425:
継承権が低い上に王女である有栖の場合は、婚約をしたときにもそこまで大々的な公的イベントは無かった。
だけれど、流石に王太子となる現在継承権第1位、しかもライバルがいない我が義兄ともなれば違う。
でっけーホテルを貸し切っての報道祭りだ。
まあ、俺がそこまでその手の宣伝行為に慣れていなくて嫌がったって言うのもあるけれど、その差は凄い。
何より、その義兄様が自分の婚約者を自慢したくて自慢したくてしょうがないもんだから……。
しかも、何があったのか樹里ちゃんの方も一気に乗り気になったようで、会場に入る前に甘酸っぱくもラブラブな感じになっていた。
……ところで、「ぺぺぺぺ」って何……?
『2人の馴れ初めについてお聞かせください!』
『ふむ……義弟と入った飲食店で彼女が働いていたのだ。学園に通いながらも、自立するための資金を稼いでいたらしい。その姿に心を打たれた……とでも言っておこうか』
質問されるごとに、王子がペラペラと樹里ちゃんについて答えていく。
大体のろけなので、樹里ちゃんはどんどん赤くなっていくけれど、机の下で王子と手を握り合っているので耐えられているようだ。
あ、そのせいで顔が赤い可能性もあるか。
因みに、手をつなぎ合っているのは報道席からもなんとなくわかるので、今夜のニュースで思いっきり報道される事だろう。
『先日の桜花祭の話をお聞かせください!映像を見ていた国民全員が樹里様の活躍に度肝を抜かれました!あの強さの秘訣は、ずばりなんなのでしょうか!?特殊な訓練でも行っているのですか!?』
俺んちに泊まってゲームしたんだよ。
『えっと……友人から王女が危ないと聞き、無我夢中で駆け付けて行動した結果だと思います。元々魔物と戦う事もあり、それなりの強さだった自覚はありましたが、あのような動きが何故できたのか、自分自身でもわかりません……』
『なるほど!それはつまり、王族への忠誠心故、ということだと!?』
『忠誠心……どうでしょう?ただ、今冷静になって考えるなら、大切な男性の大切な人を守らなければ……そう思ったからかもしれません』
終いには、樹里ちゃんまでのろけ始めたもんだから、報道陣もノリノリで2人に質問していく。
桜花祭は、結局引き分けという事になった。
まあ、ぶっちゃけ勝敗に関しては皆そこまで重要視していないイベントだし、変な考えを起こしていない者たちは、それぞれそこそこ活躍できたようなので、中々好評だったようだ。
中でも、やっぱりトラブル発生後の樹里ちゃんの活躍が最も人気があり、トラブル自体の話題性も相まって、視聴率が70%を超える異例の事態に。
『瞬雷』樹里・ガーネットの名は、一躍全国区となった。
なんで瞬雷なのかと思ったら、途中で何度か雷が落ちていたのと、樹里ちゃんの動きが物凄く速くて瞬間移動しているように見えたかららしい
雷って……俺がやったせいか……?
もっとボルケーノ撃ちまくってたら、火山雷とかになってたんだろうか?
アレ、見た目はカッコいいよね。
この世の終わり感がすごい。
「うぅ……あの娘は私が育てたんですよ……!」
「水野ちゃん、そんなキャラだったの?」
「キャラとか知りません……!もう……本当に立派になって……」
会場の脇の方で、俺の隣にいるのは水野ちゃん。
樹里ちゃんの婚約者枠兼、先日の桜花祭で樹里ちゃんに的確な指示を出しまくった事で、王家から直々に今日の婚約発表会と、その後のパーティに参加するよう打診を受けたらしい。
「友人の為ならば喜んで!」って言ってやって来たけれど、これ、どういう考えなんだろう?
王妃になる可能性の高い樹里ちゃん相手だからこそこれなのかなって気もしていたんだが、どうにもこれ本気で友達だからやって来ましたって思ってそうなんだよなぁ……。
なにせ、スマホに登録された連絡先2件目が樹里ちゃんらしいし……。
「さて、俺はちょっと用事を済ませに行くかな」
「え?この後は、皆でゲーム会じゃないんですか?」
「この後は、パーティだよ?」
「パーティって、ゲームの事じゃ……?」
「……パーティは、パーティだよ?カートでもテニスでもなく」
この娘、なんでこのタイミングでこんな絶望の表情になれるんだ?
あの氷の美少女感はどうした?
さんぽだと思って車に乗ったら行き先が病院だった犬みたいな感じになってんぞ?
「……ま、まあ、友人が2人もいるので、今の私はパーティも怖くありませんが?」
「いや、だから、俺は用事あってもう抜けるし、主役の樹里ちゃんは構ってる暇ないだろうから……」
「そんなぁ!?」
軽く泣き出した水野さんをパーティ参加者である有栖やリンゼ、そして一応教会の派閥で参加する聖羅たちに任せて俺は会場を後にする。
会長と理衣?
まだ桜花祭の後始末で忙しくしてるよ……ごめんなさい……。
行き先は、ホテルの屋上のヘリポート。
何もないだだっ広いその場所の真ん中に、1人のメイドが立っている。
「待たせたな。じゃあ、早速行くか」
「いいよますたぁ!二人っきりだね!」
「ワシもいるんじゃが?」
「今すぐ時計のダイヤに引っ込んで下さい」
「大試とワシで対応違い過ぎやせんか!?」
ワイワイと騒ぐ2人と一緒に立つと、俺達を包むように光の筒が降りてくる。
次の瞬間には、イチゴの私物であるデタラメ性能の飛行機の中だった。
「いやぁ、相変わらずこの機体の迷彩はすごいなぁ。まったくわからないわ」
「そうじゃなぁ」
「でしょ?イチゴが本気で世界から逃げるために作った飛行機だもん!」
「逃走用か……」
嘗て世界中を恐怖させたAIの操る飛行機が飛び立つ。
目指すは、異国の土地。
前世でも行ったことが無いドイツだ。
この世界のドイツってどんな国なんだろうなぁ……?
やっぱり、ゲームはお仕事シミュレーションが人気で、世界で最もTS主人公のマンガが売れる国なんだろうか?
楽しみだなぁ……。
相手の出方次第では、大暴れになるけれど……。
感想、評価よろしくお願いします。




