面に座っている大試さんの出す音だけ。


「観覧車って、子供の時何が楽しいのか全く理解できなかったんですよね」

「そうなんですか?」

「まあ、遊園地自体そこまで魅力を感じなかったって言うのもあるんですけれど、この天辺まで行く間の待ち時間が長い割りに、他に楽しみが無いじゃないか!って思ってて」

「子供はそうかもしれないですねー」

「でも、こうやって誰かと乗るのは、少しワクワクするかもしれません。美須々さんは、観覧車って好きですか?」

「そうですね……こんな大きいのは初めて乗ったので……。でも、デートで遊園地に行ったら、最後に乗るならコレかな?とは思ってました。だから、今のこのシチュエーションは、かなり憧れていました!」

「そうですか?それならよかったです」


 そう言って微笑む大試さん。

 はい!貴方と2人きりで乗れるなら、例え実家の近くの山にあったオンボロロープウェイでもいいです!

 観覧車の方がマンガみたいでもちろん良いですけれど!


「へぇ……丁度夕日の時間帯だったんですね。地上にいる時は、周りに色々あって見えませんでしたけれど、こうやって高い所に来ると良くみえるなぁ」


 大試さんが窓の外を眺めながら呟く。

 言われてみれば、もう閉園間際なんだし、そういう時間帯だよね。

 そう思いながら、私も大試さんの見ている方を見てみた。


「……わぁ……」


 このガーネットランドは、海の近くにある。

 だから、ここから見る夕日は、水平線に沈んで行くみたい。

 夕日をキラキラ反射する海面と、それに照らされる大都会。

 実家から家出してでも来たかった場所に、私は今いるんだなぁ……。

 それも、一番好きな人と一緒に……。


 私、こんなに幸せでいいのかな?

 私は、寄生されていただけとはいえ、人を殺すことに協力させられていた。

 あの人たちは、もう二度と幸せを感じることはできない。

 私を生贄にしようとした両親たちに対して申し訳ないなんて気持ちはこれっぽっちもないけれど、それ以外の人たちは……。


 見ないようにしてきた。

 考えないようにしてきた。

 それでも、ふとした瞬間に思い出す。

 私は、化け物なんだ。

 あの暗くてジメジメして、とても寒い所から出られた今もそれは変わらない。

 そんな私が、好きな人と、憧れていたデートをしていても許されるのかな……?

 助けてもらった。

 アイドルにもしてもらった。

 生活のお世話までしてもらっている。

 こんな私が……本当に……?


「すごい奇麗ですね」


 どこまでも沈んでいきそうな私の思考を遮るように、大試さんの声が聞こえる。

 見ると、こちらをまっすぐ見つめる彼がいた。


「奇麗……そうですね。夕日が本当に……」

「夕日もそうですけど、美須々さんの目がすごく奇麗で」

「……え?」

「いや、最初に会った時にも思ったんですけれど、美須々さんの目って凄く印象に残るんですよ。その時々によって、冷たい印象だったり、楽しそうな印象だったりと色々ですけれど」

「そう……ですかね?あんまり言われた事は無いですけど……」


 美人だって言われた事はいっぱいある。

 けれど、目をそんなに褒められた事は無いかな?


「その美須々さんの目に、今日は夕日がキラキラ反射してて、すごく奇麗だなって」

「…………」


 この人の言う事は、あまり洗練されていない。

 テレビやマンガで出てくる男の子たちの台詞みたいに、相手に好意を持ってもらいたいから出てくる言葉という雰囲気じゃない。

 ただただ、自分が良いと思ったことを伝えてきているだけ。

 それなのに、どうして私はこんなに嬉しくなっちゃうんだろう?


