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「その方が、貴方の言っていた賊ですか?」
「えーと……はい……」
「随分と刺激の強い見せ方をしますね」
「まあ……見せしめだからねコレ」
「えぇ、私も理解しております。怖い人ですね」
「自分の大切な人の為なら、このくらいするでしょうよ。死んでないだけ感謝してほしい」
「死んだ方が幸せかもしれませんよ?ここまで壊されては……」
「そんなこと無いですよ。人間生きている方が絶対良いに決まっています。死んだ方が幸せなんて言葉は、死んだことが無いから言えるんですよ」
「まるで、本当に死んだことがある様な事をおっしゃいますね」
「そうでしょうか?……いや、正直コイツの事はもうどうでもいいんです。さっきまでは重要だと思っていたんですけれど、ルイーゼ様の姿を見て、俺の中の優先順位がちょっと変わってしまいました」
「まあ!それはつまり、大試さんが私の姿に欲情して、我が国にダダ甘になって頂けるという事でしょうか!?」
「違います」
「違うんですか……」
「えぇ……。それで聞きたいんですけれど……」
「その、右目の包帯どうしたんですか?」
「弟を目に入れようとして失敗しました。大試さんのサイン色紙で釣れたので今度こそはと考えたのですが、寸前で蹴られてしまいました……。普通に痛かったです……。こんな筈では……」
「やっべぇなアンタ……」
うめき声をあげてのたうつ男を鎖で縛って王城の庭まで引き摺って来た。
今後このようなバカが発生しないでほしいという願いを込めて。
そしたら、コレである。
何なのこの人?
有能なのか狂人なのかわかんねぇわ……。
有能な狂人なのか?
「……それで、後ろの中佐は、なんでそんなに泣いているんですか?」
「だってぇ!わたしわるくないのにぃ!」
「私と一緒に国外追放になったのです」
「サラッと何言ってんの?」
「流石に王子を実際に目に入れようとしたのはアウトだったそうで」
「そりゃそうよ?」
「それで、今後の両国関係を考え、王女である私を人質として送り出す……という名目で追い出されました」
「普通人質の方が秘密にされるネタだと思うんですけどね……」
「ベティは、そんな私の護衛というか見張りですね」
「どんだけ危険視されてんの?」
「わたしぃいいい!まじめにやってたのにぃ!!!!」
中佐、ギャン泣きである。
俺なんかにはわからない程の絶望が彼女を支配しているのかもしれない。
姫様の方は、既にプリンセスっぽい服装に着替えているのに、中佐は未だに水着らしい。
イチゴ柄バスローブがはだけているけれど、そんな事に気が付く余裕すら無いらしい。
「というわけで、日本まで乗せて頂けますか?」
「ヒッチハイクかな?」
「留学という体でやって行こうかと考えています。既に日本からは了解を得ていますので」
「この短い時間で……?」
「明日から私は大試さんの後輩です」
「まって?年下だったんです?」
「そうですよ?」
「インパクトありすぎてもっと年上だと思ってた……」
「お邪魔しまーす」
「止める間もなく乗り込まれてしまった……」
あの光の筒っぽい謎技術の搭乗口に臆することも無く秒で乗り込むルイーゼ様。
泣きながら後に続く中佐。
かける言葉が見つからない。
「ますたぁ……本当に乗せるの……?」
「ドイツ国民がやらかしたとはいえ、国全体を大騒がせさせてしまったからなぁ。もう王様とも話ついちゃってるみたいだし、その位の頼みは効いた方がいいかなと」
「えぇ……。イチゴ、可愛い女の子をますたぁと一緒に乗せたくないー……」
「すまん、イチゴだけが頼りなんだ」
「……あーん!」
「それの何が嬉しいのか知らんが、してやるから……」
「ホントだよ!?絶対だからね!?」
イチゴに賄賂を贈ることを約束して俺達も乗り込む。
俺が引き摺って来た手荷物は、中に入ると同時に貨物室の箱の中に転送されているらしい。
機内では、お姫様が大興奮で探索をしていた。
「まぁ!これはトイレですね!?ふむふむ……吸い込む構造になっている……?となると、無重力下での運用も想定されている……?ウン用……」
引っぱたいてやろうか?
「わたしぃ!!!がんばったんですぅ!!!!」
「わかるぞ!そんな時は飲むんじゃ!ほら!キンキンに冷えた生ビールじゃぞ!」
「わぁん!」
「おぉ……ジョッキに注いでやったのに、ピッチャーの方を取られるとは思わんかった……」
食堂では、中佐がソフィアさんにお酌されていた。
いつの間に……?
「……ドイツって、怖いとこだったんだな」
「ますたぁ、ドイツがじゃなくて、この人たちが特殊なんだと思うよ?」
世界をぶっこわしかけたAIに言われちゃうようじゃやべぇわ……。
「帰ろうか……」
「うん!早く帰ってあーんしてもらう!」
俺達は、外交的には勝利したはずだ。
ほぼ完璧にこちらの要求を飲ませたんだし。
だけどなぁ……。
「大試さん、私、日本に行ったらやりたい事があるんです!」
「ルイーゼ様、一応聞いておきます」
「サークルを作りたいんです!」
「ストーンですか?」
「いえ!姉ショタものを描く方です!」
「却下ですね」
「もちろん、血のつながらない姉弟なんて軟弱な事を言うメンバーはお呼びではありません!やりますよ!」
「却下です」
「まず最初のメンバーは、私とベティですかね」
「わたしぃぃ!ちゅうさなのにぃ!!!
「お……おい……流石にツマミも食わずにそうガバガバ酒を飲むのは勧められんぞ……?」
「もー!うるさーい!ますたぁ以外は黙って!」
暁の空に、イチゴ色の飛行機雲を残して俺たちは飛ぶ。
生れて初めてのドイツ。
それは、滞在時間でいえば数時間でしかなかったけれど、とても思い出深い物だった。
多分もう二度と来ることはないだろう。
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