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413:

「……あー、うん、わかった。とりあえず頭上げてもらえる?」

「そうはいきません!」

「いや、女の子に土下座させてるほうが俺にとって辛いから」

「申し訳ありませんでした!」


 眼の前で跳ね上がるように土下座から直立姿勢へとなった私は、ここから生き残る手段を考える。

 魔王がいるカレー屋に、大暴れしている成り上がり貴族と王子様が一緒にやってくる?

 しかも、前日非礼を行った弟を持つ私のところに……?

 そんな偶然ある?

 あるわけがない……。

 これはきっと、私を処しに来たんだ……!

 もうお嬢様キャラなんて意識している場合じゃない!

 土下座!をしたら怒られたからとにかく謝る!それしかない!


「弟が大変失礼をしました!こちらでも注意をしましたが、全く反省していないようなので、この状況で謝罪はやぶ蛇になるかと思い、敢えて謝罪にも向かいませんでした!申し訳ございません!どうかお許しください!何でもしますから!」


 プライド?

 そんなもの、生きていないと持っていられないから!

 1回死んだ私にはわかる!

 生きているってことは、それだけで素晴らしいことなの!


「女の子が何でもするとか言うなよ……。弟がってことは、キミは昨日有栖にあーだこーだ言ってた新入生のお姉さんってこと?」

「はい!双子の姉の若林樹里と申します!」

「そうなのか。アイツは、若林っていうのか……」

「はい!若林竜輝と言います!びっくりするくらいの馬鹿です!正直もう私には制御できません!」

「お……おう……」


 心做しか、犀果さんの目が、可哀想なものを見る目になっている気がする。

 少しでも私の生存率が上がるなら、幾らでも蔑んで下さい!


「ふむ、話は聞いている。私も、お前の弟とやらには殺意が湧いたぞ」


 そうだった!

 有栖様は王女様!

 つまり、王子様の妹君なんだった!

 どうしよう!?

 やっぱり詰んでる!?


「だが……」


 だけど、第2王子様が私に向ける目に害意は無さそうに見える……?


「貴族であれば、その血族の愚行について責任を取らされる事もあるかもしれんが、お前は、ただの平民。両親ならばともかく、姉だというだけでお前が責任を取る必要はないだろう」

「……………………………………あ、えと…………そう………………ですかね……?」

「ああ」


 あれ?

 私、処されない?

 本当に……?

 ふへぇ……。


「何か勘違いしているみたいだけどさ、俺達は近況報告と、今度の桜花祭で王族代表として挨拶に来る王子と、どんな内容のスピーチにするかっていう話をしようと思ってきただけだぞ?あのバカに姉がいるっていうのも、今初めてしったわ」

「私は、家族構成やその性質も調べたが、姉……樹里と言ったか?お前に責任を取らせるつもりなどないぞ」

「あ……ありがとうございます!ありがとうございます!」


 涙があふれる。

 なんと寛大な処置だろうか?

 これが貴族に成り上がった上に大活躍する方と、そんな人を従えている王族の器の大きさなの……?

 うちの家族とは大違い……。

 あーほんと……この人たちが家族だったら良かったのに……。

 妹になればでろっでろに甘やかしてくれそうだし……。


「それにしても、若林家といえば、林業で栄えた家だろう?何故そこの娘が、アルバイトなどしているのだ?」

「あ、えと……」


 私は、若林家に起きた問題と、そして最近の出来事などを包み隠さず話した。

 もちろん、自分が転生者であるということは伝えずに。

 この世界は、確かにゲームをモデルにしているんだろうけれど、そこに存在している人たちは、本物の人間だ。

「この世界は、人気ゲームをモデルに作られた世界なんです!」とか言っても、白い目で見られるだけでメリットもないだろうし……。


「ふむ、中々大変なようだな」

「いえ……そんな……」

「王子、何か割の良い仕事紹介してあげられないんですか?学生のうちは、賄いもあるここのバイトでも良いかもですけれど、折角平民で魔法学園に入れるほどの人材なんですし、何かいい仕事紹介してあげてくださいよ」

「仕事か……うーむ……」


 なんだろう……?

 この人たちが優しすぎて怖い……。

 弟があれだけやらかしたというのに、確かに私本人になにかされたわけではないとはいえ、仕事の紹介までしてくれるなんて……。

 あーほんと……「妹になりたい……」


「む?」

「ん?」

「あっ」


 しまったああああああああああああ!?

 声に出ちゃってた!?

 どうしよう!?

 かなり痛いことを口走っちゃった気がする!


「ふむ、妹か……」


 だけど、何故か王子は思案顔。

 なんで?

 本当になんで?

 処す内容を考えているというわけでも無さそうだし……。


「犀果、養女を取るつもりはないか?」

「話題がワープしましたね?いえ、まだ夫婦にもなっていない状態で養女は無理です」

「では、養女をとれそうな知り合いに心当たりは?」

「うーん……あ、まる義兄さんとかどうかな……」

「あそこは、まだ新婚だっただろう?」

「俺が実験に付き合えば喜んで引き受けてくれると思いますよ。どうせ、名目上の養女なんでしょう?」

「まあそうだな」


 一体何の話をしているんだろう?

