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『例の騒動から約3週間、テレビ局関係者だけではなく、芸能人の多くも検挙され姿を消してしまいました。そのため、満足に番組を作ることもできず、再放送も……まあ、出演している方々の殆どがアレでしたので無理ということで……』
『CMまで人が出ない物ばかりでしたからね』
『いやぁほんとほんと!だからこそ、今夜は久しぶりにマトモな番組をお送りできるので、私も大興奮なんですよ!』
『そういえば、よく貴方逮捕されませんでしたね?アレだけ女好きアピールしていましたし、真っ先に逮捕されると思ってました』
『……仕事終わったら、誰にも会いたくないし、一言も喋らなくなるんでね……』
『『『『『ハハハハハハ』』』』』
ステージの上で、スーツにグラサンのおっさんと、女子アナウンサーが掛け合いをし、それを見て観客が笑っている。
『ここで笑って』というフリップが見えているけれど、まあそこは御愛嬌。
皆、今日を楽しみにしていたのは事実だろうから。
ここは、国営テレビ局の中にある一番大きなスタジオだ。
大晦日に行われる歌番組の収録など、大々的な催しの際に利用される場所だけれど、俺がやらかしている局員やタレントを根こそぎ処したせいで、小さいスタジオすら使われることもなく、もちろんここも放置されていたらしい。
そこが、今こうして人で溢れているのは何故か?
それは、アイドルのテレビデビューコンサートをやるからだ!
いやぁ……頑張ったぞ俺!
ライバルがいなくなった今がチャンスと、ネットで宣伝しまくったり、街頭ゲリラライブをやってみたりした。
あのデコトラの荷台を改造してな!
更に言うと今回は、更に特殊な試みもしている。
『いやぁ私もねぇ、まさかあの局と共同でこんな番組をやることになるとは思わなかったですよ』
『でしょうね。普通ありえないです』
『じゃあ、何故今回実現したのかと言うと、あちらの局の番組スポンサーと、うちの局のスポンサー……まあ、言っちゃうと王様からのオファーなんだよね!』
『こちらとしても、今ネットで話題になっている方に出演して頂けるということで、渡りに船でもありましたしね』
2局同時に電波をジャックしています。
今残っているテレビ局は、全国放送だと3局だけ。
お茶の間を強制的に席巻してやった。
できれば、全テレビ局でやってみたかったけれど、現在うちのアイドルは2人しかいないから……。
『あちらの番組は、すでに始まっているんだよね?』
『はい、杉沢美須々さんのライブが行われていますね。途中発表だと、視聴率70%になっているらしいですよ』
『そりゃCMがエンドレスで流れるだけの番組よりは見たいよね!』
もう一つのテレビ局では、美須々さんがテレビデビューをしている。
さっきまで俺もそっちにいたんだけれど、2人のデビューをちゃんと見ておかないとなぁと思って、走ってやってきたわけだ。
たぶん明日辺りにネットで、疾走するピーポー君の事が話題になっているだろう。
最悪、怪談になるかもしれない。
短い期間だったけれど、彼女たちが所属してからの短い時間で、持ち歌を5曲も用意したのが幸いした。
それだけあれば、1人でコンサートくらいできるだろうとアイたちに依頼していたんだけれど、それを全部モノにするうちのアイドルたちには脱帽だ。
演奏だけならともかく、アイドルともなればダンスも覚えなければいけない。
そして、何曲もやるとなれば、相応の体力も必要になる。
魔術が扱えるとは言え、それが前提のこの世界のステージアピールだとそこまでアドバンテージにもならない。
だからこそ、軍人並みのトレーニングを乗り切り、見事こうして立派にテレビデビューができるようになったわけだ。
もう一つのテレビ局で行われた美須々さんのコンサートは、素晴らしいものだった。
うちに来たときからかなりのレベルだと思っていたけれど、アイたちによる特訓をこなした彼女のアイドル力は、ゲームの中のアイドルすら凌駕する程にまで達した。
そんな素晴らしいステージを最後に1曲だけ残して俺はこっちに走ってきたんだ。
『あちらの最後の曲と、こちらの最初の曲を同時に行うんですよね?』
『そうです。なんでも、X810プロのアイドルが共通で歌う曲だそうで』
『へぇ!それは楽しみだなぁ!』
そう、他の局で稼いだ視聴者をそのままこっちにも持ってくるんだ。
そのために、2人のテレビデビューを同じ日にした。
別々にデビューさせるけれど、あくまで同じ事務所の仲間であるということもアピールしておく。
こうしておけば、今後新たに事務所に所属したアイドルを売り出すときにも利用できるはず!
さぁ!君のアイドル力を披露する時だぞアイドルちゃん!
『それでは、よろしくお願いします!杉沢美須々さん!そして、仙崎花梨さん!曲名は、「最果Lily」!』
司会の2人が舞台袖へ掃けて、ステージの明かりが落とされる。
数秒後、突然ピンライトがステージに降り注ぐと、そこにはアイドルちゃんが立っていた。
彼女の後ろに設置された大型モニターには、同じように登場した美須々さんが映し出されている。
『『さぁ!いくよ!』』
……いやぁ、あの2人、本当にアイドルになっちゃったなぁ……。
そんな2人を後方キグルミ面で眺める俺は、周りから割と目立っていた。
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