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俺は、実のところプロレスに詳しくはない。
実際に生で観戦したプロレスなんて、市民体育館に興行でやってきたどっかの団体のしかないし、テレビでもあんまり見ていない。
俺のプロレス知識は、漫画と、アニメと、本と、テレビと、ゲームで得たものばかりだ。
大したものではない。
前世の冬休みを女子プロゲームで潰したのも今ではいい思い出だ。
やけにキャラが多くて、俺に刺さるデザインのキャラも多かったんだけれど、そのキャラの多さが災いして、そのキャラのスチルは1人につき2枚。
戦闘中なんて、髪の長さと色を換えているだけで、全キャラ共通。
キャラゲーの側面が強そうなのに、そのキャラの掘り下げがほぼないという不思議なゲーム
そんなんだから人気が無く、知名度はまったくなかったらしいけれど、出演していた女性声優がものすごく多かったから、暫くたってから知る人ぞ知るゲームとしてすごいプレミアがついたというゲームだった。
団体経営を頑張っていたけれど、どこかでゴールに辿り着くのかなと思いながらやり続けてほぼ1ヶ月。
「あれ?これゴールあるゲームじゃねぇな?」って気がついてやめちゃったんだよなぁ……。
でも、2も買った。
予約して買った。
一番高いバージョンを買った。
そんな俺の好きなプロレス技は、基本的に極め技だ。
このマスクを用意してくれた聖羅たちが期待している技は、恐らくなんちゃらドライバーとかそういう類の技なんだろう。
ドン!とやってバン!って感じの。
でもなぁ……極め技が得意な選手のいぶし銀感がさぁ……良いんだよなぁ……。
少しでも隙を見せたら、なし崩し的にダメージを与えていく感じ。
しかも、脱出できない。
超強い。
カッコいい。
ただ、流石に有刺鉄線に爆薬設置しまくるアレはヤバいと思う。
「ふっ……来ないのか犀果……。ならば、こちらから往くぞ!」
刈り上げメガネが、槍を構えて向かってくる。
戦うためにこの大会が開かれているんだから当然なんだけれど、なんで俺はこんな格好で戦っているんだろう……。
いや、まて!
落ち着くな!
冷静になったら負けるぞ!
己の心に!
聖羅たちが、俺の戦う姿を見たがってる。
それだけで、俺が戦う理由としては十分だろう。
というわけで、俺はこれからレスラーとして戦わないといけない。
レスラーとして、基本素手でだ。
素手での戦闘とは、どんなに強いおっさんでも、包丁を持った素人に負けかねない程の不利な行為ではあるけれど、だからといって負けるわけにはいかない。
さて、どう戦ったもんか……。
見栄えを意識するなら、やっぱりルチャリブレのような飛び技主体の派手な戦い方が良いんだろう。
なんちゃらマスクを意識するなら、攻撃力の高いドンバン音が出る技だ。
だけどやっぱり、極め技がいいなぁ……。
よし!フィニッシュホールドを極め技で固めて、そこに至るまでに派手な技で構成していこう!
そうと決まったら即実行だ!
突撃してくる相手に使う技といえば?
そう!ラリアットだね!
ロープの反動もないのにすご勢いで来やがるぜこいつぅ!
「チェストぉ!」
「ごぼぉ!?」
刈り上げメガネの槍を最小限の動きで避け、そのまま俺の右腕をやつの胸から首のあたりにぶつけていく。
……思ったよりもマトモに入ったな……。
生まれて初めてやったけど、こんな感覚なのかぁ……。
振り返ると、刈り上げメガネが空中で回転しながらステージに落ちた。
……審判!カウント!あれ?カウントとかあるのか?
『ダウーン!開始早々凄まじい攻撃です!犀果選手のラリアットが決まりましたー!この武闘会で未だ嘗て、ラリアットを決めた選手がいたのでしょうか!?……え?ある?……犀果選手のお母様が?えぇ……?』
この試合、ぶっちゃけレフリーという物が必要ない。
何故なら、死んだ方が負けってルールだから、死んだら自動的に外に転送されるこの試技エリアの仕様上、人間が判定する必要がないんだ。
だから、一応のレフリーを兼ねている総合司会のアイドル同好会さんの舌も回る回る。
解説に集中してるな。
「ぐっ……く……ふははは……それでこそ!それでこそだぞ犀果大試!」
あ、刈り上げメガネが復活した。
トドメを刺すかどうか悩んだけれど、まだ元気そうだな。
「だが、惜しいな……。それほどの動きができる剣士が素手で戦うなど……。貴様には、剣士の誇りはないのか?」
今しがたその素手の剣士にラリアット決められたヤロウが何言ってやがる?
大体が、お前は大きな勘違いをしているぞ?
「まずだが……俺は、剣士じゃない」
「なんだと!?」
『えぇ!?』
「「「「「「はぁ!?」」」」」」
会場中から困惑の声が聞こえる。
何故……?
「俺は、自分が使える中で一番強い攻撃手段が剣だから剣で戦っているだけだ。剣より銃が強いなら銃を使っているし、ミサイルが撃てるなら撃ってるし、空間を歪めるマイナスドライバーとかλなドライバーとかでも使えるもんなら使うさ」
「お前は、剣聖の息子だろう!?」
「いや、親の話しをするなら、俺の母親は賢者だし、魔法だけじゃなくて殴り合いでも強いぞ?」
開拓村の大人たちが酔っ払って全員で喧嘩したことがあった。
具体的に言うと、母さん対他の村人全員っていう恐ろしい比率で。
その状態で、母さんは勝った。
そもそも、開拓村にいる人達は、子ども以外皆母さんに負けて手下になった人たちだからなぁ……。
「というわけで、お前はこれからプロレス技で倒す。刃物など必要ない」
テラテラマスクで言い放つ。
俺は、一応レスラーだから。
今だけは。
「ふ……やれるものならやってみろ!」
また刈り上げメガネが突っ込んでくる。
さて……この全く反省しない男を、ラリアット以外でどう倒すべきか……。
迷うなぁ……。
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