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「それでは、自己紹介も済んだところで、そろそろお話し合いを始めましょうか」
プリンセスルイーゼは、そう輝くような笑顔で告げる。
男であれば、その提案を断ることができる者なんてそうそういないだろう。
でも、俺はできる者なんだ。
なんとか……そう、ギリギリ……。
「…………ろ」
「はい?」
「………着ろ」
「申し訳ありません、よく聞き取れなくて……」
「服着ろ!舐めとんのか!」
「いえ?できれば貴方が私の体を嘗め回したくなるほどに興奮してくれればと期待しています」
「せめてそう言うのは考えるだけにしてくれ!」
競泳水着、クラシカルメイド服、キツネ耳等をチョイスしなかった自分たちの不勉強を呪うんだな!
10分休憩。
「ふふふ、可愛いですねこれ。イチゴ柄のバスローブですか。これ、1つ頂いて帰っても?」
「いいよー?他の女が着た服着てますたぁとイチャつきたくないし」
「まぁ!大切にしますね!」
「すごーい、毒無効だー……」
イチゴに頼んで適当に羽織れる物を用意してもらって再開する。
空間を歪ませているというこの機内には、そこそこの広さの会議室だってあるんだ。
そこでテーブルを挟んで片方には、俺とソフィアさんとイチゴ。
対面には、王女様と中佐が座っている。
美女のバスローブ姿もこれはこれで……。
イチゴ柄によって中和されていなかったら危険だった。
「では、ルイーゼロッテ王女」
「ルイーゼで結構です。ですので、私も大試さんとお呼びしても?」
「……わかりました」
交渉術の基本、ファーストネームで呼び合う。
早速ぶっこんできやがったな……。
だが!俺はそんな小手先の手で絆されたりしないぜ!
こちとらコミュ障なんだ!
一見問題なく笑顔で話しているように見えて、心の中ではもう静かに寝てしまいたいと思う程にウンザリしているような男だぜ?
しかも、俺相手に優しく語り掛けてくるような美少女は、基本的に何かよからぬ企みがあると考えて事に臨むような境遇だ!
……いや、この世界に転生してからは、そこまで酷い女性にあんまり会わないけれど……。
あれ?確変か?
「ルイーゼ様、本題に入っても宜しいでしょうか?」
「その前に、こちらを」
「……これは?」
「色紙です」
「それは……見てわかるのですが……」
「サインをお願いします。弟が貴方のファンだそうで、プレゼントにしようかと」
「しょうがないなぁ……いいよ」
前にアイドル事務所を作ろうといろいろやってた時に、サインの練習もしたんだよなー!
披露した事は無いけれどさ!
副作用で、間違ってピーポー君って書きそうになるけれど、今回は何とか自分の名前で行けた。
あれ?
落ち着けよ俺。
美少女からサインを求められたからって何嬉しくなっちゃってんだ?
ファンがなんだ?
クレバーに行こうぜ?
「ありがとうございます!うふふ……これで最愛の弟の喜ぶ顔が見れます!」
「それはよかったです。私のファンなんてものがこの国にいるとは思いませんでしたが」
「中々有名だそうですよ?といっても、若い世代にですけれど。私の弟なんて、まだ5歳であるにもかかわらず、『しょうらいはたいしーますくになる!』と言って聞かなくて……。可愛いでしょう?」
「マスクの方!?ちょっと待ってもらっていいです?サイン書き直すんで……」
「ダメです!これは、弟に渡すものです!もう私が貰ったので返しません!うへへ……これで今週の弟と会う回数が増やせるかもしれませんね……。週7回しか会ってはいけないなんてあんまりですし……」
「……それは、姫様が変な事をなさるからです……」
「そうかしら?目に入れても痛くない程可愛いという言葉を証明するために、何度か弟を目に入れようとしただけですよ?」
「それ比喩表現ですからね!?実際に入れるわけじゃないですからね!?」
「ですが、私のような美しい姉の目ならば弟も喜ぶのでは?」
「美少女だろうがオッサンだろうが目の中に突っ込まれたらトラウマしか産まんだろ……」
「そうです!」
「おかしい……何故ベティと大試さんの方が息があっているのでしょう……?」
お前のせいや……。
まずい!
