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命を狙いに来てくれるなら、相手の気持ちも尊厳も無視して攻撃できる。
だけど、相手が普通に良い子で、別に命を狙われているわけでもない。
見た目も超がつくほど美人で、胸も大きい。
そして、衆人環境下での戦闘だ。
俺が手を出した段階で、ほぼ間違いなく俺が悪者。
それがわかっているから、俺は反撃を躊躇っていたんだ。
強いて言うなら、全力で俺を攻撃してきて、俺が危機感を感じるほどの窮地に陥れられた場合、条件反射的に反撃をしたという体裁を整えられないかな……なんて事も考えていたんだけれど……。
まさかさぁ……あっちがやることなすこと思春期の少年の劣情を刺激するような事なんてさぁ……。
それを、どうやら天然で、無自覚にやらかしているらしいんだから始末が悪い……。
この厄介さは、俺にとって、神クラスの相手をした時や、小さい頃に聖羅のサポートを受けつつも倒しきれなかった対熊戦に匹敵する。
相手が反応できないスピードでなんとかしようとしたけれど、金髪ドリルさんのギフトのおかげか、かなり良い反応をされてしまって、最小限での接触による勝利という俺の狙いが尽く狂わされる……。
現時点で、この会場にいる人間の99.99%くらいは、俺をゴミか何かを見る目になっていることだろう。
俺だって好きでこんな状況に追い込まれている訳では無い。
……いや、本当だぞ?
「変態!変態ですわ!」
「そっちが抱きついてきたんだろうが!人のせいにするな!」
「ううぅ!ううう!その通りすぎて反論ができませんわ!」
これだよ!
ここで理不尽で胸糞な罵声を浴びせ続けてくるなら、俺だって「うっせーばーか!」ってセクハラ同然の極め技ぶちかますよ!
でもこの娘そう言うんじゃないんだもん!
むしろこっちがごめんなさいしたくなるんだもん!
うーん……。
いやさぁ……。
女性相手だからって攻撃をためらうのって、それはそれで相手を侮辱している事になるのかもしれないけれど、こればっかりはなぁ……。
『大試』
俺がぐだぐだと頭の中で考えながら、この状況を解決する手段を模索していると、会場のスピーカーから聞き慣れた声が聞こえた。
なにかと思えば、司会とレフェリーを兼任しているアイドルちゃんからマイクを強奪した聖羅と目が合う。
『そろそろ大試が女の子相手でも非情な戦い方ができるカッコいい男の子だってところを見たい』
あ、はい。
「ごめん、金持さん」
「絢萌と呼んで下さいまし!その名字、実はあまり好きではありませんの!」
「……絢萌さん、これから俺は、遊び無しの攻撃をする。その結果、多分女性にとって耐え難い扱いをしてしまうと思う。許せとは言わないけれど、覚悟はしてほしい」
「……ふん!今更ですわ!例え貴方にどれだけ辱められたとしても、私は己の力を示すのみ!そして、2年進級時に1組に入って、良いお仕事と素敵な旦那様を手に入れ、幸せな人生を歩むのですわ!」
望みが割と普通ぅ……。
金髪ドリルなのに、素朴でいい夢ですね……。
耐えられるか?
この娘をズタボロに……もしくはセクハラの末死亡判定に持ち込むことに……。
耐えられる!俺は!聖羅に期待されているから!そう思わないと耐えられない!
「行くぞ!」
「望むところですわ!」
「望まないでほしい!」
思わず本音が出てしまったが、そこは目を瞑ってほしい。
ステージに足形の凹みができるほどの力で踏み込む。
もはや常人には見えない程の速度だろう。
それでも、彼女は反応する。
「っ!!!!」
ほんと、この娘が100レベルになったら相当な強さになりそうだな……。
できれば、将来的に家の管理地……というより、開拓村で働いてくれんだろうか……。
お手軽に100レベルにしてあげるから……。
ここで絢萌さんは、今までとにかく拳で行ってきた攻撃を蹴りに変更してきた。
正確性は、拳に劣るかもしれないけれど、一発の威力で言えば確実に蹴りのほうが上だ。
近接戦闘をせざるを得ない俺相手であれば、わざわざ突っ込んでくる相手に合わせて脚をふればいいだけなので、命中率の問題はクリアできると考えたんだろう。
……だけど、それは悪手だ……。
脚っていうのは、弱点でもある。
特に、俺のように相手を掴んで抵抗を封じるような戦い方をしようとしている者相手だとな!
俺は、唸りを上げる絢萌さんの右足首を掴んだ。
「な!?」
驚愕の表情になる絢萌さんだけれど、まだ彼女は諦めない。
すぐに俺が掴んでいる右脚を軸にして、空中に浮いたまま左脚を振るってきた。
当然左足首も掴む。
「あっ……いやっ……」
極限の集中力で引き伸ばされた時間の中で、絢萌さんの絶望の表情と声を感じる。
でも、もう止められない……。
これは……これだけは使いたくはなかった。
だけど、状況がそれを許してくれなかった……。
絢萌さんを逆さまにする。
両脚をそのままおっぴろげた状態で肩に担いだ。
「これで終わりだ!!!!!」
「なんなんですの!?なんなんですの!?」
必死に股間を隠そうとする絢萌さんを肩に担いだままジャンプする。
上昇した身体能力によって20m程飛び跳ねた俺は、そのまま重力に従って落ち始めた。
「きゃあああああああ!?」
俺の顔の隣で上がる絢萌さんの悲鳴をBGMに、地獄への一方通行を加速していく。
「ドロップ式レッグスプレッド!!!!!」
そして、ステージへと自分ごと絢萌さんを叩きつけた。
両脚を思いっきり開いた状態で。
セクハラだと言われれば反論のしようもないけれど、それでも抵抗はしようと思う。
俺は悪くない。
どこかの超人たちがやりそうな技を女子相手にやらかす俺の姿と、あまりにも恥ずかしい絢萌さんの姿が、大型スクリーンに映し出されていた。
「ぐぶっ……!まだ……負けていませんわ……!」
「マジかよ!?」
この状況でも、彼女は諦めていない。
感触からして、体中の骨が折れているのは確実なのに……。
だったら、こっちも最後までやりきる!
つまり、この体勢のまま死亡判定が下るまで待つ。
金髪ドリルが俺の上から無くなるまで、そこから5分の時間を要した。
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