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「ごめんなさい、人がいるって気が付かなかった!」
「ううん!そっか、どんな人が私の仲間になるのかと思ってたけれど、貴方だったんだ?」
「じゃあ、貴方も?」
「うん!アイドル候補生の仙崎花梨!この前は、自己紹介も無しでいなくなっちゃったから、お互い名前もしらなかったよね?」
「そうだったね!私は、杉沢美須々!」
あの日、メイド服でライブに乱入してきたバンドのボーカル、それがこの娘だった。
パワフルで伸びのある歌、会場を湧かせるマイクパフォーマンス、ダンスも完璧だった。
そんな人が仲間なんだ!
「私のことは美須々って呼んで!」
「わかった!じゃあ私のことも花梨って呼んでね!」
美須々……美須々かぁ!
きれいな名前!
「ところでさ……」
その美須々が、すぐに何かを聞こうとしてくる。
ワクワクしながら!
すっごくワクワクしながら!
「たい……社長から、私の同期になる人について噂程度には聞いていたんだけど、花梨って、マスターアイドルを目指しているんだよね?」
……あ、それかぁ……。
正直、ピーポー君に言われて、ノッちゃったところが大きいんだけれどね……。
最強のアイドルであるマスターアイドル!
それは何なのかわからないけれど……。
でも……うん!
「そうだよ!それが、私の覚悟!」
ピーポー君さんは、私にそうなってほしいと期待してくれている!
だったら、私はその期待に応えたい!
「そっか……そうなんだ……」
「って言っても、私もまだ最強のアイドルっていうのが何かわかってないし、具体的にどうしたらいいのかもわかってないんだけどね……。まだデビューもしてない私が言っても、説得力皆無だよね……あはは……」
私の中では、絶対に到達したい目標になったそれは、きっと他の人からすると、青臭くて馬鹿らしいモノに見えると思う。
それでも構わない!
だって、それが夢だから!
「そうだね……。でも、それでもいいんじゃないかな?」
だけど、眼の前の彼女は……。
すごく綺麗で、歌も踊りもすごい彼女は、私の言ったその夢を笑わなかった。
「そう……かな?」
「うん。だってさ、アイドルなんて、ファンの皆に夢を届けるお仕事でしょ?だったら、自分だってすごい夢をもっていてもおかしくないよ」
「……そう言ってもらえると、嬉しいな」
私の夢を笑わない人がいてくれる……。
きっとピーポー君さんも笑わない。
だけど、やっぱり同じアイドルを目指す人にそう言ってもらえると、違う感動がある!
「それに……」
それだけで終わらないのが、私が終生のライバルだと認めたこの女の子のすごいところなんだけれど。
「私だって、目指しているから」
「え?」
「私……実は、結構長い期間ブランクがあって、久しぶりにテレビで見たアイドルが、私の知っているアイドルと全然違っていたからびっくりしちゃった」
「あー……今、かなり幅広いよね……」
「うん。歌って踊るだけじゃなくて、バラエティ番組にゲーム、農業やってる人たちまでいるし……。でも……」
美須々が、私と同じように、覚悟を決めた顔になる。
「それが現代のアイドルだって言うなら、私、全部で一番になりたい!どんな仕事、どんな場所でも、最高のパフォーマンスができる、そんなアイドルに!」
あぁ……、この人は、私と同じなんだ。
きっと、アイドルに本気なんだ!
「だから、東西南北中央歌姫!スーパーアイドルに、私はなる!」
「スーパー……アイドル!」
カッコいい……。
自分で言っておいて、相手にはバカにされちゃうだろうな……なんて後ろ向きだった私と違って、美須々は、堂々と言ってのけた。
そして、その自信とやる気が燃える目は、同時に何かを期待していた。
だから……私も同じ目になる!
「だったら、私達はライバルだね?」
「えぇ!社長から貴方の話を聞いてから、今日ここで会ったら絶対そう宣言しようと思っていたの!」
「やっぱり?なんだか、カッコいいセリフを考えてきたなって気はした!」
「えー!?上手く言えたと思ったのに!」
「ううん!すっごくかっこよかったよ!」
「そう?花梨もカッコよかった!」
「ありがとう!」
私のこの夢が実現するかどうかなんてわからない。
でも、そんなの関係ない。
私が私である限り、立ち止まることは無いと決めたんだから!
張り合う相手もできたし、これからはもっと速く走れると思う!
見てて、ピーポー君さん!
いつか絶対、大きな会場を1人で埋められるようなアイドルになってみせるから!
一番かわいい私を。
一番キレイな私を。
ステージの上から届けます!
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こうして、少女たちは出会った。
彼女たちは、それぞれの夢のために走り続ける。
傍目には、とても辛く苦しい道のりに見える。
しかし、ステージの上の彼女たちからそのような悲壮感は伺えない。
ファンに愛と夢を届ける最強の女の子……それが、アイドルだから!
著者 アイコ・サイハテ
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