 私は、完全においてかれている。


「樹里よ」

「は、はい!」


 っと思っていたら、いきなり話を振られて飛び上がってしまった!


「私の婚約者にならないか?」

「「は?」」


 あれ?この王子様今なんて言った?

 私には、よく理解できなかった。

 私だけじゃなく、犀果さんも理解できなかったみたい。

 首が90度くらい傾いてる。

 すごいなこの人……ここまで首の傾きだけで困惑を表せるんだ……。


「いや……王子、俺は、てっきりこの娘を家族から引き離して、その上で妹役になってもらうくらいの話かと思っていたんですけれど……」


 あ、犀果さんはそういう感じのイメージしてたんだ?

 確かに、第2王子様はシスコンだって噂だし、妹の有栖様はもう婚約されているのだから、その代わりを用意することで心を慰めるという考えはわかる。

 じゃあ、どうして王子は、私を婚約者にしようとか言い出したんだろう?

 わからない。

 いくら考えてもわからない。

 えーっと……婚約者ってなんだっけ?


「犀果、私は最近気がついたのだ」

「何にです?」

「妹とは、結婚できないということに」

「あー……はい、そうですね」


 何いってんだこの人?


「だから、婚約者を決めることにした」

「王子様が婚約者を募集し始めたって聞いたら、貴族の娘たちは挙ってお見合い写真送ってきそうですね」

「そうだ。そして彼女たちは、揃って私のことを『兄』として扱おうとする。それが、私が喜ぶことであろうとな」

「違うんですか?」

「違うな。私が求めているのは、真実の妹性。養殖された妹など、有栖のいない王城くらい空虚だぞ?」

「言ってることかなりアレですよ王子」

「だが、先程私は、確かにこの娘に感じたのだ。純粋な妹性を」

「えぇ……?」

「疑うのであれば、試してみるか?」

「試す?」

「ああ。樹里よ」

「はい!?」

「今ここで、私のことを兄と呼んでみせよ。兄を表す呼び方であればとりあえず何でも構わん」


 どうしよう?

 何もかも意味不明だけれど、命じられた以上はやらないと。


「お兄ちゃん?」

「……うーん」

「ふむ……」

「あの?」


 王子様も犀果さんも、何故か悩みだした。

 なんなのこの状況?


「キミの場合、もっとぴったりな兄がありそうなんだよなぁ」

「ぴったりな兄……?」

「うむ」


 えぇ?


「あ、これなんてどうだろう?樹里さん、ちょっと耳貸して」

「はい?」


 犀果さんが耳元でアドバイスしてくれた。

 だけれど、普段使わないような言葉だし、そもそもいきなり男の人を兄扱いをするのはちょっと恥ずかしい。

 それでも、無理を通してでも今はやる時……。


「……あ、兄君様……」


 きっと今の私は、顔を真赤にしていることだろう。

 体全体が、流れるようにモジモジしてしまう。

 恥ずかしい……これくらいなら、裸になったほうがまだ……いや、落ち着け私。

 兄呼びのほうが絶対楽だから。


 パチーンッ


 私がセリフを言い終えると、犀果さんと王子様が、力強くハイタッチした。


「これ、ですよね?」

「良い腕だな犀果」

「いえいえ……。俺としても、ここまでの妹力を発揮してくれるとは思いませんでしたよ」

「ああ。『昔から仲が良かった良家の兄妹だったが、跡目争いや思春期特有の気持ちのせいで、暫く没交渉になっていたけれど、寂しさのあまり、久しぶりに勇気を持って、昔の呼び方で兄に話しかけた健気な妹』といったところか……」

「あー、それいいですね」


 この人たち、さっきから本当に何を言っているのかわからないよ?

 何の話だっけ?

 私の仕事のことだった気がするけれど……。


「というわけで、平民のままでは色々と障りもあるのでな。一度貴族の養女になってから、改めて婚約ということでどうだろうか?」

「平民出の女性を嫁にする王子……。報道の仕方によっては、しっかり美談にもできそうですね」

「たしかにな。樹里、お前もそれでいいか?」

「あ、はい」

「よし、話は纏まった。今日はめでたい日だ。私が奢ってやろう。好きなものを注文するが良い」

「じゃあ俺は、王風カレーカツドリアで」

「私は、グラブジャムンをお願いします」

「ふむ、では注文を頼む!」

「……あ、私が店員でした!少々お待ちください!」


 よくわからないけれど、どうやら私は危機を乗り切ったらしい!

 やった!よくやったぞ私!

 あと、グラブジャムンはすごく甘くて美味しかったです!





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こんばんは。 グラブジャムンを「甘くて美味しかった」だけで済ませられるとは、かなりの甘い物好きなのかな樹里さん?
養殖の妹は真性の妹に勝てない 世界の真理だ
そっちかー!そっちにいったかー!
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