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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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437:

 この前、特撮物の番組の主題歌を歌った関係で、放送前特番にお呼ばれした。

 そこでは、過去の特撮ヒーローものの秘話についての話も合って、私も結構楽しかった覚えがある。

 中でも印象に残っているのは、そこそこ昔のヒーロー……って言っても、私が神社の地下に囚われたのよりは後だけど……のスーツアクターの方のインタビュー。

 天辺が尖った岩山のような場所にスーツを着たその人が立っていて、それをヘリコプターで周りを飛びながら撮影したらしい映像が映し出され、


「これ、どうやって撮影したんですか?周りに道なんて無いように見えますが……」


 と司会の人が聞いていた。

 それに対しての答えは、


「どうやって……?えーと……頑張って登ったんです」


 種も仕掛けも無い、ただただ無理を押し通しただけ。

 そういう場所なんて当然魔物の領域だろうに、ただ迫力がある映像が撮りたいという無茶な要求に答えさせられた結果がそれだった。

 スーツアクターとは、つまるところそんな感じの真っ黒なお仕事が多々ある業界らしい。


 今私たちが挑戦しているヒーローショーも、とっても真っ黒。

 考えた人に、貴方の血は何色ですか?って聞きたいくらい。


「このセリフの後のこの……『宙返りして距離を取る』っていう指示、実現できる人がどのくらいいるんですかね?」

「こっちなんてすごいですよ?登場シーンが、舞台の上の所から飛び降りるらしいですし。命綱なんて無いんだろうな……」


 ステージの陰に着けられた『安全第一』と書かれているステッカーが目に入る。

 これがついているってことは、安全を第一にしろって念を押さないと安全を第一に考えられない場所って事だよね……?

 身体強化が使える魔術師ならともかく、魔力の少ない平民の方々がこんな事したら命に関わりそうだけど……。


 でも、幸いというかなんというか、100レベルを超えた私たちであればできる!出来ちゃう!


「……あ、本当にバック宙っていうのできちゃいました!」

「レベルって重要なんですよ。日常生活でも、結構メリットありますし」


 私との話に付き合いながらも、大試さんはスタッフ数人によって着ぐるみを装着されていく。

 私が担当するアブドミナルは、子供って設定だから着ぐるみ自体もそこまで大きくなくて、中に入るのは体格のそこまで大きくない女性って前提の着ぐるみだったけれど、大人の女性のデザインになってるラクティクアシッドの方は、アブドミナルより大きくする必要があったらしくて、どうしても中には男性が入らないといけないサイズになったらしい。

 そして、その複雑でセクシーな印象を実現するために、パーツが細かく分かれていて着るのが大変なんだそうで……。


「……うわ、すっごいオッパイつけられた……」

「大試さんに大きいオッパイがついているのって凄い違和感ですね……」

「やっぱり?」


 大試さんが、悪の女幹部になっていく不思議な光景に集中を乱されながら、私は台本を読み込んでいった。



『みんな!アブドミナルにマッスルパワーを大きな声で届けて上げて!せーの!』

「「「「「「「マッスルー!」」」」」」」

『まだ足りないみたい!もっと大きな声で!!!』

「「「「「「「マッスルー!!!!!」」」」」」」


 そんなあわただしい準備時間なんてあっという間に終わって、すぐに本番が始まった。

 初めての着ぐるみショーで緊張していたらしくて、いつの間にか時間がふっとんでもうショーも終盤。

 今の所、私にミスらしいミスはない。

 なんだかんだでとても上手くやれていると思う。

 でも、大試さんは私よりもっとすごくて……。


『オーッホッホッホ!ブザマねアブドミナル!貴方は、ラクティクアシッドが倒すのよ!』

『ダメ!早くしないと間に合わなくなる!みんなー!最後のチャンスだよ!せーの』

「「「「「「「マッスルぅぅぅぅ!!!!!!」」」」」」」


 女の子が女の子を演じているアブドミナルと違って、大試さんの役は、悪の女幹部。

 それも、とてもセクシーな衣装の。

 にも拘らず、大試さんの動きには凄まじい色気があって……。

 少しした練習でもそうだったけど、なんでこんなに上手いのかと思って本番前に聞いてみたら、


「いや、美須々さんのダンスの振り付けを考えるために、この手の動きの勉強はいっぱいしたからですね。今なら、指の動きだけで女性っぽくできます」


 って言っていた。

 この人、なんでこんなに何もかも頑張って仕事してるんだろう……?

