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日本の我が家に着きました。
イチゴエアをご利用いただき誠にありがとうございます。
「ここが日本なのですね?それでは参りましょうか」
「王城へですか?」
「いいえ、秋葉原へです!」
「却下します。王城へ行きましょう」
「そんな……」
アホのイケメンカスを地下の収容施設へとドローンで送った俺たちは、そのままの足で王城へと向かった。
ってか、家まで護衛たっぷりの黒塗りの車たちがやって来ていたので、姫様を乗せて終わりかと思ったのに王様から電話が掛かってきて、「おう!連れて来たなら最後まで責任を取れ!」と言われたせいで、結局俺までお城へ直行だよ……。
とりあえず挨拶を交わした王族たち。
添え物の俺。
俺、必要だった?
「では、私の日本での滞在先は、犀果邸ということで宜しいですね?」
「宜しくないが?」
「おう!聖羅には了解とってるから大丈夫だぞ!」
「俺の了解は?」
「聖羅が良いって言ったらいいんだろ?」
あ、このために呼ばれたんですね。
まあ……確かに聖羅が良いって言ったなら認めますけども……。
「でも、何故うちなんです?王城の方が良い暮らしさせてもらえるのでは?」
最後の望みをかけて、謁見が終わり帰る途中で尋ねる。
他の滞在先を検討してもらいたくてさ……。
「私が抑えておきたい相手は、日本という国では無いからです。犀果大試さん、私は貴方に差し出された人質……という建前なんですよ」
「えぇ……?そうそう変な事しないんで、他の場所に滞在してくれません……?他国の王女を滞在させるのって、結構面倒な事になりそうな気がするんですけれど……」
「嫌です。だって、知らない人の家とか怖いじゃないですか?」
「俺んちだって同じようなもんでしょ……」
「弟がファンになる様な相手が悪い人の訳がありません。なんなら、手を出して頂ければ堂々と貴方をダシに弟とまた会えるかもしれませんし……」
「もう諦めたら?」
「ありえません。弟に拒絶でもされない限り、私は何度でも弟に会いに行きますよ」
「右目、蹴られたんですよね……?」
「……あれは、何かの間違いです……ところで、聖女の聖羅様にこの右目を治して頂けませんか?先ほどから痛くて泣きそうです」
「ルイーゼ様が泣く所を想像できません」
「私が人生で泣いたことなど3回しかありません。1度目は、弟が私の立場を奪うと悪しき考えを植え付けようとした者たちの言葉を聞き興味が湧いて、生まれたまだ間もない弟を観に行った時でしょう。可愛すぎてほっぺをツンツンしていたら、乳母に見つかって接近禁止命令を受けてしまいました。2度目は、『おねえちゃまキライ!』と言われてしまった時ですね。そして3度目が先程この右目を蹴られた時です。心が抉れた気がします……。あ、涙が……これが4度目ですね……」
「……中佐さん、このお姫様大丈夫なんですか?」
「らめれすぅ……わらしぃ……そんなやすいおんならないんれすよぉ……?」
「ソフィアさん、ウコン飲ませといて」
「飲んだうえでこれじゃ」
「…………」
ソフィアさんの背中で寝ている中佐。
気持ちよさそうに寝ているところ悪いけれど、イラっと来たので、疱瘡正宗でアルコールを完全浄化した。
でも起きない……。
ずぶといなぁ……。
「大試さん!」
「へぶっ!?」
王城を出る直前、背中から謎の衝撃を受けてロビーを転がる。
何とか勢いが落ちて落ち着いてから背中を見ると、この国のお姫様が抱き着いていた。
あぁ……普通めのお姫様は落ち着くなぁ……。
あれ?普通のお姫さまって、突撃しただけで男を吹き飛ばせるもんか?
まあいいか……。
「ただいま、有栖」
「私のために申し訳ございませんでした!」
「いや、別に有栖が悪いわけじゃないし……」
「それでも!私のために大試さんが骨を折ってくれたことは事実です!」
今この瞬間が一番骨にダメージ負っているかもしれん。
「気にするな。大切な人のための苦労は、苦労の内に入らないし」
「はい!大好きです!」
抱きしめられているアバラが悲鳴を上げる。
帰って来たって気がするぜぇ……。
「もし、有栖様でらっしゃいますか?お初お目にかかります。私、ドイツ王国第1王女、ルイーゼロッテ・デ・クラムロスと申します」
「……あ、これは恥ずかしい所をお見せしてしまいました……。有栖と申します」
「婚約者同士、とても仲が宜しいのですね?羨ましいです」
「そ……そうでしょうか……?ですけれど、ええ……政略など関係なく、愛しておりますので……」
「まぁ!是非お話を聞かせて頂けませんか!?私、そういうお話大好物なんです!」
プリンセスたちがキャイキャイと交流を深める尊い空間。
ちょっとだけボロ雑巾のようになっているだけれど、この場所の空気を吸っているだけで回復する気がする。
「もー!ますたぁ!早くあーんして!」
「明日じゃダメか?もう疲れたんだけど……」
「ダメ!今日してほしい!」
「ついでにワシもしてほしいんじゃが?」
姫たちの話し合いは日を跨ぐことになったため、結局ルイーゼ姫の滞在先となってしまった我が家は、現姫から亡国の姫、魔王の娘まで姫が選り取り見取りの場所となった。
すごい空間だなぁ……なんて他人事のように思いながら、希望者へとアイスクリームをあーんをしていく俺。
大して面白い行為ではないと思うんだけれど、こういうのに憧れている人は一定数いるらしく、まったく関係ない女性たちまで列に並んで大変だった。
終いには、順番が待ちきれなくて自分たちであーんしあう人たちまで続出。
犀果家に、あーんブームが到来することとなった。
「……まあ、このくらい平和なら、それでいいか」
「よくない!イチゴは頑張ったんだからあと2回はあーんして!」
「はいはい……」
「大試さん、私にもお願いします。『お姉ちゃん、あーん!』というセリフ付きで」
「…………え……?嫌だ……」
「大試、私は『聖羅、愛してる。あーん』で」
「わかった」
「むぅ……何故やはり年下でないと弟にはなれないのでしょうか……?」
この数か月後、この世界の日本とドイツによる初めての国家間条約が成立する。
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