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「ここが……私が所属する芸能プロダクション……!」
「はい。まだ新築なので、中の家具等はこれから揃えていく所なのですけれどね。所属する皆さんの意見も取り入れていこうという話になっておりまして」
「そうなんですか!」
ここ……商業区の一等地だよね!?
この前まで、ここにはすごく大きなビルがあったはずなのに、いつの間にかそれが無くなって、新しく10階建てくらいのビルが建っていて、そこが私の所属することになる場所なんて……。
ちょっとよくわからないけれど、でも、すごい!
「ここで立ち止まっていてもしょうがないので、さっさと中に名入りましょう」
「あ、はい!」
いけないいけない!
ついぼーっとビルを見上げちゃってた!
でも、本当にすごいんだもん……。
こんな建物をいきなり手に入れられるなんて、ピーポー君さんって、何者なんだろう?
それとも、もう建てているときに芸能事務所にしようって思いついたのかな……?
それはそれですごいな……。
正面玄関から入った私は、誰もいない受付を素通りして、エレベーターに乗り込む。
何階に行くんだろうって思ったけれど、すぐにエレベーターは止まった。
2階が目的地だったらしい。
「2階が、通常の業務を行うオフィスとなっております。事務員が詰めているのもこの場所ですね」
「へぇ……新品の木の香りがする……」
「デスクに最高級のトレント材を使用しておりますので、その香りでしょう。社長が拘ったそうですよ」
「トレント!?しかも最高級!?すごい高いんじゃ……」
「はい。だからこそ、だそうです」
ここから見える2階のフロアは、そこそこの広さがあるのに、そこに見える木の机が全部最高級のトレント材って……どれだけお金がかかったんだろう……。
「とはいっても、先程も申し上げた通り、まだまだ事務用品もあまり用意できていない状態ですけれどね」
「あー、確かに机と、椅子が何脚かあるだけですね」
「まあ、こちらは追々で……。今は、プロデューサーの部屋へ向かいます」
「プロデューサー!?なんだか、本当にアイドルになったみたいです!」
「ええ、是非売れっ子になってくださいね。私達のお小遣いにも影響しますので」
「お小遣い?」
「失礼、給料、でした」
「頑張ります!」
プロデューサー……かっこいい響き!
マネージャーもそうだけれど、一気に本物の芸能人って感じになったなぁ……。
フロアの奥の方に連れて行かれる。
途中、いくつかドアが有ったけれど、その殆どが開けっ放しになっていて、まだ中がからの状態なのが見えた。
これから、私達が頑張れば、この部屋も埋まっていくんだろうなぁ……。
その中で、閉めてある数少ないドアの一つをアイコさんがノックする。
『はい、どうぞ』
「失礼します」
どこか聞き覚えのある声がすると、アイコさんがドアを開けて入室した。
それに習って、私も入る。
「失礼します!」
「はい、どうぞ。お久しぶり……というほどでもありませんか。待っていましたよ、仙崎さん」
「え?……あれ!?天瀬院先輩!?」
そこには、この前の学園祭のライブでお世話になった天瀬院薫子先輩がいた。
え?どうして……?
「私が、貴方達のプロデューサーを務めることになりました、天瀬院薫子です」
「先輩が……プロデューサー!?」
「ええ。とはいっても、私も全くの初心者ですけれど……。貴方と一緒で、社長にいきなりスカウトされました」
「そうなんですか」
「ええ。でも、安心して下さい。あくまで私がプロデューサーという体で始まりますが、アイコさんをはじめとした方々がサポートしてくださるので。お互い、全力で成長していきましょう。私も、自分の体を差し出すくらいの覚悟で臨みます」
「はい!よろしくお願いします!」
よかった、知らない大人の人ばっかりなのかと思っていたけれど、知ってる人がいるだけでも安心できるな……。
「では、アイコさんの指示に従って、まずは事務手続きを終えて下さい。その後、もう一人の候補生にも紹介しましょう」
「もう一人!?そっか、仲間がいるんですね!どんな人なんですか?」
「どんな……ふふ、会えばわかりますよ」
そんな含みのある笑顔を最後に、私はプロデューサーの部屋を後にした。
そのまま、ガランとした事務机で色々な書類に必要事項を記入していく。
うぅ……せっかくの春休みなのに、テストでも受けている気分……。
「書く書類、いっぱいあるんですね……」
「そうですね。これは、学園の部活でも同好会でもなく、正式なお仕事ですから。面倒だとは思いますが、この手のルールは、会社を守るためのものであると同時に、貴方自身を守るものでもあります。しっかりと読み込んで、活用して下さい。特に、福利厚生の事項は重要です」
「すごいですよねこれ……社員であれば、社食の利用は無料って……。しかも、希望者は、社内の寮に無料で住めるなんて……」
「そこもそうですけれど、毎日おやつタイムとお昼寝タイムがあるんです」
「あ、そこ重要なんですね」
「重要です」
すごくクールで綺麗な人なのに、このアイコって人、デコトラで乗り付けてきたときから薄々思っていたけれど、もしかして変な人なのかな……?
そこから1時間位かけて、私はやっと事務作業から開放された。
疲れたけれど、これで会える!私の、初めてのアイドル仲間に!
「では、どうやら仙崎さんも待ち切れないようなので、レッスンルームへ向かいましょうか。そこに、彼女もいるはずです」
「あはは……はい!すっごく楽しみです!」
そんなに顔に出てたかな?
でも、やっぱり楽しみだもん!
またエレベーターに乗って、今度は7階へ。
7階は、様々なレッスンができるようになっているらしい。
ダンスも歌も、専門的な指導が受け放題だって書いてあったけど、本当なのかな?
気にはなるけれど、確認するのは後にして、今は仲間だ!
向かった先は、壁の一つが全面鏡になっている部屋だった。
きっとダンスレッスンをする部屋なんだと思う。
その中で、汗だくになりながら踊っている女の子がいた。
「……あ!貴方は!」
「え!?……あ、この前学際ライブに乱入した時の……!」
それは、とてもキレイな、そしてメイド姿が似合いそうな女の子だった。
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