 でも……。


「……大試さんは、私を助けた事、後悔したことありますか?」


 そんな彼にこんな事を聞いてしまう私は、嫌な女の子だな……。


「後悔?ありませんけど?」


 大試さんの、その言葉が聞きたいだけ。

 その為だけにこんな嫌な事を聞くんだから……。


「本当に……?」

「もちろん。というか、俺の場合後悔するくらいなら最初から助けませんからね。生きとし生きる者たちは等しく尊い、なんて上等な倫理観は持ち合わせていませんから、助ける価値が無いと判断したなら、あの時一緒に消し飛ばしてましたよ」

「……何故、助けてくれたんですか?」

「何故って……。だって、あの時美須々さんの目はまだ死んでなかったですから。生きたいって訴えているように感じたんです。まあ、その上で死ぬことも覚悟しているような感じもありましたけれど……。それでも、絶対助けた方が良いなって俺は考えましたし、それを後悔したことは一度もありませんよ。生きててくれて嬉しいです」


 私は、あの時死ぬつもりだった。

 死ぬほど生きたいけれど。

 東京に行きたかったけれど。

 どうせ助からないなら、これ以上周りに迷惑をかけないうちに、私の所に来てくれたこの人に殺されたかった。

 なのに、その大試さんが、私が生きていることを喜んでくれている。

 ……なら……やっぱりまだ私は死ねない。

 きっと、私という存在が無くなるまで、私が自分を化け物だと蔑む気持ちが無くなることはないだろう。

 それでも、ごめんなさい。

 私は、自分の中の化け物を踏みつけてでも、恋に恋する女の子みたいです……。


「……あの、そっちの席に移っても良いですか?」


 私が死んだら、地獄行きかもしれない。

 それでも、死ぬまでは、女の子でいたいんです……。


「じゃあ場所交代します?」

「あ、大試さんはそのままで」


 腰を上げかけた大試さんを止めて、私は大試さんの隣に座った。


「え?夕日、見えにくくないですか?」

「大丈夫です、見たいものは十分見ることができましたから。だから、下に降りるまで、こうしていてください」

「構いませんけど……」


 大試さんに寄りかかる。

 伝わってくる温もりが、私に元気をくれる。


 あの暗い地下室で50年、ずっと憧れていたシチュエーション。

 カッコいい男の子に、カッコいい台詞を囁かれて、そのままキスをして愛を確認し合う。

 ……なんてのは、今の私にはまだ無理みたい。

 でも、今はそれでいいや。

 だって、隣にこの人がいてくれるだけで、地獄のようだと思っていたあの日々ですら霞んでしまうんだもん。

 実年齢で言えば、すごく年下の男の子なのに、どうしてこんなに甘えちゃうんだろう?


「ずっと下に到着しなければいいのにな……」


 そんな言葉が漏れてしまう。


「じゃあ、もう一回乗ります?あー、でも流石に時間的に無理か?」


 隣から、ちょっとだけ困っている声がするのすら愛おしい。


「……いえ、今日はここまでにしておきましょう。じゃないと、流石に聖羅さんたちが拗ねちゃいますから」


 この人を独り占めできる時間は、もうお終い。

 次それができるのが何時になるかは、一応神様の私にもわからない。

 神のみぞ知るなんて言葉もあるけれど、神様だってわからない事ばかりだよ?


 わからないから、希望があるんだもん。


「今日は、楽しめましたか?」

「はい、とっても!」

「良かった。誘った甲斐がありました」

「……またいつか、こうして2人きりで出かけてくれますか?」


 この人には、婚約者だっている。

 何人もいるから、私にだってチャンスはあると思っているけれど、それだけ私に割ける時間なんて少なくなるわけで、そう簡単に約束なんてできるわけ無いよね……。


「いいですよ。次はどこ行きますか?少女マンガっぽい場所ってなると、映画とか?」

「……あ、は、はい!映画も良いですね!別に特別な場所じゃなくても、公園に2人で散歩に行くだけでもいいんですけども!あとは水族館とか!?」

「あー、いいですねー水族館。俺、触れるプールが好きなんですよ。小さい時は、あそこで服をベチョベチョにして親に怒られたなぁ……」


 ……あれ?え?デートの約束とりつけちゃった?

 え!?いいの!?本当に!?嘘じゃないよね!?

 噓だったら普通に泣くからね!?


 横に座ったことで、真っ赤になった顔が見られない事に少しだけ感謝した。


 物語のヒーロでもヒロインでもないけれど、そんな作り物より、この人の温もりのほうが素敵な気がするな……。




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