436:
お化け屋敷から出た後も私たちは、引き続きデート……うん、デート!を続けた。
アイドルである私が男の子とデートしている所を見られたら、そこそこ大きな問題になるかもしれないとは思いつつも、こういうシチュエーションに憧れていたのと、相手が私を救い出してくれた大試さんなのとで、どうしても止めるという気持ちになれない。
自分が王子様だと思うような相手が、運命の相手だと思うような男の子とデートしているんだから、誰だってそうなると思う!
(やはり理解できん。そろそろ子種を搾り取るべきではないのか?子供は欲しくないのか?生物の本懐とは、子孫を残す事だろう?神性を得たとはいえ、其方は未だ女なのだぞ?このヒル子にかかれば、絶対に健康な子供を身ごもらせてやるぞ?性別は男か?女か?我は女が良い。流石に無性は無理だが)
うっさいドロドロ!
そう言うのは追々でしょ!?
まずは、まずは……そう!もっとこう、本当の恋人っぽく思ってもらってからじゃないと……。
愛を育んでからするものだと思うし……多分……。
因みに、聖羅さん情報によると、大試さんはそう言う所を大切にするかなりのロマンチストで、キスすらしていないらしい。
普通は、付き合ったらキスするってマンガとか雑誌には書いてあったのに……。
あ、頭の中で皆が会議始めちゃった……。
キス賛成派と反対派で奇麗に半々に……。
え?キスよりもピンク色の烏帽子をかぶってもらいたいの?それは派閥じゃなくて個人にカウントするね……?
「美須々さん、次はどうしますか?お化け屋敷、ジェットコースター、コーヒーカップと来ましたけど」
「うーん……悩ましいですね……。メリーゴーラウンドか、海人部の海賊か……あれ?」
大試さんと次に行く場所を相談しながら歩いていると、視界の端にステージが映った。
何かのイベントが行われていたのか、疎らだけれどお客さんが席に座っている。
だけど、この斜め前方の位置から見えるステージの下手側にいるスタッフさんたちが、やけに大慌てしながら何かを話し合っているみたい。
何かトラブルでもあったのかも?
「おかあさん、マスキュアまだー?」
「そうねぇ……どうしたのかしら……?」
「いつになったら俺のアブドミナルちゃんが出てくるんだ!?」
「お前んじゃねぇよ!」
観客席のお客さんたちの反応を見る限り、マスキュアのヒーローショーが中断しているのか、もしくは始められていない状態なのかな?
マスキュアは、マッスルでキュアキュアな女の子たちが、ナンパしてくるチャラ男たちをちぎっていくアニメだったはず。
私も一回声優としてゲスト出演した。
はじっこに映る端役のキャラに声を当てただけなんだけれど、『声優を無礼るな』ってインターネットで評価されててこっそり泣いた覚えが……。
私の事はともかく、トラブルのせいでこの場所の雰囲気はあまり良くない。
もちろん、私にそれをどうこうする筋合いなんて無いんだけれど、折角こうして楽しく大試さんとデートしているのに、その横でこうしてガッカリしている人たちがいたなって考えちゃうと素直に楽しめない気がする……。
でも、出しゃばるべきじゃないかもなぁ……。
うーん……。
「ちょっと覗いて見ますか?」
「え?」
気が付けば、大試さんが私の顔を覗き込みながら何かを聞いて来ていた。
「いえ、美須々さんがステージを気にしているみたいだったので」
「あー……はい。どうも何かのトラブルにでステージが進行できていないみたいなんです。それが気になっちゃって……」
私だって新人とは言え、芸能の仕事をしている。
だからか、こういうのは……嫌だな……。
「じゃあ、ちょっと手伝ってみます?運が良ければ、美須々さんの宣伝にもなるかもですし」
「え?いいんですか?」
「先方次第ですけどね。ちょっと聞いてみます。あ、もしもしリンゼ?実はさ、今ガーネットランドのステージの近くにいるんだけど、何かトラブル起きてるみたいで催しが中断してるんだよ。ちょっと介入して良い?お、サンキュー。じゃあ、帰りに何か買って帰るわ。え?今日はプリンの気分?いいけど……でかいプッチン?あれ中々見つからないんだけど……。わかったわかった。それじゃあ後でな」
突然電話をかけ始めた大試さんを見守っていると、どうやら相手はリンゼさんだったみたい。
そういえば、ここってリンゼさんの実家がやってるんだっけ?