 なんて思わないでもないけれど、それに毎回助けられてる私には指摘する権利無いよね……。

 ありがとうございます!


『プロテイィィン……ボンバー!!!』

『きゃあああああああああああ!!!』


 そんな台詞に合わせて派手な攻撃を繰り出す。

 それを受けたラクティクアシッドが、悲鳴を上げながらバック宙で吹き飛ばされて、そのままステージに横になった。


 もちろん、これらの台詞は、私たちの物じゃない。

 予め録音されていた台詞をタイミングよく流しているだけ。

 それなのに、正にラクティクアシッド本人が話しているみたいに違和感が無い動きをしているんだよね……。


 今回の事について私が意識するように言われたのは、観客にもわかりやすい派手な動きを心がけること。

 正直に言うと今の私なら、全力で動き回っただけで一般の人たちには、速すぎて何が起きたのかもわからないモノになっちゃうと思う。

 だからこそ、敢えてスピードを全力から落として、見えやすくしてる。

 私の動きに問題は無かったと思うけれど、それでも大試さんの動きには敵わないなぁ……。

 本当に、中に女の人入っているみたいに見えるのに、無茶な指示を完ぺきにこなしながら、今ああしてステージの床で死体役まで始めちゃった。


「お疲れ様です!最後のやられる時の動き、怪我しませんでした?」

「お疲れ様です……。いやぁ……ケガはしていませんけど、流石に空中で回転しながら吹っ飛ぶのは大変でした……」

「あはは……でも、すごかったです!」

「そうですか?……美須々さんは、楽しめました?」

「はい!観客の皆さんも喜んでくれたみたいで、とっても嬉しかったですね!」


 最後に私たちが一列に並んで挨拶をすると、観客席中から拍手が巻き起こっていた。

 中止にしなくて本当に良かったな……。


「なら良かったです」


 そう言って、嬉しそうに笑ってくれるこの人の顔が見れたからってのもあるし……。



「本当にありがとうございました!お二人には何とお礼を言えばいいのか!」

「いえいえ。今日休んだスーツアクターさんたちには、もう本番前日に牡蠣なんて食べないように伝えておいてくださいね?」

「もちろんです!」


 スタッフさんたちも大喜び。

 泣いてる人までいた。

 きっと大試さんは、今までにもこうやって色んな人たちを助けてきたんだろうなぁ……。

 本人は、そんなつもりはないみたいだけれど、かなりのお人好しだと思う。


 そんな大試さんは、誰に助けられて来たのかな……?

 ……答えは、家にいる時の大試さんを見ていればすぐにわかっちゃう。

 家族の皆との仲良さそうな……信頼し合っているような、そんな姿を見せられて……。

 大試さんが何も言っていないのに、聖羅さんたちは、大試さんが付かれていたらすぐ気が付くんだもん。

 最初は、超能力か何かかと思ったもんね……。


 それで行くと、私なんてまだまだお客様みたいなものなんだよね。

 早く私もあんな風に……。


「あ……」


 着ぐるみを脱いで、スタッフさんたちに挨拶してから外に出たら、もう閉園間際の時間だった。

 真夏には、夜間営業もしているらしいけれど、今の季節は夕方に閉まってしまう。

 折角のデートだったけれど、ショーで時間を結構食っちゃったしもう終わりだなぁ。


 でも、私がちょっとがっかりしているだけで、この人は気が付いてくれるらしくて……。


「最後に、観覧車でも乗りませんか?」

「観覧車……ですか?」

「はい!ここから見た感じ、待っている人もいないみたいですから、きっとすぐ乗せてもらえますよ」

「じゃ……じゃあ、お願いします……!」


 夕日に染まる遊園地を、私はまた大試さんと腕を組みながら歩きだした。


 そういえば、あのマンガでも、最後は観覧車だったな……。






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乗った後の観覧車席の一つがぐわんぐわん揺れてそうね
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