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『おっとおおおお!?これは予想外の展開です!ここまですべての試合で相手を素手で圧倒してきたタイシーマスク!ここにきて防戦一方となっております!これは決まったかあああああああ!?』
金髪ドリルさんの拳が唸り続ける。
格闘漫画の如く連打されるその技に、俺は視線を誘導されてしまってマトモに戦えていない。
いや、我慢しようとはしているんだぞ?
でもさ……流石に目の前で物凄い美少女が、金髪ドリルを振り回しながら、セクスィな格好で、体の一部をブルンブルンしているんだ。
自分で自分をごまかすのにも限界がある。
ほぼ反射的に目が動く!
「この程度ですの!?犀果大試!!!!!」
そんな俺の状態をみて、自分が圧倒的に有利な状態であると考えたのか、いっそう攻撃に力が入る金持さん。
揺れも絶好調だ。
「くっ!厄介な奴だな!」
「敵にそう言われるのは、称賛されるのと同義ですわよ!」
「うん!正直めちゃくちゃ称賛したいけれど、それすると社会的な何かを失いそうな気がするからできないんだ!」
「私を称賛するだけでそんなことになるんですの!?」
「そう……なんだけど、金持さんは別に何も悪くないから気にしないでくれ!いや、世間知らずなのはちょっと治したほうが良いと思う!」
「御託はいりませんわ!さっさと本気を見せて下さいまし!」
うるせーな!
俺だって本気出したいよ!
でも、今この戦いは、別に命がけの戦いというわけでもない。
もし、互いの命をかけた戦いだというのであれば、ここで金持さんをズタボロにしても文句を言われる筋合いはない。
でも……でもだ!
今は命がかかっているわけでもなんでもないんだ!
ってことは、練習試合みたいなもの。
そんな状況で、こんなセクスィな格好している純なお嬢様相手に俺がプロレス技を出すとどうなるか?
答えは簡単。
俺が死ぬ。
社会的に。
別に、そこらのどうでもいい一般人たちに何を言われようと俺は気にしない。
……ごめん嘘だ。
そこらの女子たちに、「あ、セクハラ野郎じゃん」「うわぁ……こっち見てるし……」「なんか犀果臭しない?」とか言われてるの聞いたら、普通に誰もいない場所で泣くとは思うが……。
それでも、まあ我慢はできる。
問題は、うちの家族たちに思いっきり見られていることだ。
俺が金髪ドリルさんのおっぱ……体の一部のや躍動に目が釘付け状態なのも、彼女たちには見えてしまっているだろう。
多分俺達の動きが早すぎて、100レベルに達していない一般人たちには何もわからないだろうけれど、うちの家族たちは例外なく100レベル超えてるからなぁ……。
怖くて、聖羅たちが座っているはずに貴賓席のほうが見えない……。
大体がさぁ!
金持さんも悪いって!
なんでそんな格好でこんな血腥い催しに出てくんの!?
俺がどんな攻撃しても、絶対周りからの印象最悪になるじゃん!
いや、それを狙ってなのかもしれないけれど……。
「なぁ!それ、痛くないのか!?」
「反撃もせずに痛みを与える技でも持っているんですの?痛みなんてありませんわ!」
「いや、俺の攻撃とかじゃなくて、アンタの動きにアンタ自身が負けたりしないのかなってさ!」
「私のギフトは『ファイター』!元々素手での近接戦闘に適正がありますし、何よりこの程度でどうにかなるようなヤワな鍛え方などしていませんのよ!」
そうかなぁ!?
俺の目には、めっちゃ柔らかそうにみえるけど!
これはまずいなぁ……。
正直、東京に出てきてから最も相性の悪い相手な気がする……。
どうしよう……棄権するか……?
別に勝ちたいわけでもないし……。
あーでも、聖羅が期待している以上負けるのは嫌だなぁ……。
じゃあ、ある程度周りから色々言われるのを覚悟の上で、短期決戦で倒すか……?
それしかないよなぁ……。
よし!そうしよう!
多少の批判を覚悟するとしても、できれば最低限に抑えたい。
それを前提に考えるなら、どう戦うべきか?
うーん……なんとか転ばせてアームロックでもするか?
いやダメか……そんな事したら金持さんのあの部分に俺の脚が当たる……。
じゃあ、接触が最小限にする技ならどうか?
ロメロスペシャルとか……いやダメだな!絵面が酷い!
野郎どもは大喜びだろうけれど、女性陣からのパッシングに俺のガラスのハートが耐えられない!
あーもう!いい考えが全く浮かばない!
こうなったら、無理やり懐に入ってサバ折りでもするか?
即死亡判定で決着できるくらい素早くやればそこまで批判もされない気がするし!
よーし決めた!そうしよう!もうそうしよう!
俺は、視線誘導を受けながらも、常人では反応できない速度で金髪ドリルさんの懐へと踏み込んだ。
「甘いですわ!」
だが、相手も簡単には俺の術中にハマってくれないらしい。
これで倒すつもりだった俺に大して、彼女は瞬時に反応した。
ファイターというギフトによるものなのか、さすがの俺もあのタイミングで反応されるとは思っていなかった。
ただ……。
「ここまでの2戦でアナタのことは研究させていただきましたわ!犀果大試!アナタを倒すのに最も適した間合いは、これですのよ!」
金髪ドリルさんの顔が近い。
何が起きたのかと言えば、金持さんが俺に抱きついてきているんだ。
「何考えてんだ!?」
「ふん!アナタの攻撃は、基本的に多少の間合いがあったほうが使いやすいものが多く感じましたわ!ならば、最初からゼロ距離であるのなら、流石のアナタもやりづらいのではなくって!?何より、この間合なら、ファイターがきっと最強ですわ!」
ファイターかどうかなんて関係ねーよ!
この体勢やめてくれ!
本人は力のかぎり締め上げて、俺の背骨でもぶちおるつもりなのかもしれんけど、俺はこの攻撃でなんのダメージも受けていない。
だが!だがだ!
客観的に考えてほしい!
「あのさ……」
「負けを認めるのであれば、痛みも感じさせずこのまま背骨を折って差し上げますわ!」
「いや、そうじゃなくて……。旨を押し当てるのやめてくれないかなって……嫌ってわけじゃないんだけれど……」
「胸……?…………はわわわ!?」
直後、金持さんが後ろに飛び退った。
顔を赤くして、胸を腕で隠しながら。
だから、その格好は逆にエッチだっつってんだろ!
「くっ!この……変態!」
酷い言われようだ!
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