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「これはどういうつもりだ!?」
最後の締めに、王都東京最大のテレビ局である『テレビ王都』を包囲し、全社員の80%を潰してから移送する準備をしていた所、随分と横柄な声が聞こえてきた。
そちらへと目を向けると、警察官の偉い人の格好をしているおっさんがいる。
アレは確か……。
『警視総監ワン?こんなところに何か用ワン?』
「貴様!その舐めた格好と口調はなんだ!」
『キミのところのマスコットワン』
「そんな事はどうでもいい!貴様!ここで何をしている!?」
どうでもいいなら黙ってろよ。
なんて言おうとしても、多分自動でもう少しマイルドな表現にされてしまうので止めておこう。
『ワルモノをやっつけたワン』
「何を勝手なことを!これは完全なる我々警察の管轄への侵害だ!そもそも、貴様に逮捕権などないだろう!」
『あるワン』
「嘘を付くな!学生のお遊びでは済まないぞ!」
『王様から直々に許可を貰ってきているワン』
「……なに……?」
今まで何もしてこなかったアンタに付き合っている余裕なんて無いんだよ。
俺は、今すぐに綺麗な芸能界を実現する必要があるんだ。
そのためなら、幾らでも大鉈を振るうさ。
そりゃもうバッサバサと切り捨てるぞ。
「どうせ出任せだろう!」
『事実ワン』
「ならば証拠を見せろ!」
『キミに証明する必要がないワン』
「私は、警視総監だぞ!?」
『もう違うワン』
「なんだと!?」
うるさいなぁ……。
静かにしていてくれよ……。
『なんで僕がキミ達警察に話を通さずに行動したと思っているワン?』
「貴様がガキらしい自分勝手な正義で突っ走っただけだろう!」
『正義なんて自分勝手なもんワン。でも、少なくとも今この瞬間、法的な正義はこっちにあるワン』
「学生が知ったふうなことを!」
『キミが情報漏洩をしまくっていたことも、その対価にかなりの報酬を得ていたことも調べがついているワン』
「……は?」
『そんなキミに情報を渡す訳が無いワン』
真っ黒だもんこいつ。
恐喝、贈収賄、強姦、売春、傷害、誘拐、殺人教唆と、今回捉えた奴らの中でもトップクラスのバラエティに飛んだ経歴をお持ちだ。
もちろん、処刑相当。
『今、キミのお仲間たちも別働隊が捕まえているワン。大半が二度と自由になれないくらい悪いことしていたみたいワンね』
「ちょ……ちょっとまて!そんな事が許されるわけ」
『許可ならともかく、僕が許しを求めるとしたら、神様と家族にだけワン。そっちには、ちゃんとお伺いを立てているからご心配無用ワンね』
「貴様……!」
わなわなと、顔の色を青くしたり赤くしたり忙しいおっさんの相手も飽きたな……。
さっさと犯罪者を全員何とかしてしまいたいのに……。
『そもそも、今この場所に外から入ってこれる人は、逮捕されるに足る行為をやっていた人だけワン』
「何を証拠にそんなことを……!」
『簡単だったワン。キミ達みたいに、他人を食い物にして私服を肥やすような人たちは、自分で色々証拠を保存しておかないと不安になっちゃうみたいで、いくらでも証拠は集められたワン』
こっちには、現時点での全人類が所有するコンピューターを総動員しても勝てないような性能のAIハッカーが3人もいるんで……。
最近は、ソラウや亀ズ、あとシオリとソフィアさんも似たようなことができるようになってきた。
物理的な証拠なら、うちの猫がいくらでも潜入して持って帰るし……。
『というわけで、キミも豚箱行きワン』
豚箱って単語は変換されないのか……。
基準がわからんな。
「だ……だいたい、これほど大々的に検挙したところで、収容する場所も無いではないか!?」
『それも心配いらないワン。新しく数万人収容できる最新式の刑務所が完成しているワン。場所は極秘だし、仮に脱獄したとしても、よほど魔術に秀でていない限り、刑務所の外に出てもすぐに魔獣に食われて終わりっていうすごい場所ワン。楽しみにしていてほしいワン』
「そんな大々的な工事を私に完全に秘密にしてまで行っただと!?冗談も大概にしろ!」
『…………そうワンね。冗談どころか、喋るのも疲れたワン』
ショットガンのストックを使って、瞬時に警視総監の両手足を砕く。
俺の動きを把握しきれなかったらしく、自分がどういう状態になっているのかわかっていない顔をしながら、おっさんが崩れ落ちていった。
「あっ……ぐああああああ!?」
『うるさいワン』
かわいいかわいいぬいぐるみの右脚で蹴りつけ、警視総監の顎を砕いた。
どうせもうこいつから得なければならない情報もない。
だったら、刑務所へいくる前に静かにさせておくべきだろう?
顎が砕けていると、うまく声を出せなくて、うめき声くらいしか出てこないんだよな。
「んんんんんんんんん!」
『痛そうワンね〜……。まあ、自業自得だし、可哀想には思えないワン』
ビクンビクンするおっさんを自動運転護送ドローンに放り込む。
これは中々のスグレモノで、このドローンに人間を入れると、刑務所へと全自動で送られるんだ。
もっというと、俺が新しく用意した刑務所は、基本的に普段は人間の作業員がいない。
ほぼ全自動の近未来的な場所だ。
清掃から食事の世話、受刑者へのごうも……教育まで、作業ロボットが担当してくれる。
自殺すら許してもらえないぞ?
『……にゃ。全員拘束できたみたいニャ』
『よくやったワン』
『これ、これからこのテレビ局やっていけるニャ?全社員の8割が逮捕にゃよ?』
『無理なら自分達で新しくテレビ局を作るだけワン。腐った企業は、潰れるなら潰れたほうが良いワン』
『まあ、最近テレビなんて全然見てなかったから、別にいいんだけどにゃ』
大丈夫、少しの辛抱だ。
暫くは、同じCMがエンドレスで流れ続けるあの前世での震災時みたいな酷い番組構成のテレビ局が多くなるとは思うけれど、ここで中途半端にしてしまったら、それこそ何の意味もなくなってしまう。
やるなら徹底的に!
『犀果様、最後の捕縛者を移送完了しました。これにより、全作戦が終了しました』
『わかったワン。じゃあ皆、最新の刑務所、「ラフレシア」を見学にでも行くワン?』
『いいえ、私はそろそろ帰って家事をしなければなりませんので』
『ピリカもなのです』
『イチゴは、ますたぁのベッドで休むね?』
『おやおや、希望者が少なすぎでは?』
『『女性であれば、ここまであら事を行った後は、普通シャワーを浴びるくらいはしたいのでは?私もそうしたいですし』』
『シオリ!温泉が良い!』
『ワシは、贅沢言わんから肩を揉んでくれんかのう大試?なんなら、もう少し前も揉んでも良いんじゃぞ?』
荒んだ心に、家族のグダグダ会話が染みて、これは……。
『そういえば、犀果様』
『アイ、どうした?』
『あの警視総監がオファーをだしたせいで、犀果様がそのキグルミを着ることになったらしいですよ。仕事をしているというアピールがしたかったようですね。しかも、無料で』
ザマァ!と言ってやりたい。
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