「リンゼに確認したら、上の方には話を通しておいてくれるらしいです」
「親族強権すごいですね……」
「トラブル解決に手を貸すってだけですから、あっちもノリ気でしたよ。まあ、何が起きているのか俺達もわかっていない訳ですが」
「でも、やっぱりステージに来たお客さんたちには、楽しい思い出をもって帰ってほしいですから、私たちに出来る事ならお手伝いしたいです!」
「わかりました。じゃあ、行ってみますか」
そして向かったステージ袖。
スタッフたちが頭を付き合わせて何かを話し合っている。
「やっぱり無理みたいだぞ」
「でもよぉ……流石に替わりは用意できないだろ?」
「中止にするしかないかもな……」
明らかにお通夜モードだ……。
「すみません、リンゼ・ガーネットの身内なんですけれど、何かトラブルでもあったんですか?可能であれば手伝わせて頂けないかと」
「ん?なんだアンタ、ここは関係者以外立ち入り禁止……って、犀果様!?どうしてここに!?」
「遊びに来たら、ステージ袖でスタッフが大慌てしているのが見えたのでね。それで、何があったんですか?」
「……リンゼお嬢様の婚約者様であれば問題ないか……?実は、今日の着ぐるみショーに出る予定の主人公のアブドミナル役の女性と、敵の幹部であるラクティクアシッド役の男性スーツアクターが、ノロウイルスに感染してしまって……」
「ケガならポーションで治すこともできますが、ノロに感染している時にポーションを使っても悪化する可能性すらあるので、強制的に休ませているんですよ」
「ただ、そうなると代役が必要なのですが、いくらプロのスーツアクターと言っても、着ぐるみの中に入りながら宙返りやバック宙を決められるスターは少なく、今日は誰も出勤しておらず……」
要するに、バカなオジサン2人が牡蠣に当たって出れなくなって、代役を用意したいけどそれも難しいって事?
なんでプロの演者がそんな危ない物を本番前に食べちゃうかなぁ……。
着ぐるみは、中に入っているとすごく動きにくい。
私も企画で着たことがあるからわかる。
ボディスーツタイプなら多少はマシだと思うけれど、それだって実際にできる人なんてそうそう……。
あ、私できるや。
大試さんの家に居候させてもらってからレベル100超えて、その位なら軽々とできると思う……。
台詞とかはきっと別の声の人が入れるんだろうし……。
それに、大試さんもその位できるよね?
この前暫く着ぐるみで頑張ってたし。
……あれ着て頑張る大試さん可愛かったなぁ……。
でも、今ってデート中だし、大試さんはガッカリしないかな……?
「うーん、俺と美須々さんならできそうですけどどうします?」
だけど、私の心配なんて必要なかったらしい。
大試さんは、自ら進んでやってくれるみたい。
やっぱり、私はそんな大試さんの事がす
「やります!!!」
「おお!すごいやる気だ!」
「お2人にはそんな技術があるのですか!?」
「すごいぞ!救世主だ!神は我らを見放さなかった!」
スタッフさんたちが色めき立つ。
まあ、普通に考えてこれで中止なんてなったら大問題だもんね……。
それはそれとして、ヒーロー着ぐるみショーかぁ……。
テレビならともかく、お客さんの前で着ぐるみなんて初めてだなぁ……。
でも、大試さんと一緒なら平気!
「では、すぐに台本を下さい!3分で覚えます!」
「俺は、5分は欲しいです……」
「畏まりました!おい!台本の予備持って来い!」
「はい!」
「台詞や効果音のタイミングはこちらが合わせますから、お2人はとにかく派手な動きをお願いします!」
こうして、デートを一端中断して、私はアニメのヒロインになった。
因みに大試さんは、セクシーな悪の女幹部の中身です。
感想、評価よろしくお願いします。




