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私の名前は、天瀬院薫子。
私の名前を聞くと、貴族のご令嬢だと勘違いされることが多いですが、私は唯の平民です。
お役所で家系図を確認すると、7代前のご先祖様まで遡れます。
その方が、お貴族様に憧れて、自分でお貴族様っぽい名字を考えてつけたのが、この天瀬院らしいですが、私としては、あまり好きではありません。
平民であるにも関わらず、貴族のように見られることもありますし、当のお貴族様方からすれば、背伸びした田舎ものか何かに見られてしまうことでしょう。
けれど、結局は普通の家の普通の女、それが私です。
ご先祖様は、きっと今の私の立場を見れば驚くことでしょう。
現在私は、お貴族様たちを相手に仕事の指示を出すこともある立場となっています。
元々は、勉強が多少できると言うだけでしか無かった私。
しかし、この学園で、クラスメイトとなった女性……現生徒会長の彼女と出会ったことで、とても劇的に人生が色付きました。
実力を重視する彼女は、私のような、名前だけ先行しているような女でも、ちゃんと頑張りを見て評価してくださる方であり、それでいて己自身でも仕事を多くこなす才女でした。
彼女のお陰で、私の夢が少しだけ現実味を帯びてきたのです。
その夢とは、『男性アイドルのプロデューサー、もしくは、マネージャーとなって、最終的に担当した男性アイドルと結婚すること』です!
本当に夢物語のようなものですが、私はこれを諦めるつもりはありません!
いつかこの夢が現実になると信じて努力してまいりました。
今回の学園祭で、バンドフェスを行うという話が出た際に、私は一も二もなく担当に立候補しました。
この実績と経験を活かして、芸能界への足がかりを作りたかったんです。
ですが、その目論見は、早々に頓挫しかけました。
あれだけ開催を希望する声があったにも関わらず、参加したがるバンドが2つしか現れななかったのですから、頭を抱えたくもなります。
そんな私を救ってくれたのは、またもは生徒会長のあの方!
武田水城様、ああ……なんて素敵な方なんでしょう……!
美しくて大貴族の出身で、更に自らも有能であるなんて、もう芸能界にいつでも踏み込めるじゃないですか!
会長なら、その気になればすぐにでも若い男性アイドルをデビューさせて、片っ端から食べていくこともできるんでしょうね……。
うらやましい……。
そんな会長ですが、去年いきなり婚約してしまいました。
お相手は、去年いきなり貴族になったという家の問題児。
学園に入学してからすぐに大きなトラブルをいくつも起こしているにも関わらず、会長以外にも何人もの美少女と婚約を結んでしまったあの犀果とかいう子です。
髪は短いし、顔も平凡でそんな甲斐性があるようには見えないんですけれど、何故か一部からはモテるそうで、会長も彼といるときには良く笑っていますし、彼に何かをお願いした次の日には、睡眠時間を良くとれたのかスッキリとした顔で仕事をしているのを見ることができます。
正直、彼は魅了の魔術が使えるのではないかと疑っているのですが、周りの人たちはどう考えているのでしょうか?
髪が長くてイケメンの男性でもない限り、あんなにモテるなんておかしいと思うんですけれど……。
いや、イケメンの要素にロン毛は必要ですよ?
これは絶対です。
譲れません。
そして、よりにもよって今回会長が頼った相手が、またもやその犀果大試という彼だったのです。
出場バンドが2つしかなく、開催さえできず、私の無能をさらけ出すだけになりかねなかったこの状況で、いきなり楽器演奏を引き受けてくれた彼に感謝自体はしているのですが、一緒に出演する女性陣が皆高位貴族や聖女様、そして、王女様だというのですから、魅了の魔術の疑いは尚深くなったと言えるでしょう。
それだけではありません。
会長は、他にもバンドを用意したそうなのです。
といっても、学園の生徒ではなく、学園に通う生徒の世話をするメイドというギリギリグレーな参加者によるグループなのですが、それも犀果家のメイドたちなんだそうです。
一応責任者として事前に面通しはされましたが、超がつくほどの美女と美少女しかいませんでした。
会長曰く、彼女たちを今回のイベントの起爆剤として、トップバッターとして投入する気だそうです。
しかも、マイクパフォーマンスで煽ってもらう予定だとか。
あまりにもやりすぎれば、観客のボルテージは逆に下がりますし、大したことがない煽りであれば、盛り上がることすらできません。
素人にそこまで高度な事ができるのかは疑問ですが、会長が認めたということは、それができる相手だということなのでしょう。
一体、犀果家というのは、というより、それを牛耳る犀果大試という男の子は、一体何者なのでしょうか?
やはり、魅了の力を持っているの……?
その力を使って、会長もいつの間にか籠絡されて、アレをアレされてしまったんですかね……?
そう考えると、今この舞台袖に待機している犀果大試さんが怖い人に見えてきました……。
元々悪評もすごい人ですし、警戒するに越したことは……。
「なんで家のメイドがステージに……?」
は?知らんの?
なになに?無知系少年気取ってる感じ?
なにそれ……まさか私を誘ってるの?
……は!?私は一体何を!?
危ない……何も知らない少年に色々教えたいという私の原初の欲求を突いてくるなんて……!
これが彼の魅了後からの一端ですか!
その手にはノリませんよ!
っていうか、それどころじゃないですね。
トップバッターのメイドさんの煽りがうますぎて、4番手予定のグループの女の子が対バンに出てきて順番ぐちゃぐちゃになったんですけど……。
え?このままやるんです?マジですか?
いえ……盛り上がっているのでいいんですけれど……。
まあいいですね!
計画通りということにしておきましょう!
目指せ!ナヨナヨ系男性アイドルでハーレムを作る夢の生活を!
感想、評価よろしくお願いします。




