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約一ヶ月ぶりに学園の廃教会のテレポートゲートにやってきた。
会長や理衣の仕事をうだうだ言いながら手伝ったり、妹に会いに実家に帰ったりするつもりだった春休みは、いつの間にかチェストとアイドルのマスターをすることで終わっちゃったけれど、まあ俺なりに頑張ったと言える結果だっただろう。
そうだ!そう思う事にした!
だから、この廃教会から一歩出たら、そこからは心機一転元気なパーフェクト大試に戻るぞ!
……あ、テレポートゲートに設置されてるベッドいいなぁ……。
ここでこのまま寝てしまいたい……。
っは!?おちつけ!気合で元気になれ!
聖羅とリンゼに両腕を引っ張られるように廃教会から出た俺は、クラス発表がされているはずの学園正面玄関へと向かった。
会長と理衣は、新入生への挨拶の準備があるとかで、すでに学園内で仕事中らしい。
有栖は有栖で、王族として新学期初めは学園での色々な役割があるとかで忙しいという話だったけれど、せめてクラス発表は一緒に見ようということで、張り出される特設掲示板前で待ち合わせという約束になっている。
「俺は、何組かなー?」
「大試は、絶対1組。あれだけ頑張っているのに、1組じゃないほうがおかしい」
「いや、魔術の試験は、ほぼ全て0点なんだぞ?逆になんで1年の時に1組に配置されたのかのほうがわかんないわ」
やっぱり、超問題児扱いの俺を抑えられるメンバーが1組に週痛していたからだろうか?
ひどい話だ。
「一人の貴族として結果を残している者のほうが少ないのに、あれだけ貢献してるアンタを1組から降格されたら、それこそ大問題になるわよ」
「そうかなぁ……?魔法学園で魔術扱えない奴なんてもっと扱い悪くても良さそうな気が……」
「剣を使えば、並みの魔術師よりもよっぽど強力な魔術のような攻撃ができるんだからいいのよ」
なら……まあいいか。
俺としても、聖羅たちと一緒の教室で授業を受けられるのは嬉しいし。
知り合いもいない教室にぶち込まれたら、おそらく教室入ってから放課後になるまで、一言も声を発すること無く終わる毎日になるだろう……。
あ、前世の中学時代までと一緒なんで、全く無理というわけではないんですけどもね?
流石に便所飯なんてしたことないし。
昼休みに逃げ込む先は、空き教室とか、外の燃料タンクの裏あたりが狙い目だゾ。
正面玄関前へと辿り着くと、すでに人がたくさん集まっていた。
全学年ここで発表されるので、乗り遅れると花火大会並みの混雑に巻き込まれることになるようだ。
もっとも、教室の方にもクラス表が張り出されているから、そっちで確認することも可能なんだけどもね。
俺達は、待ち合わせをしているからその方法を取れないだけで。
ごった返す人垣から少し離れて、有栖を探す。
待ち合わせしている状態で、あの人口密集率1000%な場所の中にいる可能性は低そうだと考えたんだけれど、そうにも見当たらない。
有栖は目立つから、すぐに見つかると思ったんだけれどなぁ……。
「いないなぁ」
「そうだね」
「まだ来ていないんじゃないの?時間よりちょっと早いわよ」
「かもな。ちょっと待つか」
「〜〜〜〜王〜〜〜さい〜〜〜!」
俺達が呑気に待ちの態勢に入ろうとした時に、すこし人垣の中から争うような声が聞こえることに気がついた。
人の壁で見えないけれど、あの向こう側で何かトラブルが起きているらしい。
俺が生徒会の人間だったら、とめにいかないといけない所だったぜ……。
会長たち、大変だよなぁ……。
しかーし!俺は無関係なので、このまま見にまわ……。
「ん?」
「どうしたの?」
「いや、なんか、有栖の声があっちから聞こえた気がして……」
「……ホントだ」
「確かに聞こえるわね」
