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 昨日、義兄の王子様が婚約相手を見つけた。

 俺も流石にあんなことになるとは思っていなかったけれど、まあめでたいことだ。

 とはいえ、義兄の事ばかりに気を配っている暇はない。

 俺は俺でやることがあるんだ。


 時は春!

 今年もやってきました桜花祭!

 王立魔法学園にやってきたピッカピカの新入生たちを上級生たちが叩きのめして、上には上がいるという事をその身に刻み込むという実に体育会系のイベント!

 去年は、その王子様が色々やらかしたのもあって、味方は1クラス分にも満たない女の子たちだけ。

 その子達と有栖たちは非情に仲良くなれたので、それはそれで良いことだった。

 けれど、他の奴らは、裏切ったうえで速攻負けるというしょうもない結果に終わったわけだ。

 そいつらだって、別に有栖が嫌いというわけではないらしい。

 ただ、今後の実家や己の身の振り方を考えた場合、有栖ではなく王子に着くほうが懸命だと考えた結果そんな事になったんだ。

 情けないと言えば情けないけれど、彼らも流石に最後の一線は越えなかったというか、裏切った相手である有栖に対しての恨みは特に無いらしい。

 有栖と一緒に戦った女子たち程ではないけれど、まあ良好な関係を築いているように見える。


 だがしかし、そうは言っても彼らも人間。

 情けなく負けた場合には、それを責任転嫁したり、恨む相手が必要なわけだ。

 己の中でそういう負の感情を消化できる者は、そこまで多くない。

 感情とは、なかなかままならないものである。


 つまり何が言いたいかというと、奴らのヘイトは、去年の桜花祭を開始後即終了させた俺へと向けられてんだよ……。

 男子なんて、廊下で俺とすれ違う際に「ちっ!」と聞こえるように舌打ちをしてくるやつまでいる。

 そういう直接的な事をする場合は、俺もこっそり剣でそいつの後頭部に円形脱毛症が発症するように撫でてやるだけで済むんだけど、女子の場合はそうもいかない。

 離れたところでコソコソ俺の事を言っているのが聞こえるんだよなぁ……。


「有栖様に取り入った成り上がりのクズ」

 だの

「イケメンと見ればすぐ斬りかかるサイコパス」

 だの

「あの人、目線にモザイクかけたほうがいいよね……」

 だの言いたい放題である。

 一番ダメージが大きかったのは、「キモイ」だった。

 それ言った女子は、聖羅にアイアンクローされていたが。


 そんな1年を経て、俺達が2年生になってすぐに開催される桜花祭は、こんな感じになっている。


「去年と顔ぶれあんまり変わんねーな……」

「そうですね……」


 隣の有栖も苦笑いだ。

 今年も王族ということで、2〜3年合同チームの総大将は、有栖となっている。

 俺達が集会用に充てがわれた体育館には、俺を除くと女子が40名程だ。

 2〜3年生全員が参加する催しなので、本来はこの何倍もいなくちゃいけないんだけどな……。


「どうせ、『私達は私達でやるので、そちらはそちらでやってください』とか考えているんじゃない?」

「『有栖様に合わせる顔が無いので……』って言っている娘もいたよー?」

「『犀果と一緒に戦いたくないしー』って言ってた娘には、アイアンクローしておいた」

「そんな事せんでいいぞ聖羅」


 まあ、それぞれ色々な思惑はあるんだろう。

 参加は絶対だけれど、別にどこでどう戦うかは決められていない。

 ステージ内にさえ入れば単位はもらえるらしいからなこのイベント。

 自分は自分で戦って、そこで活躍すれば十分評価も得られるだろって思っているやつも多いのかもしれない。

 それによって、指揮官としての素養に疑問を持たれるであろう有栖にとっては溜まったものではないが。


「まあ、私は卒業後王家から離れるので、別につなぎを作る必要もないと考えられたのでしょう」


 有栖自身は、特に悲しんでいるわけではない様子。

 ならいいか……。


「この場面で総大将の元にやってこない者など貴族の風上にも置けませんわ!ちょっとブチのめして差し上げましてよ!」


 何故か一番怒っているのが、金髪縦ロールの金持さん。

 俺は知らなかったけれど、去年も有栖チームで参戦していたらしい。

 ま……まあ、あの頃はまだまだ女子の顔とか全然把握できていなかったし……。

 ましてや、クラスも違う娘とか全然知らんし……。

 金髪縦ロールすら目に入っていない程とは思っていなかったけれど……。

 そんなヒートアップしている金持さんへと聖羅が近づき、肩に手を乗せる。


「絢萌、落ち着いて。確かに人数は少ないけれど、有栖は絶対勝つ」

「……わ、わかりましたわ」


 絶対の自信を感じさせるそのオーラに、金持さんがタジっとしてしまった。

 圧強いなぁ……。


「だって、こっちには大試がいるから」


 でもな金持さん、有栖があんな感じの雰囲気になってたら、大体俺に丸投げするタイミングだからな?

 俺ならやってくれると本気で信じてくれているのは嬉しいけれど、結構なプレッシャーなんだぜ?

 ……めっちゃうれしいけど……生きててよかったって思えるけど……えへへ……。


「まあ、聖羅のいつものやつはおいておくとして、今年はどうするのよ?また去年みたいに、籠城作戦にするの?」

「去年練習はしたけど、結局すぐ終わっちゃったから実戦ではつかってないんだよね」


 リンゼと委員長が話を進める。

 聖羅のノリに合わせると、いつまで経っても話は進まないからな……。

 どうやら他の女子もその辺りは慣れたものらしい。

 流石は、仲良しグループ状態になるまで余分な人員を削ぎ落とされたメンバーだけある。

 この中で馴染んでないとしたら、去年いなかったけれど今年はいるという数人と、俺くらいなもんだろう。

 皆女子だ。


 俺以外の男子?

 いねぇなぁ……。

 疎外感がすごい……。

 そんなに後頭部にミステリーサークル作られたのが気に障ったんだろうか……?


「そう……ですね。やはり今年も少数ですし、私達は本拠点で籠城する事にしましょう!今ここにいない味方の方々も本番では各々戦って下さるでしょうし、このメンバーで作戦を立てるのであれば、それが一番かと!」


 去年と違って、今年は有栖も自信に満ちている。

 着いてくるものが少なくても、信頼できる味方がいるという確かな事実がそうさせているんだろう。

 良いことだ。


「というわけで、今年も大使さんは遊撃として自由に動いて下さい!」


 そして俺は、女の子チームからは外されました。






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