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横線と縦線を組み合わせて構成された基本図。
そこに、変な記号やオタマジャクシを書き込むことによって完成する楽譜。
どの音をどのくらいの長さで出すか、場合によってはどこで息継ぎをするのかまで表示されている便利アイテムなんだけども、俺にはイマイチ理解できない……。
「オタマジャクシがなんぼのもんじゃい……」
「いや、アンタ前世の学校で音楽の時間をどう乗り切ってたのよ?」
「オタマジャクシの上に、ドレミを書き込んで……」
「えぇ……?」
一々そのオタマジャクシがどの音の高さにあるとか考えてられる程の余裕ねぇんだよ!
そんなサクサク読み取れん!
「でも、大試君は普通に楽器演奏してたわよね?それは、どこで習ったの?」
「いや?習った事なんて無いですよ?曲を聞いて、それにあった音が出るように演奏するだけです」
「はぁ?絶対音感があるとか言わないわよね?」
「絶対音感って言うのが何なのかイマイチわからないけれど、耳で聞いた音と同じ音を割り出すのくらいピアノ使えば簡単だろ?」
「そう……かなぁ……?」
「そう言う風に曲を覚えたことが無いので、私からはなんとも……」
音楽経験者たちには、どうやら俺の感性は理解できないらしい。
そりゃすらすら楽譜読めるような人たちに俺の苦悩は分かんねぇよ!
そう言うあたりが、音楽の授業ですらすら演奏できる奴と出来ない奴の差でもある気がする。
あと、単純に練習時間と練習する機会が足りないんだ。
「……いわれてみれば、さっきからアンタが演奏していた曲って、前世でCMとかアニメのテーマソングに使われたものばっかりだったわね。普通ピアノで演奏するような、クラシックなんかは全く無かったかも……。本当に誰かに習ったわけじゃないのね……」
「だから言ってるだろ?人前で演奏したのはさっきのが初めてだって」
我流だよ全部!
正直、ピアノのあのペダルの使い方もよくわかっていない。
音を伸ばす機能だけは何となくわかるけれど、その程度だな。
耳コピしかできん。
小学校の音楽の授業で演奏させられた童謡ですら、最初に他の人が演奏したのを聞いて初めてメロディとして認識できるくらいだったし。
「流石大試」
音楽の授業を体験したことがない聖羅だけは、問答無用で褒めてくれる。
本当は、こんなの褒めるような事じゃないんだぞ?
褒められていたいから指摘しないが!
「昔は、どいつもこいつもそんな感じで音楽を伝えておったんじゃよ」
音楽できる上位者たちが戦慄している中、ずっと姿を消していたソフィアさんが出てくる。
学校の中だからか、JKコスになっているが……。
青少年の教育に悪いセクシーさだ……。
「どういうことですか?」
「楽譜も統一されとらんかったから、殆ど耳で聞いて再現するようなもんじゃった。懐かしいのう……」
そう言って目を瞑り、指で何かの楽器を演奏するような素振りを見せるソフィアさん。
でもその演奏方……ギターの……それもかなり激しいタイプの演奏じゃないっすか……?
デスメタルとか……もしくはギターソロとか……。
「まあ、皆は楽譜読んで演奏してくれ。俺は、アイたちが収録してくれた動画で曲覚えるから」
「……そうね。それで覚えられるなら、そうしてちょうだい」
「頑張りますね!」
「うぅ……緊張するなぁ……家族の前で演奏した時以来かも……」
「迷惑かけちゃうけど、お願いね皆!」
経験者4人は、それぞれ自分のやるべきことを認識し、これからの練習を頭に思い浮かべているようだ。
実に頼もしい。
しかし、ここに1人の例外がいる。
「ねぇ、大試」
「なんだ聖羅?」
「私、楽譜読めない」
「だろうな」
「楽器演奏したこと無い」
「だろうな」
「どうする?」
「……俺が聖羅のパートをギターで演奏するから、それを真似てみてくれ。それで無理そうなら、その時は別の方法を考えよう」
「わかった。それならできると思う」
その言葉通り、聖羅は俺の演奏を見てすぐに、初めて持ったというエレキギターで完璧な演奏をして見せた。
俺が1人で指を血と絆創膏まみれにしたあの日々を飛び越えていくようなその才能に、ただただ脱帽するしかない凡人の俺。
頑張ろう……。
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