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「………………………おはよう…………」
「お早う御座います、最果様」
「大試、おはよう」
「おはよう………聖羅………」
「アンタ、どんだけダメージ受けてんのよ……」
「リンゼもいたのか……おはよう……」
「はいはい、おはよう」
なんと爽やかな朝だろうか?
まるで、俺達の新学期を祝福しているかのようじゃないか。
そう、今日は、始業式なのである。
ある……ある……ある……。
「明日が休みだと思っていたのに、実は休みが終わりだった時の精神的ダメージは、とてもつらい……」
「アンタって、あれだけでたらめな戦い方する割に、しょうもない事でボコボコになるわよね」
しょうもなくない!
今日が土曜日だと思ってたら、あの心理学上でも割と重要なテーマになることもある日曜夕方の国民的アニメが始まったことに気がついたようなもんだ。
心の準備ができていたとしても、明るい話題を振りまく正直者が出てくるだけで、前世の俺の心は乱れたものだ。
それをふいうち気味に喰らえばどうなるか?
こうなんだよ……。
「大試!元気だして!」
「シオリは元気だなぁ……」
「うん!ご飯美味しい!」
「そっかぁ……」
元気な人を見ると、俺も元気が……あんまでねぇな……。
とりあえず目玉焼きとウインナーを白いご飯に乗せてもりもり食べてるシオリの頭を撫でてから自分の席に座る。
美味しそうなのに、ごきげんになれない朝食だ……。
「起きてきたなら、今のうちに話しておきたいことがあるんだけれど。そのために昨日から泊まってるんだし」
「なんだ……?」
「アタシたちが2年生になったってことは、新しく1年生が入ってくるわけでしょ?」
「そうだな……」
去年の3年生達は、ご卒業していったんだろう。
第2王子様とも度々会話しているからそんな印象ないけれど、あの人も卒業したはずだ。
そして、新しい顔ぶれが追加されると。
さてさて、どんな問題児たちが入ってくるのか……。
ゲームをモデルにした世界なんだから、目立つキャラは、とりあえずトラブルを起こすか巻き込まれるものだ。
何も起きないゲームなんて、そんなつまらんものはないだろうから。
つまりさぁ……俺の心を暗くする条件が追加されるってこと……。
「……渋い顔するわねぇ」
「そりゃさぁ……」
「アタシが思うに、今年入学してくるのが確実な人物ってなると、フェアリーファンタジー7の主人公ね」
「せぶん……そんなあるのかあのゲーム……」
「アタシたちがこの世界に転生してからもう15年以上経っているわけだし、その間にアタシが知っているよりもシリーズが出ているかもしれないから、どこまであてになる情報かはわからないけれどね」
情報とは、鮮度が重要なんだ。
どれだけ正確な情報だったとしても、収集してから時間が経てば経つほど正確性は落ちる。
リンゼの前世でゲーマーやってた知識は未だに有用だけれど、あくまで人間状態まで落とされた能力で持てる情報が殆どって状態らしいし、常にイレギュラーはあるものと思って行動しよう。
俺というイレギュラーはもちろんだけれど、色んな作品をごちゃごちゃ1つにまとめているから、どう頑張ったって元作品と同じ流れにはならんだろうさ。
「その7ってどんな内容なんだ?」
「簡単に言うと、人間対人間が多い作品ね。腐った貴族が多くなってきた世界で、平民の主人公が貴族制の廃止をしつつ、人類の意思を統一して、共和制にして平和を目指すってやつ。まあ、作内の状況と全く違うし、どうこの世界に影響していくのか全然わからないんだけれどね」
「へぇ……なんもわからんのか……」
「って言っても、アタシたちより1歳年下ってことは覚えているわ」
「めんどくさそうな内容だよなぁ……。貴族制廃止かぁ……」
戦争案件じゃん。
嫌だなぁ……。
関わり合いになりたくねぇ……。
ぶっちゃけ魔王様とも仲良くなったわけだし、あとは平和に卒業して開拓村に引っ込めればそれでいいんだけどなぁ……。
後輩とか、仲良くなれる自信無いし、ほしいとも思わんし……・
「……よくわからないけれど、わかった」
俺のショボショボ顔と正反対に、キリッとした表情でカットインしてくる聖羅。
カッコいい。
「今やるべきことは、しっかりご飯を食べて、学園に行くこと」
「……ぐぅの音も出ねぇ……」
「あ、アタシもオレンジジュースのおかわり良いかしら?」
「かしこまりました」
胃が受け付けねぇ……。
もたもたと食べ始める俺。
そんな俺の隣で、いつの間にか上品にガツガツと食事していたソフィアさんが、何かの黒幕感がある笑みを浮かべながら、口の横にご飯粒をつけたまま告げる。
「どうせ想像通りに行くこと等無いんじゃ。後はもう覚悟を決めて、腹を満たすことこそ戦士の心得じゃよ」
「俺、いつの間に戦士に?」
「人は、誰でも戦士じゃよ」
「……ご飯粒、ついてますよ」
「ふむ……ほれ、これを使え」
キメ顔のままティッシュを差し出してくる彼女の口元を様々な疑問を頭に浮かべながら拭く。
学園……行きたくねぇ……。
そんな気持ちをなんとか抑えながら、口の周りにご飯粒をつけ始めた聖羅を横目に朝食を胃に詰め込んだ。
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