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「お待たせしました」
「お疲れ。大将って大変だろ?」
「そうでもありませんよ?一番の問題が勝手に解消されましたから」
「あー」
「……本当に、カレー屋なんですね」
スパイ行為をした次の日の放課後、駅前のカレー屋で女の子と待ち合わせ。
中々に青春だな!
まあ、これからコソコソと裏取引をするつもりなので、青春感はないけれども。
「それで、お話とは?」
昨日、樹里ちゃんに大将ちゃんへと渡すよう頼んだメモには、今日のこの時間に、この店で落ち合おうということだけを書いておいた。
そんな怪しい誘いに、まさか女の子一人で来るとは思ってなかったなぁ……。
取り巻きとか何人か連れてくるかとばかり……。
大して親しくもない女の子と2人で密会とか緊張する……。
「若林樹里に、部隊を一つ任せて欲しい」
「何故ですか?」
「平民なのに学園に入学早々活躍したっていう実績が欲しくてね」
「……理由は、王子関連ですか?」
「ご想像にお任せするよ」
少し考え込んでいるような素振りを見せてはいるけれど、これはほとんど決断してここに来ている気がするなぁこの娘。
名前なんだっけ……?
「その要求を飲んだ場合、こちらには何かメリットがあるのですか?」
「そうだなぁ……。こっちの兵の配置を8割ほど教えてあげるってのはどう?」
「8割!?……残りの2割で罠を仕掛けるつもりでしょうか?」
「いや、正直に言うと、罠なんて無くても俺が正面から突っ込めば大体終わるからなぁ……」
「舐められたものですね……」
「キミは強そうだけど、それでも俺や俺の家族には太刀打ちできないと思うよ。ましてや、足手まといだらけのこの集団戦で、尚且つキミは指揮官だ。存分に戦えるわけじゃない以上、勝つのが厳しいってことくらい自覚しているだろ?」
「……」
苦々しい表情でこちらを睨む大将ちゃん。
動きからすると、間違いなく1年生の中で最も修練を積んでいる者の一人だろう。
だけど、それでも俺達には追いつけない。
なんでかって?
単純に、レベルが100行ってないからさ……。
「でも桜花祭なんて、本来1年生が勝つことのほうが珍しいんだから、負けること自体は問題じゃない。でも、戦う以上は戦果を上げたい。だろ?」
「……まあ、勝つことを諦めるつもりはありませんが」
「それならそれで、こっちの配置がある程度わかるんだから有利になれるんじゃないか?」
「そうかも知れませんが……しかし……」
俺の狙いがわからなくて、餌に飛びつきたいのを我慢している気がする。
別にこっちも彼女にまで秘密にしようと思っているわけじゃないので、教えちゃうか。
「こちらから教える生徒たちの配置だけれど、教える生徒は、ちょっと懲らしめたい奴らが入ってる部隊なんだよ」
「懲らしめる……?」
訝しげな表情になる大将ちゃん。
まあ、味方を懲らしめたいとか何いってんだって感じるかもしれんか。
そっちにも懲らしめたくなるようなやつ居ただろと言いたくなるけど。
「インターネット掲示板とかSNSで、好き放題有栖の事を悪く言っている奴らだな」
「……どこからそんな情報を得たのですか?
「電子の海に漂う情報で、俺の部下に探せないものはないんだ」
かつて古代文明を大混乱に陥れたほどの能力を持つAIメイドたちがいるんでね……。
そういう奴らを個人特定したら、結構な人数が学園に在籍していて、その上桜花祭で有栖を裏切った奴らだったわけだ。
生贄にするのにちょうどいいだろう?
「というわけで、こっちは邪魔な味方を始末したい。そっちは、手軽に戦果を上げられる。お互い損はないだろ?」
「そんな取引をせず、正々堂々戦う……という判断を私がするとしたら、どうしますか?」
「その時はその時だな。でも、大将を任せられる程の人間が、この程度の取引で臆してたらダメなんじゃないかとは思うけれどね」
「嫌な言い方をしますね。先輩、友達居ないでしょう?」
「………………」
「……ごめんなさい、そこまで本気でショック受けるとは思いませんでした。謝罪します」
「………………」
別に気にしてねぇし……。
「話はわかりました。情報の受け渡しはどう行いますか?」
「互いにスマホで連絡取り合うんじゃダメ?メッセで」
「ではそれで」
連絡先の交換をする俺達。
おお……俺の少ない連絡先が増えた!
「連絡先の登録ってこうするんですね。初めてしました」
「……友達、いないのか?」
「いません……」
なんだこいつ……。
なかなかいい奴じゃねぇか……。
「なにかあったら連絡してくれ。可能な限り力になるから」
「……私に友達がいないと知った瞬間に随分親しげな雰囲気になりましたけれど、別に私は貴方と友だちになるつもりなんてありませんからね?」
「ふっ……構わないさ。だけど、長期休暇の間とか、マトモに会話していないと喋り方忘れるって事だけは教えておくぞ。喋る相手ってのは、重要なんだ……」
「……喋り方って、簡単に忘れますよね……」
…………あれ?なんでこんな暗い雰囲気になってるんだ?
そういう流れじゃなかったよな?
なんで?
「折角飲食店にいるんだから、何か食べないか?実は、貸し切りにしてるんだよ。費用は全部こっち持ちだし、好きなもの頼んでくれ。こんな怪しい誘いに乗ってくれたせめてものお礼だ」
「では、遠慮なくごちそうになります。私には、シェフおすすめの激辛カレーというのを」
「……意外だ」
「何がですか?」
「いや、何となく氷属性の魔術が得意そうなイメージが合ったから、アイスでも頼むのかと……」
その青白く輝く髪や瞳からして、絶対氷か水ってタイプだと思ってたわ。
「アイスも好きですよ?でも、カレー屋でアイスを頼むのもどうかと」
「だからって、激辛とはなぁ」
「もしかして、先輩は辛いものがダメな子供舌なんでしょうか?」
「いい度胸だなてめぇ……!よしわかった!お前がそこまで言うなら俺だって考えがあるぞ!マスター!アイスパフェ1つ!」
「やっぱり辛いのダメなんですね……」
ピリ辛が限界かな……。
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