完全に相手の空気に呑まれている!?
水着でやって来てからここまでの言動全てがこのための布石なのか!?
やられた!
(ソフィアさん、ソフィアさん)
(なんじゃ?ワシ、この娘と話すのは無理じゃぞ?何考えているのか理解できんもん)
(いえ、俺が正気を保つために、俺の太ももを抓っておいてくれますか?全力で)
(大試がそこまでせんとならん相手か……よかろう、引き受けた!)
ぐぬぅ!?
いってぇ!
情け容赦ない激痛が俺を責める。
だけど、これで冷静に事を進められる……!
プルプル動く胸が何だ!
サイコパスブラコンが何だ!
俺は平気!大丈夫!
「それでは始めましょうか大試さん。恐らく、インターネットを利用したテロ行為、もしくはその扇動について国家間でルールを定めようという事でしょうか?」
「……え?お、おう」
「わかりました。ソレに関しては、今後お互いの国の専門の者たちで話し合う事に致しましょう。今ここで決めようというお話ではなく、恐らくお話し合いを始めるためのお話合いをしにまいられたのでしょう?」
この世界は、前世の世界と違って、魔物の領域によって国同士が遮られている。
隣の国同士ならばともかく、地球の裏側の国ともなれば、本来であれば行き来するだけで命がけだ。
そんな世界であれば、国家が監視する対象は、国内に影響を与えようとするものが重視される。
一部の宗教関係者のように、命がけで布教しようとやってくるのでもない限り、悪者だろうが、どう頑張ってもそうそう国外からやってくることなんてできないから。
だからインターネットを使って、自国民が外国の王族に何かしていたとしても、取り締まるという事なんて今まではまず無かった。
元になった7でならあったのかもしれないけれど、今この世界は、そこまで国交も無いしな。
輸入大国だった前世の日本と違って、この世界では、必要な物資は魔物やダンジョンから採れる。
そんな国際情勢だと、国家間でのルールってのは育たんもんらしい。
だけれど、これからもそれでは困るんだ。
でもさ、まさかいきなり真面目に話を始めるなんて思わなかったなぁ……。
「ですが、それは今後のお話であって、恐らく大試さんは、まだ要求があるのでしょう?」
「……まあ、はい」
「伺いましょう」
「まだそのルール決めがされていないとはいえ、今回俺の大切な人に対して殺害しようとする動きがあった事を許すことはできません。ですから、犯人を俺が捕まえて連れて帰る許可を貰いたいんですよ」
「引き渡すだけではいけませんか?拘束まではこちらで行っても……」
「ダメですね。貴方たちにとって今回のような出来事は、所詮は遠い国で起きたトラブルです。警察、軍、その他どのような立場の人間が取り締まる事になるのかはわかりませんが、本気で取り組んでもらうためにはまだ弱い。私が帰れば、また同じような事が起きるでしょう。ですから、地球の裏側だろうが、死神の鎌は届くという事をアピールしたいんですよ」
「そうですか。ならば仕方ないですね」
「姫様!?いくらなんでも外国の者にそのような勝手な真似をされては……」
「いいえベティ、大試さんは今、ギリギリ筋を通す提案をしてくれているに過ぎません。ここで私たちが断ったとしても、実力で押し通るでしょう。私たちは、頷くしか無いのです。無傷で王城の庭に着陸された時点で、既に負けているのですよ我々は」
「くっ……しかし……」
「胸を張りなさい。貴方のその胸は武器なのですから」
「はい……はい?」
あのさ、いきなり真面目に話し始めるの止めてくれない?
どこまで本気かわからないし……。
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