言い争う声の片方が、とても聞き慣れた声であることに気がついた俺は、無関係な第三者でいる事ができなくなった。
とりあえず、状況を把握するために、その場で垂直にジャンプしてみる。
少し高いところから見た人垣の向こう側には、有栖が立っていた。
その有栖に相対するように、男子生徒が何かを怒鳴っていた。
見覚えはない奴だけど……いいや。
とにかく、有栖の助けに入ろう。
そう決めた俺は、今度は有栖のそばへと向かうようにジャンプする。
人垣を飛び越えて、ヒーロー着地を決めると、眼の前にはびっくりした顔の有栖がいた。
「大試さん!?」
「おはよう有栖」
「え……はい!おはようございます!」
「それで、これは何がどうなってるんだ?」
「それが……」
有栖が、苦み走った表情で言い淀む。
この感じだと、よっぽどめんどくさい内容で絡まれているようだ。
俺は振り返り、大声を出していた生徒に視線を向ける。
「で?何が有ったんだ?君からも説明が聞きたいんだけど?」
目を合わせたことではっきりわかった。
この男子生徒、俺のことが大嫌い……というより、すでに憎んでいるような状態みたいだ。
すごい睨みつけてきてるもん。
何こいつ?
「犀果大試だな?」
「違うぞ。人違いだ。ってことでもう行くからな」
「待て!ふざけるな!」
いきなり睨みつけたうえでフルネームで呼び捨てしてきたやつに対する礼儀なんてこんなもんで十分だろうと、そのままその場を立ち去ろうとしたんだけれど、肩を掴まれて止められてしまった。
この手、切り落としていいかな?
「ふざけるな……だと?」
「そうだ!俺は今、そこの王女様に問いただしていたんだ!魔術の成績が壊滅的なアンタが1組を維持できるのはおかしい!これは、王家や貴族がクラス分けに介入しているからなんじゃないかってな!」
いや、そりゃ高位貴族はわりと1組に集めて隔離するような扱いにすることも多いんだろうけれど、俺は別に高位貴族ではないし、1年1組になったときには、それこそ父親が爵位もらってすぐっていう貴族まがい状態だったから、変にクラス分けに介入できるほどの権力なんてなかったはずだけれど……?
当時は、まだ有栖たちと婚約もしてなかったし、介入されるような立場でもなかったんだよなぁ。
強いて俺が忖度されたとしたら、襟につけてる王家の紋章の効果くらいしか思い浮かばないな。
そういや、去年の今頃もこれが原因で面倒なやつに絡まれたんだよなぁ……。
そう考えると、このマークは面倒なことばかり引き起こしている気がする。
これが着いているメリットが、有栖のお気に入り表明位しかないもん。
それを計算にいれると……10対0でメリットが勝ってるな。
美少女に好意を示されることに比べたら、面倒な奴らがどれだけ絡んでこようと些事でしか無い。
考えるまでもなかったわ。
「証拠はあるのか?」
「アンタが1組にいる事自体が証拠だ!」
「話にならないな。決定的な証拠がでてきたら、その時に続きを話そうじゃないか。じゃあ俺達はこれで!」
「あっ……」
有栖の手を許可も得ずに掴み引っ張る。
人垣を力ずくで開きながら進もうとしたけれど、その時に後ろから聞こえた言葉のせいで脚は止まってしまった。
「皆見たか!?これが貴族や王族だ!平民を食い物にし、我が物顔で学園にまで影響を及ぼす!王女ですらこれだ!この国の貴族政治は、完全に腐っている!さぁ、声を上げよう!特権階級は必要ない!国のトップは、国民全員で選挙を行って決めるべきなんだ!」
……あ、もしかしてこいつって、噂の7の主人公さんですか……?
イケメンですねぇ……。
髪が長いからシェーバーで刈り取ってやるか
バリカンを使う権利すら与えねぇ。
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