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目にも止まらぬ剣旋で、自らの弟をも斬る女傑。
その光景を会場中のカメラが撮影していた。
後に今回の事件が、斬られた男子生徒が王女を害そうと起こした物であり、それを姉が正義を持って誅したというストーリーで大衆に広められた。
女子生徒には、国王陛下より直々に『瞬雷』の二つ名が贈られたという。
……そんな予定になりました。
観客席から『瞬雷!瞬雷!瞬雷!』と、いつの間にか統一されたらしい異名コールが響いてくるので……。
いやぁ、でも、流石に樹里ちゃんがあそこまでやれるとは思ってなかったなぁ。
桜花祭中に活躍できるように、更に、不測の事態が起きた場合でも対処できるようにと、我が家で一晩過ごしてもらった事で100レベルに達した彼女は、常人ではそうそう到達できない領域にいる。
元々主人公キャラがモデルなのもあって、そりゃもうカッコいい技が一杯だ。
もっとも、本人は、自分が100レベルに達している自覚がないみたいだけれども。
自覚がないので、無遠慮にその凄味をまき散らすせいで、1年の精鋭たちが震えあがっていると水野ちゃんがメッセで言っていた。
因みに、水野ちゃんも100レベルに到達している。
何故なら、樹里ちゃんと一緒にお泊り会を行ったからだ。
パジャマパーティーと題して。
ふんすふんすと気合を入れて参加してきた水野ちゃんと、何故そんな事になっているのか理解が追いついていない樹里ちゃんの対比がすごかったなぁ……。
そして、その時にゲームを一緒にやったら、それ以降事あるごとにゲームしようゲームしようと誘ってくるようになったわけだ。
今後、彼女が友達との距離感を学ぶことを祈ってる……。
「さて、お前をどうするかだんだけど……」
「俺の腕が!あああ!痛いいいい!?なんで!?どうしてぇ!?」
7主人公君……両腕をさいころステーキにされた彼は、追い打ちで脚の健も切り裂かれた上で姉から放置されている。
というのも、他にも何人か有栖に向かってこの状況で武器を持って近寄ろうとした奴らがいたもんだから、そっちに樹里ちゃんが言っちゃったからだ。
まあ、言うまでも無く7主人公君のお仲間なんだけれど……。
「うーん……焼いて塞ぐか」
前世の世界では、傷口からの大量出血を止めるために焼いて塞ぐという方法が結構有名だった。
映画のせいだけれども。
リアルでやると、その時血が止まったとしても、そこから火傷のせいで壊死して死ぬので、絶対にやらないようにと言われていた。
だけども、この世界では話が変わる。
壊死しないようにポーションやら回復魔法をかけてやれば、命は助かるわけだ。
動かれても困るから、今はそれで対処しよう。
「ぎぎぎぎぎぎぎあああああああああ!?」
もちろん、死ぬほど痛いと思うけど。
「大試さん!」
その声に振り向くと、有栖達が拠点から出て来ていた。
本来であれば、危ない所に出てくるなと注意する方が良いのかもしれないけれど、まあ聖羅が結界を張っているから大丈夫だろう。
それに、樹里ちゃんの活躍を王女が直接見たというのも大きいかもしれない。
「樹里・ガーネットの活躍で、このように賊は全て無力化されております」
「まぁ!これは樹里がやったのですか!?」
周りで有栖と一緒に戦った女子たちに、有栖が樹里ちゃんの活躍を知り、感動していることを見せる。
樹里ちゃんの名声も上がりやすいし、それを指示した水野ちゃんの株も上がる。
いやぁ、イージーモードだなぁ。
この事態の収拾を付けないといけない公安とかのおっさんたちには悪いが。
「皆さん!賊の事は、私の婚約者である犀果さんと、あそこで今も戦っている樹里さんに任せましょう!私たちは、観客の皆さんに万が一の事が無いよう、観客席の方へ向かいますよ!会長たちと協力し、被害者を出さないようにするのです!」
「「「「「はい!有栖様!」」」」」
そんな感じで、うまーくこの場から女子たちを逃がしてくれた有栖に感謝しつつ、軒並み腕を切り刻まれて、行動できなくなっているアホ共を引きずりながら回収していく。
変な事考えなければ、こんな目にも合わなかっただろうになぁ……。
「なんでぇ……どうしてだぁ……」
「僕は……この国のために……」
「皆のために勝たないといけなかったのに……」
痛みがマヒしてきたのか、口々に嘆く彼ら。
まあ、思想には色々あるし、どれが一概に正しいなんて言うつもりも無いけれど、強いてこいつらのダメな点を上げるとするなら、単純に弱かった事だろうなぁ。
レベル上げも大してやらないくせに、武力で何とかしようとするなよと。
不意打ちだって、最低限の力量が無いと達成しえないんだから。
そうして、全員を7主人公君の周りに集めた。
「なぁ、お前らこれから自分がどうなるか理解しているか?」
「……は……?」
「どうって……」
「国家のトップの命を狙ったんだぞ?最低でも終身刑、ほぼ確実に死刑だぞ?」
「……そんな……」
「だって……皆が……」
「日本を……良くしようと……」
「お前たちは、自分たちの行動に賭けた。そして負けた。なら、チップは支払わないといけない。それだけの話だ。善悪は関係ない」
「いやだ……だって……」
「ダメだ。全員からちゃんと回収するから」
ドイツにも1人いるから、一緒にな。
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